6月8日


 その後もいろんな女達が入れ替わりやってくる。その中にイーピメデイアがいる。

 彼女の二人の息子の話が面白い。


ἐννέωροι γὰρ τοί γε καὶ ἐννεαπήχεες ἦσαν
ε
ὖρος, ἀτὰρ μῆκός γε γενέσθην ἐννεόργυιοι.(11-311,2)

九才にして彼らは身幅九尺となり

一方背丈は九尋にまで成長したのだった


「九」はホメーロスの好きな数字だ。

ἐννεαπήχεεςは「ἐννεα九+πήχεες前腕」だ。九尺と訳したが、このπήχεες<πῆχυςは肘から中指の先まで(約45cm)を指すから、普通の尺(約30cm)よりは長いのだろう。ἐννεόργυιοιの方は「ἐννεα九+όργυιοι尋」で、ὄργυιοι<ὄργυιαは両手広げたときの両中指間の距離だから、まさしく日本語の尋にあたる。こういう身体尺が使われているのもホメーロスの興味深いところの一つだ。


この二人は短命だった。というのも、神々にまで戦いを仕掛けようとして、


Ὄσσαν ἐπ᾽ Οὐλύμπῳ μέμασαν θέμεν, αὐτὰρ ἐπ᾽ Ὄσσῃ
Πήλιον ε
ἰνοσίφυλλον, ἵν᾽ οὐρανὸς ἀμβατὸς εἴη.  (11-315,6)

  オッサ山をオリュンポスの上に積み上げ、更にそのオッサ山の上に

  木の葉揺れるペーリオン山を積み上げようとした、天まで登ろうというので


そのためにアポローン神に滅ぼされたのだった。

神話ならではの荒唐無稽ながら痛快無比な話だ。


上で「ホメーロスは九という数字が好きだ」といった。そこで、これまでこの詩編で「九」が出て来た箇所を調べてみた。

 「(贄を捧げる)九組の座があった。それぞれに五十人が座り、それぞれの前に九頭の牡牛を据えた」(3-7,8)

「集会の場ですべてを取り仕切る民から選ばれた世話役の総勢九名が立ち上がった」(8-258,9)

「私に従ってきた船は十二隻あり、それぞれに九頭(の山羊)が割り当てられましたが、私にだけは十頭を分けてくれました」(9-159,60)

 こうして見ると、祭事に関わること、政治に関わることに「九」の登場は多いのかも知れない。しかし何故「九」なのか。これからも気を付けて見ていこうと思う。