6月2日

 キンメリオイ族の国で船を下り、オーケアノスの流れに沿って歩みキルケーの指示した場所につく。そこで教えられた通り、穴を掘り、灌奠し、祈願し、羊を屠る。すると亡者達の魂魄が近づいてくる。

中でも初めにやってきたのはエルペーノールの魂魄だ。この男は、キルケーの国出立の直前、即ち(引用しそびれたが)前歌末尾近くで、酔いつぶれて屋根に寝、寝ぼけて屋根から落ちて死んだ事が語られていた若者だった。


σῶμα γὰρ ἐν Κίρκης μεγάρῳ κατελείπομεν ἡμεῖς
ἄκλαυτον καὶ ἄθαπτον, ἐπεὶ πόνος ἄλλος ἔπειγε. (11-53,4)

というのは、我々は彼の遺体をキルケーの館に置いてきたのでした

哀哭もせずに、埋葬もせずに。他事の忙しさに紛れて

死者を送る儀式が未了であるために、亡者の魂魄は冥界の入り口辺りにまだ留まっていたというわけだ。「他事の忙しさに紛れてἐπεὶ πόνος ἄλλος ἔπειγε」も、出立間際のこと故ありそうなことだ。

この若者の亡者の言うことがふるっている。

「私を残っている限りの武具と一緒の火で焼き、灰色の海の渚に土を盛りこの不運な男の塚を築いて下さい。後世の人が偲ぶよすがとして」(11-74~76)

この若者、前歌末尾近くでは、「戦場でさしたる働きもなく、頭の方もしっかりしているとは言いがたい若者であった」(10-553)と紹介されていた。しかも酔っ払って屋根から落ちて死んだうつけ者である。その男に軍功赫赫たる戦士気取りで「後世の人が偲ぶよすがとして」と言わせている。この詩人の皮肉は辛辣だ。

この若者の言葉はこう結ばれている。

ταῦτά τέ μοι τελέσαι πῆξαί τ᾽ ἐπὶ τύμβῳ ἐρετμόν,
τ
ῷ καὶ ζωὸς ἔρεσσον ἐὼν μετ᾽ ἐμοῖς ἑτάροισιν. (11-77~8)

これら(の願い)を私のために果たして下さり、塚に櫂を立てて下さい

私が生前仲間達と一緒にいて掻いた櫂を

 英雄時代は終わった、若者の生涯を象徴する物は「槍」ではなく「櫂ἐρετμόν」だ。とすると、上で「詩人の皮肉」と言ったが、それと同時にこの一節には「詩人の時代認識」が語られているのだろう。

 六月に入ったせいだろうか、外を歩いていると夏の草木が目につく。

立葵は大分背が伸びてきたし、紫陽花も開き始めた。梅の実も大きくなってきた、今月中には収穫出来そうだ。