5月31日


さて、冥界行きが決まり、その準備を語る次の詩行で第十歌の末尾となる。

 「キルケーは黒き船の端に牡羊と黒い牝羊とを縛り付けたのでした、やすやすと我々の脇を通り過ぎて、そもそも誰が、神が望まないのに、それを目にすることが出来ましょう、あそこここと(その神が)往き来なさるのを」(10-571~4)

最後の二行はこうなっている。


ῥεῖα παρεξελθοῦσα: τίς ἂν θεὸν οὐκ ἐθέλοντα
ὀφθαλμοῖσιν ἴδοιτ᾽ ἢ ἔνθ᾽ ἢ ἔνθα κιόντα; (10-573、4)

やすやすと我々の脇を通り過ぎて、そもそも誰が神が望まないのに、

それを目にすることが出来ましょう、あそこここと往き来なさるのを


 神と人間の距離、これも面白いところだ。ホメーロスの神は人間的なのだが、不死であることを始め様々な違いがある。姿を現したり隠したり自由に出来るとことも違いの一つだ。

 それとこの二行、音調がいいことに気づく。

ῥεῖα παρεξελθοῦσα: τίς ἂν θεὸν οὐκ ἐθέλοντα

[ reia parekselthūsa: tis an theon ūk ethelonta ]

ὀφθαλμοῖσιν ἴδοιτ᾽ ἢ ἔνθ᾽ ἢ ἔνθα κιόντα;

[ ophthalmoisin idoit ē enth ē entha kionta ]

[t] 音のテンポある繰り返し、そして [onta] の脚韻、それらが相俟って良い音調を醸し出しているようだ。


冥界で果たしてどのようなことが待ち受けているか。前にも読んだことはあるのだが、今回のような読み方をするのは初めてなので、次歌以降が楽しみだ。