6月9日
オデュッセウスが冥界で出会った女達はまだまだいる。しかし、オデュッセウスは「私が見た限りの英雄の妻や娘達の全てについてを語り名を言うことはやめましょう」と言って語りを中断する。というのは、
πρὶν γάρ κεν καὶ νὺξ φθῖτ᾽ ἄμβροτος. ἀλλὰ καὶ ὥρη (11-330)
その前に神聖な夜が尽きてしまうでしょうから。さあもう時間です
εὕδειν, ἢ ἐπὶ νῆα θοὴν ἐλθόντ᾽ ἐς ἑταίρους
ἢ αὐτοῦ: πομπὴ δὲ θεοῖς ὑμῖν τε μελήσει. (11-331,2)
寝るべき(時間です)、仲間達のいる速き船の上に行ってか
あるいはここでか。帰郷の船のことは神々とあなた方にお任せするとして
そうだった。これを語っているのはオデュッセウスだった。オデュッセウスはパイエーケス人の国でアルキノオス王の求めに応じて自らのこれまでの漂流譚を語っていたのだった。まるで伶人が語っているのを聞いているかのような錯覚に陥っていた我々は(そして当時の聴衆は)、語り手オデュッセウスの語りの場の現実に引き戻される。
いや待て待て、「現実」といったが、しかしそれは本当は現実ではない、叙事詩のなかの出来事だ。我々に語っているのは実はホメーロスなのだから。オデュッセウスがオデュッセウス自身の物語を語る物語をホメーロスが語っている、ややこしいが、そういうことになる。
オデュッセウス自身による漂流譚の語りはじめは第九歌の冒頭だった。もう千何百行かにわたっている。夜もかなり更けているはずだ。
一日雨。そろそろ梅雨入りか。