。「金田さんでも恐れねえかな、厄介な唐変木
とうへんぼく
だ。構
かま
あ事
こた
あねえ、みんなで威嚇
おど
かしてやろうじゃねえか」「それが好いよ。奥様の鼻が大き過ぎるの、顔が気に喰わないのって――そりゃあ酷
ひど
い事を云うんだよ。自分の面
つら
あ今戸焼
いまどやき
の狸
たぬき
見たような癖に――あれで一人前
いちにんまえ
だと思っているんだからやれ切れないじゃないか」「顔ばかりじゃない、手拭
てぬぐい
を提
さ
げて湯に行くところからして、いやに高慢ちきじゃないか。自分くらいえらい者は無いつもりでいるんだよ」と苦沙弥先生は飯焚にも大
おおい
に不人望である。「何でも大勢であいつの垣根の傍
そば
へ行って悪口をさんざんいってやるんだね」「そうしたらきっと恐れ入るよ」「しかしこっちの姿を見せちゃあ面白くねえから、声だけ聞かして、勉強の邪魔をした上に、出来るだけじらしてやれって、さっき奥様が言い付けておいでなすったぜ」「そりゃ分っているよ」と神さんは悪口の三分の一を引き受けると云う意味を示す。なるほどこの手合が苦沙弥先生を冷やかしに来るなと三人の横を、そっと通り抜けて奥へ這入る。
猫の足はあれども無きがごとし、どこを歩いても不器用な音のした試しがない。空を踏むがごとく、雲を行くがごとく、水中に磬
けい
を打つがごとく、洞裏
とうり
に瑟
しつ
を鼓
こ
するがごとく、醍醐
だいご
の妙味を甞
な
めて言詮
ごんせん
のほかに冷暖
れいだん
を自知
じち
するがごとし。月並な西洋館もなく、模範勝手もなく、車屋の神さんも、権助
ごんすけ
も、飯焚も、御嬢さまも、仲働
なかばたら
きも、鼻子夫人も、夫人の旦那様もない。行きたいところへ行って聞きたい話を聞いて、舌を出し尻尾
しっぽ
を掉
ふ
って、髭
ひげ
をぴんと立てて悠々
ゆうゆう
と帰るのみである。ことに吾輩はこの道に掛けては日本一の堪能
かんのう
である。草双紙
くさぞうし
にある猫又
ねこまた
の血脈を受けておりはせぬかと自
みずか
ら疑うくらいである。蟇
がま
の額
ひたい
には夜光
やこう
の明珠
めいしゅ
があると云うが、吾輩の尻尾には神祇釈教
しんぎしゃっきょう
恋無常
こいむじょう
は無論の事、http://japancupid.com/満天下の人間を馬鹿にする一家相伝
いっかそうでん
の妙薬が詰め込んである。金田家の廊下を人の知らぬ間
ま
に横行するくらいは、仁王様が心太
ところてん
を踏み潰