6月14日


アキレウスの亡霊は自らのことを嘆いた後で、息子のことと父親のことを尋ねる。

オデュッセウスは、父親のことは分からないが、息子のことは一緒に戦った故よく知っているといって、そのめざましい活躍ぶりをつぶさに聞かせる。


ὣς ἐφάμην, ψυχὴ δὲ ποδώκεος Αἰακίδαο
φοίτα μακρ
ὰ βιβᾶσα κατ᾽ ἀσφοδελὸν λειμῶνα, (11-538,9)

そのように私は言いました。すると足速きアイアコスの裔(アキレウス)の亡霊は

大股でアスポデロス(冥界百合)の野原を歩み去って行きました


すぐ次の詩行には「自分の息子が抜きんでていたことに喜んで」とある。冥界にあっても、亡霊になっても気になるのは家族のことで、家族の幸福や誉は嬉しいものであるらしい。

それにしても上記引用の二行は印象深い。冥界に咲くというἀσφόδελοςも神秘的だし、無言で立ち去ったのも余韻がある。

ὣς ἐφάμην, ψυχὴ δὲ ποδώκεος Αἰακίδαο

[hôs ephamên, psyûkê de podôkeos aiakidâo]

φοίτα μακρὰ βιβᾶσα κατ᾽ ἀσφοδελὸν λειμῶνα

[phoitâ makra bibâsa kat’ asphodelon leimôna]

 随所に配された [p]音や[b]音が響いている。


アスポデロスἀσφόδελος を植物図鑑で見てみた。

ラテン名はasphodelus。ユリ科の花で、日本名では「花蔓穂蘭(ハナツルボラン)」とか「荒地雛百合」とか呼ばれるらしい。六枚の白い花片からなっていて、花片には真ん中に赤茶色の縦筋が入っている。原産地は地中海沿岸地方で、日本へは大正時代に観賞用として渡来したとされる。

写真で見たところでは確かに百合の仲間だ。