脳が状況を理解できていない。
なぜ町に誰一人とおらず、こんなにも静寂に満たされているのか...。
まるでこの町の何かから逃げているようにして、一人もいない。
そして、この町に俺ただ一人だけ立ちす竦(すく)んでいる。俺の方が異常というのか...。
俺は頭の片隅に一つの理由が恐る恐る閃く。もしこれが本当ならば俺はこれからどうすればいいのだろうか。
怖いので、町中に人がいない原因を追及しないことにした。
とにかく人がいないこの状況では馬車にも乗れやしない...。
予選の戦闘会場の位置はだいたい把握している。全速力で走れば二時間ほどで着く距離だ。
......ってギリギリじゃねぇか。
瞬時に行動に移す。
俺はとにかく目の前のことだけ考え、走ることに無我夢中だった。
予定より早く到着出来た。
町...いや都市の中はさきほどの町と比較の対象にもなりえないほどの人で溢れかえっていた。
その大部分が防具や武器を身につけている探索者達だ。
重装備の人を見つけるとつい偏見的な視線を送ってしまう。一対一の戦闘は速さが一番重視されるから軽装が一番勝率が高い。重装備だとしても、返って剣の降る速度が鈍くなり、攻撃が躱される。ついでに体も重くなるので、素早く動けない。
だが、それを補うように身体中が鉄に保護されているのでいくらか剣を受けても無傷で耐えられる。しかし、一般に重装備のやつは頭が守られていないか、目が出ているかだ。そして、膝裏、首裏なども隙がありまくり...。対軽装相手だと一瞬にしてその隙の近くまで間を詰め、そこにひと刺しすれば瞬殺だろう。重装備だとその動きについて往けない。
重装備にするのならば身体中に隙がなくするのがベストだろう。剣聖がそれを象徴する探索者だ。
俺は何もわかっちゃいない重装備者を見るとついこういう侮辱染みた考えを頭の中でしてしまう癖がある...。
他にも似たような癖は多々ある。
数え切れないほどの無能な輩に対しての愚痴が頭の中に溜まり混んでいる。だから日々こう考えを外に出さないと、頭がパンクしてしまう。
何故こんなにも無能なカスがこんなにもいるのだろうか...。
そうこう考えていると、いつの間にか予選の戦闘会場へ到着した。
そこで幾つもの畏怖の視線をちらほら感じる。
四方八方から...。
俺を見た瞬間、歩幅が広くなったり、俺から遠ざけるようにして歩いたりする人が多々いる。
一人だけ孤立しているような気がする...。
俺は何かの間違い、勘違いだと自己暗示し、そのまま戦闘会場へと入る。
そして、事前に配られた予選カードを受付の少女に渡せば無事戦闘会場へと赴ける。
ここでもまた違和感が...。
その少女が顔を上げた瞬間、声が何かに恐れ、恐怖に犯されているかのごとく小刻みに震えていた。
「すみません。少し...喉の調子が悪かった...みたいです....。」
「あぁ、そうか。」
一応にべも無い返事を返す。
すると次は背筋がピクッとなる。
.....明らかに俺に何やら恐怖にも似たような感情を抱いてやがる。何のつもりだ。初対面のはずだろう。
俺は今の自分が置かれている状況を理解できなかった。全く収拾がつかない。
考えても先に控える予選に支障が出るだけだ。
一先ずここは戦闘だけに集中しろ。
しかし予選通過など、当然だと思う。いちいち気持ちを高ぶらせる必要もないか。
お遊び程度で戦闘する感じでいいだろう。今の俺の実力はそれほどにも強大だ。普通の探索者何十人一斉にかかってきても、危機が迫ることなく迎撃できるだろう。
だからリラックスするだけでいい...。
本戦が肝心だ。
世界中の士(つわもの)が集う。
そこで頂点に俺は立つ必要がある。いやそれが使命の一貫であり、運命のパズルの一ピースでもある。
まずはそれが目前の目標だ。
手加減する気はない。さっさと目標を達成し、理想を手に入れなければならない。
俺はそう決意し、戦闘会場の控え室へと赴くのであった。