2月22日
「海の老人」はアイアースとアガメムノーンの悲劇を語り、次いでオデュッセウスの孤島にとどめおかれている様を語り、最後にメネラーオスの将来を予言する。それは安楽な土地エーリュシオンでの生だった。このエーリュシオンは
οὐ νιφετός, οὔτ᾽ ἂρ χειμὼν πολὺς οὔτε ποτ᾽ ὄμβρος (4-566)
雪は降らず、激しい嵐はなく、大雨もない
そして、
ἀλλ᾽ αἰεὶ Ζεφύροιο λιγὺ πνείοντος ἀήτας
Ὠκεανὸς ἀνίησιν ἀναψύχειν ἀνθρώπους (4-567,8)
常に音高く吹く西風を
オーケアノスが人間共に生気をもたらすべく送る
そんな土地である。このエーリュシオンἨλύσιονは、シャンゼリゼles Champs-Elyséesやエリゼ宮le Palais de l’ElyséeにおけるElyséeの語源だ。
ホメーロス時代の考える安楽な生活の気象条件がうかがえる一節だ。雪が厭われているのは意外だ。それほど雪が多かったのだろうか。それと西風Ζέφυροςが好まれている。Ζέφυροςは春のそよ風で豊穣をもたらすものとされていたようだ。
日本語でも風を表すことばは多彩だ。方角に関連したものだけでも、東風、西風、南風、北風はもちろん、はえ(南風)、こち(東風)、にし(西風)の呼び名がある。青北風(あおきた)、涅槃西風(ねはんにし)などもあり、これらは俳句の季語にもなっている。
「はえ」や「こち」には縄文語の響きさえ感じられそうだ。沖縄では「にし」は北風をいう(沖縄に滞在していたとき、冬の吹き初めの季節風を「新北風(みーにし)が吹いた」といっていたのが耳に残っている)。これは地理的自然条件から来たのか、歴史・文化的経緯から来たのか。
春を告げる風が、ホメーロス世界においては西風Ζέφυροςであり、日本では「東風吹かば」の歌にあるごとく東風であるのも面白い。