4月28日


 オデュッセウスは伶人に歌を所望する。どんな歌をかといえばトロイア戦役のあの木馬の計略の段だ。


ἀλλ᾽ ἄγε δὴ μετάβηθι καὶ ἵππου κόσμον ἄεισον
δουρατέου, τ
ὸν Ἐπειὸς ἐποίησεν σὺν Ἀθήνῃ, (8-492,3)

さあ今度は趣を変えて木馬制作の段を歌ってくれまいか

エペイオスがアテーネーと共に作った(あの木馬の)

そしてこう付け加える。

ὅν ποτ᾽ ἐς ἀκρόπολιν δόλον ἤγαγε δῖος Ὀδυσσεὺς (8-494)

その計略(の木馬)を高貴なオデュッセウスが城町に引き入れたのだった


 オデュッセウスが自らの体験を物語った歌を所望する。しかも「高貴なδῖος」と枕詞的修飾語までつけて自らの名Ὀδυσσεὺςを出してだ。

この時点でオデュッセウスはまだ名乗っていない。積極的「嘘」ではないが、周囲の目を欺いていることには違いがない。オデュッセウスの面目躍如だ。


 物語の中の物語。それだけではない。ここでは「物語」の主人公が「物語の中の物語」の主人公と同じだ。更に、その「物語の中の物語」を「物語」の主人公がリクエストしている。迷宮に入ったようで目眩がする。

 これは劇中劇の一種なのだろうが、その手法を前衛的なまでに突き詰めている。これほどの試みが人類最古の詩編でいとも軽々と成されていることは驚きというほかはない。