6月11日


アガメムノーンの亡霊は、生き血を吸って記憶を回復してから、オデュッセウスに惨劇を語る。


アイギストスが妻クリュタイムネーストレーと結託してアガメムノーンを殺めたのだった。


ἔκτα σὺν οὐλομένῃ ἀλόχῳ, οἶκόνδε καλέσσας,
δειπνίσσας,
ὥς τίς τε κατέκτανε βοῦν ἐπὶ φάτνῃ. (11-410,1)

彼(アイギストス)は忌まわしい妻と結託して(私を)殺したのだ、家に呼び

食事を供した上で、あたかも飼葉桶のところで牛を殺す如くに


ὣς θάνον οἰκτίστῳ θανάτῳ: περὶ δ᾽ ἄλλοι ἑταῖροι
νωλεμέως κτείνοντο σύες
ὣς ἀργιόδοντες, (11-412,3)

そのように私は惨めにも殺された、更に他の仲間達も

容赦なく殺された、あたかも白き歯の豚の如くに


「飼葉桶のところの牛βοῦν ἐπὶ φάτνῃ」や「白き歯の豚σύες ἀργιόδοντες」には、アガメムノーンの無念さが込められている。

瀕死の夫アガメムノーンを前に、妻クリュタイムネーストレーは


νοσφίσατ᾽, οὐδέ μοι ἔτλη ἰόντι περ εἰς Ἀίδαο
χερσ
ὶ κατ᾽ ὀφθαλμοὺς ἑλέειν σύν τε στόμ᾽ ἐρεῖσαι. (11-425,6)

遠離っていき、冥界に赴こうとする私に対して

手で瞼を閉じてくれようとも、口を噤ませてくれようともしなかった


 「瞼を閉じる」とか「口を噤ませる」とか、それらの行為は死者を悼む者が悲しみに耐えつつなすせめてもの手向けだ。裏切って殺しに荷担した者がそんなことをするわけがない。それは望むべくもないことだし、それどころか願い下げにしたいはずのことだ。そんなことを漏らすアガメムノーンの哀れさが際立つ。


 梅雨が始まった。これから一ヶ月以上続くのだろう。

  幾輪の紫陽花載せて水の星 拙作