5月26日
オデュッセウスはヘルメイアースの助言通りに、キルケーに「決して害を加えない」と誓いを立てさせ、臥所を共にする。
キルケーの館には四人の侍女がいる。そのうちの一人はオデュッセウスの湯浴みの世話をする。
「四人目が水を運んできて大きな鼎の下でいっぱい火を起こすと、水が暖かくなってきました。光る青銅の中で湯が沸いたとき、湯船の中に私を座らせ、大きな鼎から(汲んだ湯を)心地よい具合にに水と混ぜ合わせ、頭から肩へと洗ってくれました。そうするうちに気力を奪う疲労が手足から抜けていきました」(10-358~63)
最後の二行はこうなっている。
θυμῆρες κεράσασα, κατὰ κρατός τε καὶ ὤμων,
ὄφρα μοι ἐκ κάματον θυμοφθόρον εἵλετο γυίων. (10-362,3)
心地よい具合にに水と混ぜ合わせ、頭から肩へと(洗ってくれました)
そうするうちに気力を奪う疲労が手足から抜けていきました
『オデュッセイアー』には湯浴みの場面が何度か出てくる。ここの描写はそれらの中でも特に充実している。一つの特徴は温度に関わる表現の豊富さだ。
先ず「水ὕδωρ」と「火πῦρ」がある。火を「起こすἀνέκαιε」と水が「暖かくなるἰαίνετο」、そして「沸くζέσσεν」。最後に「心地よい具合にθυμῆρες」水と混ぜ合わせて洗う。「水と混ぜ合わせて」と訳した原語はκεράσασαだ。このκεράσασαは原酒を水で割る時によく使われる単語だ。この湯浴みを世話する侍女は、葡萄酒の濃さを調節するのと同様の気配りをもってお湯の温度を調節するのだ。
風呂の文化というものがある。ホメーロス世界の生活では、食事、睡眠に次いでかなり重きをなしている。風呂の文化は日本でも豊かな伝統がある。そのことを改めて認識したのは、最近漫画「テルマエ・ロマエ」を読んだ時だ。人に勧められて半信半疑で読んだのだが、これがなかなか面白かった。古代のギリシア、ローマそして日本は風呂の文化という点で近い。