2月23日
メネラーオスはテーレマコスに土産として馬を贈ろうとする。それに対して、テーレマコスはこう言って辞退する。
ἐν δ᾽ Ἰθάκῃ οὔτ᾽ ἂρ δρόμοι εὐρέες οὔτε τι λειμών:
αἰγίβοτος, καὶ μᾶλλον ἐπήρατος ἱπποβότοιο (605,6)
イタケーには広い馬場も牧場もありません
山羊を飼う(に適した)ところで、馬を飼うには山がちに過ぎます
イタケーは山がちな島で、従って平野はあまりなかったようだ。山羊は険しい地形にも粗食にも耐える動物として知られているから、イタケーでは貴重な家畜だったのだろう。
αἰγίλιψ(切り立った)という形容詞がある。これはαἰγί(山羊)+λιψ(離れる)であり、「険しい地形を厭わないはずの山羊さえ通わないほどの=切り立った」という意味だ。こんなことばにもホメーロス世界の生活が息づいている。
ところで上記606行目後半の解釈は通常異なっていて、「馬を飼うには山がちに過ぎます」ではなく、「馬を飼う土地よりも(私には)好ましいのです」とするものがほとんどだ。語学的なἐπήρατοςの語の解釈によるのだが、「ἐπι+αἴρω上げる」から来ているとすれば前者だ。19世紀フランスの注釈者ピエロンはこの説だ。大方はこれを「ἐπι+ἐράω愛する」から来ていると見て、後者を採っている。
語学的に両解釈が可能であるとすれば、馬と地形の関係を述べている流れからいって、また歓待を受けているメネラーオス(の土地)への礼儀からいっても前者の説に与したいところだ。
漢字の山羊はやはり山岳地帯でも生息することに由来するのだろう。「ヤギ」の音は「野牛」から来ているとも言われているが果たしてどうか。
沖縄ではかなり身近な家畜であり、「ヒージャー」と呼んで鍋料理もあった。臭いがきつくて私はほとんど手をつけなかったが。この「ヒージャー」の音の由来、「ヒゲ(髭)」からとも「ヒツジ(羊)」からとも聞いたが、確実なことは不明だ。