6月10日
アルキノオス王はオデュッセウスに、「あなたは伶人の如くに見事に物語って下さった」といって更に聞きたがる。
εἴ τινας ἀντιθέων ἑτάρων ἴδες, οἵ τοι ἅμ᾽ αὐτῷ
Ἴλιον εἰς ἅμ᾽ ἕποντο καὶ αὐτοῦ πότμον ἐπέσπον. (11-371,2)
もしや神の如きお仲間の誰かを見かけられたか、あなたご自身と一緒に
イーリオスに遠征しそこで命を落とした誰かを
オデュッセウスが冥界で出会ったとしてこれまで話した人物は(予言者テイレシアースを除くと)皆女性だった。王はやはり武人に関心があるのだろう。
オデュッセウスは「お尋ねとあらば」といって、こう答える。
οἳ Τρώων μὲν ὑπεξέφυγον στονόεσσαν ἀυτήν,
ἐν νόστῳ δ᾽ ἀπόλοντο κακῆς ἰότητι γυναικός. (11-383,4)
トロイア勢との呻きに満ちた戦闘を生き延びたものの
帰郷の際悪しき女の企みの故に滅んだ者達
その者達の話をすることを何で惜しみましょう、と。
そして武将達の中で真っ先に来るのがアガメムノーンだ。既にネストールが語るアガメムノーン帰国譚の場面(二月四日の項)でも少し触れたが、やはりアガメムノーンの悲劇と『オデュッセイアー』は表裏一体であるようだ。前者の妻の不貞・裏切りと後者の妻の貞潔・忠誠、これは好一対だ。
今日の新聞の書評欄を見ていたら『現古辞典』が紹介されていた。河出書房新社から出ている現代語から日本の古語を引く辞典だ。これは知らなかった。面白そうだ。色々引いてみたい。今日の引用にあった単語でいえば「神」や「仲間」や「自身」、そして「見る」とか「生きる」とか「滅ぶ」とか。
これと同様、英語やフランス語など近代語から引く古典ギリシア語辞典はあるようだ。しかし近代語から引くホメーロス語辞典にはお目にかかったことがない。誰か作ってくれないかと思う。