4月29日


オデュッセウスの求めに応じて、伶人は歌い始める。


ὣς φάθ᾽, ὁ δ᾽ ὁρμηθεὶς θεοῦ ἤρχετο, φαῖνε δ᾽ ἀοιδήν,
ἔνθεν ἑλὼν ὡς οἱ μὲν ἐυσσέλμων ἐπὶ νηῶν (8―499,500)

このように言うと、伶人は神力に促されて語りだし歌を披露した

彼が択んだ出だしは、(アカイア勢の)一隊が漕座よき船に(乗り込み)


と始まり、その一隊がアカイア勢は船出し帰還すると見せかけ、他の一隊オデュッセウス達が木馬に隠れ留まり、油断に乗じて終にはトロイアを陥落した次第を語る。

 500行目行頭のἔνθεν ἑλὼνが興味深い。「彼が択んだ出だしは」と訳したが直訳では「そこから取って」であり、「そこ」とは続くὡς以下を指している。途方もなく長大なトロイア遠征物語があり、その中から伶人は時と場、そして今回のように聴衆の所望に応じて臨機応変に歌い出しの詩行を択んでいったのだろう。


 最近トルコ旅行をした人から昨日見せてもらった一句がある。

   眠たげにトロイの木馬春を食む  柚

 丁度木馬の段を読んでいたところなので不思議な偶然にびっくりした。

 この一句、季感あり、土地や歴史の感覚もある。「はるをはむ」という音調も眠たげな情趣と響き合ってる。名句ではなかろうか。そこで 

   眠たげにトロイの木馬春を食む  柚

    葡萄酒色の海ののたりと    拙作

と付けてみた。