7月30日
それを聞いて豚飼は炉近くに寝床を設け、オデュッセウス扮する老人を寝かせ、着替えにしまっていた外衣を掛けてやる。
そして自分はというと外の豚のことが気になり、身支度をして出て行く。
βῆ δ᾽ ἴμεναι κείων ὅθι περ σύες ἀργιόδοντες
πέτρῃ ὕπο γλαφυρῇ εὗδον, Βορέω ὑπ᾽ ἰωγῇ. (14-532,3)
寝に出かけていった、白き牙の豚共が
寝る岩場の窪みの、西風の当たらぬ場所へと
客人と仲間達を家に残して。荒天故に豚の様子が気になるのだろう。
これが第十四歌末尾だ。末尾が豚飼エウマイオスであることはこの歌章の主人公はエウマイオスであることを物語っている。そうしてみると、この寡黙な二行にエウマイオスの人物像が凝縮されているようにも見えてくる。寒夜、豚の傍に寝に行く姿には一種の高貴ささえ漂っている。
『周防大島方言集』届く。この間、老母と故郷の方言の話になった(7月21日の項)。それで、故郷の方言集みたいなものがないかと当たってみたら、この本があることを知って取り寄せたのだ。柳田国男編、原安雄著。届いたのは昭和五二年版だが初版は昭和十八年となっている。柳田のアドバイスのもと地元の学者原が採集・記述したものだ。
先日触れた「イギ、ノンタ、ハブテル、ワヤ」以外にも聞き覚えのある言葉がいくつもある。
サラバエル:掻き集める。「残り物、みんなサラバエル」
モトウラン:つまらぬ。これは「モトラン」と聞き覚えていた。
「モトランこと言ってないで早う寝ろ」
ハバシイ:騒々しい。「ハバシイ食べ方」
エーコロハチベエ:出鱈目。「エーコロハチベエなこと言って」
こうやって書き出してみると、どれもあまり上品とは言いがたい言葉だ。そういう言葉が記憶によく残るということだろうか。