6月19日
最後にへーラクレースの幻像が出てくる。幻像はオデュッセウスに呼びかける。
διογενὲς Λαερτιάδη, πολυμήχαν᾽ Ὀδυσσεῦ,
ἆ δείλ᾽, ἦ τινὰ καὶ σὺ κακὸν μόρον ἡγηλάζεις, (11-617,8)
ラーエルテースの子、才知に長けたオデュッセウスよ
気の毒に、そなたもまた何か不幸な運命を送っているな
「そなたもまた」と言うのは、へーラクレース自身が余儀なく冥界へ降りてきたことがあるからだった。
καί ποτέ μ᾽ ἐνθάδ᾽ ἔπεμψε κύν᾽ ἄξοντ᾽: οὐ γὰρ ἔτ᾽ ἄλλον
φράζετο τοῦδέ γέ μοι κρατερώτερον εἶναι ἄεθλον: (11-623,4)
(冥界)の犬を連れ帰るべく私をここに遣わしたのだ、というのも他に
それ以上に苦しい難行は思いつかなかったからだ
へーラクレースという神話的人物は、その波瀾万丈で人間的、悲劇的な生涯故に人気を博していただろうし、「へーラクレースの十二功業」の神話はホメーロスの聴衆周知のことだったに違いない。その十二功業の中でも最も難事とされたのが「冥界行き」だった。詩人はここでオデュッセウスをへーラクレースに擬しているようだ。
さて、へーラクレースとの出会いをもってオデュッセウスの「冥界行き」を語った第十一歌は終わる。
オデュッセウスが冥界で出会った亡霊達を思い出して見よう。
直前に死んだ若者エルペーノル、予言者テイレシアース、母親、女達、そしてトロイア遠征の仲間であったアガメムノーン、アキレウス、アイアース、次いで劫罰を蒙っているティテュオス、タンタロス、シーシュポス、最後にへーラクレースだった。
この第十一歌はドラマと予言と寓意とに満ち、底知れぬ深さを感じさせる一編だ。