59 小説 裁判官の子として生まれたキミ | 京都 coffee bar Pine Book

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日々楽しく生きるにはコツがあります。
まずいちいち反応しない事です。
そしてオセロの4つ角を取る事です。
4つ角とは?
1 健康
2 人間関係
3 趣味
4 仕事
コレが楽しく生きるコツです

吉弘はよく次生に語っていた。


次生はいい時代に生きて行くのやなぁ。

いい時に産まれてきたなぁ。と。


当時はあまりにも意味がわからなくて次生は返答にいつも困った。


そうか、お兄ちゃんが言いたかったんは、ようはこういう事なんか!と次第に意味がわかってきた。


次生はおトンボさん。

7人兄弟姉妹の7番目末っ子。

幼稚園から大学卒業まで私学出身。   


裁判官で安月給の子沢山で、全ての子供達を私学に入れるのは相当な覚悟がいる。

教育資金は祖父がたいそう残していたが、祖父の死後は御多分に洩れず康三の兄の松本両次郎と妻のフミエが独り占めしたのである。


次生は康三が裁判官を退官し、弁護士になったが故に松本家もお金周りがよくなってきたのだ。


よく、次生の母潔子は次生に囁いていた。

次生っ!あんたはな〜松本家にお金を連れて産まれてきたんえ〜。

金運があるのえ〜。

せやし実験します。

あんたがどのような人間になっていくのか、見てみたい!と。


昭和45年康三と潔子は二人して海外に頻繁に出かけていった。裁判官を辞め弁護士になりお金が回り始めたのだ。


次生、ウチはな南極と北極以外たいがい周ったしな、次はあんたの番やしな。行ってきてな?

潔子も海外で何かを感じて来たのであろう。

実験中の次生にも!と思ったに違いない。


次生は47年にヨーロッパ1ヶ月。



50年にアメリカ1ヶ月。各国に滞在し他国の文化の違いに驚きながら帰国してきた。



他の兄弟姉妹が嫉妬しないわけがない。

そんな兄弟姉妹の次生に対する感情を省みることなく、康三と潔子は次生を特別実験者としてジャブジャブと育てて行った。


次生が大学を卒業した頃からか、4女と次男が結託して次生に対し嫌がらせをし始めていた。最初は巧みに解らなくて次生は戸惑っていたが。


日に日に無いことをあったかの如く、潔子に告げていくのである。所謂チクリである。

両親に買ってもらった物や部屋など手当り次第自分達のモノにし始めた。 

 次生は腹も経つが、相手にしなかった。

何故にそんなに、貪欲なのか?

何故に執拗な策略めいた事を弟にしてくるのか?

しかし、何をされても無視し続けたのだ。

何故、無視し続ける事が出来たのか?


次生は4女と次男の精神状態が幼少期より不安定である事を知っていたからである。


陰と陽である。

明らかに次生は「陽」であった。いつも光を浴びて育てられたのだ。

その次生の「陰」が、彼らである事を理解していた。

これを次生は、松本家の害毒であると感じていた。脚光を浴びる父康三が子供達の運をも吸いあげている事を次生は冷静に見ていた。

 

精神が不安定な4女と次男は父康三を必要以上に羨望し続けたのだ。

次生のように、康三を評価出来ないのだ。 

 

余りにも自信がない4女と次男は両親が老いて力が無くなるとみるや、やりたい放題するようになっていった。


これは、父、康三の指導力のなさもあるが、母潔子の4女と次男二人に対しては不憫に思っていたのだ。所謂、あほな子程可愛いいのだ。


次生は

友人達に一切兄弟姉妹の事はスルーしていた。

両親の事もスルーしていた。

松本家の事もスルーしていた。

非常に冷めていたのである。

自分は自分である。自分で決める!と。


他の兄弟姉妹は父康三に対して、世間の評価をそのまま当てはめていたが、次生は違った。

完璧に康三は人間的にはお粗末であり、自己中であり、責任を逃れ、決断力がなく、頼れる人ではかなった。


この父、康三に対する思いが4女、次男と次生は真逆に違っていたのだ。


対する長女初子と長男吉弘とは次生は暖かく心が通い合っていたのである。


こんなにも同じ両親から産まれても違うものかと、今更ながら不思議を超え滑稽であると思っていた。

次生は、カッコよく生きたいっ!

ただただ、カッコよく死んでいきたいと思っているのだ。


次生から見て、4女次男は超カッチョ悪いのである。ダサいのだ。イケてないのだ。つまらないのだ。一緒にいて苦しいのだ。おもろくないのだ。暗いのだ。責任感はない。協調性はない。康三が生きてればこそのコバンザメのような人生だった。

情けない。


嫉妬ほど恐ろしいものはない。

嫉妬は身を滅ぼす。


次生は嫉妬心というものがない。

自分自身が一番好きなのである。


可哀想な哀れな人と思う兄弟姉妹がいる場合、これは辛い。痛い。人生を掻き回され時間が勿体ない。


次生は、一人っ子が羨ましく思っていた。