潔子の思いを康三は両次郎に伝えた。
ある日、康三はいつものように進々堂やオーム社の書店巡りをしながら歩いて松本精肉店に寄ったのである。
両ちゃん!あんな、潔子怒ってますでぇ!
何を怒ってはるんや?ワシにか?フミエにか?
両ちゃん、アンタにやがな。
なんでや〜なんでワシに怒らはりますねん?
両ちゃんな、あんたないっつも牛肉な、端肉の紫色のスタンプ押した廃棄する部位ばっかし潔子に渡してるやろ?
そうかぁー?
タケちゃんもイッチャンも緊張して棒立ちになっている。
せやから、タケちゃん!あかんあれはあの端肉は五条に持っていったらあかんて言うてましたやろ?イッチャンがタケちゃんにコソコソ言っている。
せやけど〜イッチャン?旦那さんが端肉だけ入れとけて、女将さんも端肉でいいて。
端肉てー、廃棄する肉やん?そら、五条の潔子はん怒らはりますわ!潔子はんはお嬢さんやしな!いい肉たべたはったわ。
でな、両ちゃん?もう肉いらんて!言うてますわ。
そうかぁー、わかった、もうあげへんわな。
どこまでもアホな両次郎である。
潔子が端肉なんか持って来るな!と言っているのである。
それを聞いて両次郎は、もう上げへん!ときたもんやから康三は、あれ?伝え方間違えたかな?と、またこうも付け足した。
あんな、両ちゃん、潔子なずっーーーーと前からな紫色のスタンプの端肉とな、切れ端のクズハムな、あれ犬と猫にあげてたで潔子。
そうかぁー。 犬と猫になー。餌かぁ
とぼけたアホの両次郎である。
嫁も嫁である。涼しい顔して横で聞いているフミエ。
ドケチな阿呆な夫婦として祇園町で有名であった。
この康三の端肉いらない!宣言から両次郎は五条には来なくなった。
次生もデコピンから逃れていったのである。
この日から30年後に両次郎は案子と共に次生の新築した家に訪ねてきたのであるが、そこに行きつくまで次生の半生を書かないではおかれまい。
さて、ここから、潔子の巻き返しが始まるのであった・・・