6月23日
もう一つ難所がある。
τῷ δ᾽ ὑπὸ δῖα Χάρυβδις ἀναρροιβδεῖ μέλαν ὕδωρ.
τρὶς μὲν γάρ τ᾽ ἀνίησιν ἐπ᾽ ἤματι, τρὶς δ᾽ ἀναροιβδεῖ (12-104、5)
そこでは畏るべきカリュブディスが黒き水を吸い込んでいます
日に三回吐き出し、三回吸い込むのです
δεινόν: μὴ σύ γε κεῖθι τύχοις, ὅτε ῥοιβδήσειεν:
οὐ γάρ κεν ῥύσαιτό σ᾽ ὑπὲκ κακοῦ οὐδ᾽ ἐνοσίχθων. (12-106,7)
凄まじい勢いで(吸い込むのです)、吸い込んでいる時にそこにいてはなりません
大地を揺する神とてあなたを禍から助け出すことは出来ぬでしょうから
カリュブディスは大渦の神格化だろう。そしてカリュブディスΧάρυβδιςの語源は不明ながら、すぐあとに立て続けに出る動詞ἀναρροιβδεῖ、ἀναροιβδεῖ、ῥοιβδήσειενのῥοιβδέω(吸い込む)と関係がある、あるいは少なくともホメーロスはそう考えていた、と思われる。Heubeckの註では(Χάρυβδιςの)υと(ῥοιβδέωの)οιとは共通に [yu]と発音されていた時代があったと記している。
ῥοιβδέω [roibdeô](吸い込む)もオノマトペーに違いない。
海で怖いものの中で渦は筆頭格だろう。子供時代連絡船で瀬戸内海の島に渡るとき、デッキから渦を覗き込んで、しかりつかまっているいるのに吸い込まれていくような恐ろしさを味わったことがある。それは鳴門海峡ではなかったが、それでも迫力があった。
鳴門海峡、カナダのセイモア海峡、それにイタリアとシシリー島間のメッシーナ海峡は世界三大潮流とよばれることがある。そして、『オデュッセイアー』のカリュブディスΧάρυβδιςはメッシーナ海峡のことではないかとの説があるようだ。