7月5日
そうやってパイエーケス人達が眠っているオデュッセウスを送り届けたのを、オデュッセウスの帰還を快く思っていないポセイダーオーンは見逃さなかった。オデュッセウスの帰還自体はやむなしとしたものの、ゼウスの許しを得て、帰還を助けたパイエーケス人達を船もろとも石と化す。その様を見てアルキノオス王は言う。
ὢ πόποι, ἦ μάλα δή με παλαίφατα θέσφαθ᾽ ἱκάνει (13-172)
おお何ということだ、昔言われた予言が今やついに現実となった
この詩行はそっくりそのままどこかで既に出会った。そうだ、この日録では引用しそびれたが、巨人ポリュペーモスの言葉だった(9-507)。オデュッセウスは巨人の目を潰した後初めて「俺はオデュッセウスだ」と名乗った。その時、かつて「オデュッセウスという男に盲にされるであろう」と予言を聞いていたポリュペーモスは、嘆息してこの言葉を吐いたのだった。場面は異なるがいずれにおいても「運命」というものを感じさせられる。
πατρὸς ἐμοῦ, ὃς ἔφασκε Ποσειδάων᾽ ἀγάσασθαι
ἡμῖν, οὕνεκα πομποὶ ἀπήμονές εἰμεν ἁπάντων. (13-173,4)
私の父の(予言が)、父は言っていた、ポセイダーオーンが立腹するだろうと
我々に対して(立腹するだろうと)、我々が誰でも無事に送り届けるが故に
「誰でも無事に送り届ける」ことに何の非もない。倫理的にはむしろ賞められるべきだ。しかし、海神ポセイダーオーンにとって自らの海の支配、海における生殺与奪の権能を侵すことは許せないのだろう。パイエーケス人達には気の毒の念は禁じ得ないが、『オデュッセイアー』は勧善懲悪の書ではない。
昨日夕方、ヒッグス粒子発見のニュースが流れた。これは物理学における世紀の大発見であるらしい。宇宙生成の秘密解明に繋がるとさえ言われている。
寝床に入って、この宇宙はどうして出来たか、物質は、生命は。私の身体は、心はどうか、というようなことを考えていたら、十分とたたないうちに眠ってしまった。とても学者にはなれそうにない。謎は尽きない。「睡り」もそのひとつだ。