五感が機能してきた。
辺りはしんと静まり、水滴が地に滴った音が木霊し、反響する。それが耳に響く。何とも不思議な感慨がある。
そして、鼻孔にはわずかな生臭い血のような悪臭がする。いや、血の匂いそのものだ。
目を閉じたまま、左右の手を四方を触ってみたが、硬質な岩があり、また小石もちらほらある。
意を決して瞼を開けると、岩が弾きし詰められている部屋の中にいた。
ここは、ダンジョンの中なのだろうか。
ダンジョン....。ダンジョn...!
そういえば先ほどまで身の毛がよだつ容姿をした悪魔のような少女に追われ、最終的には漆黒の鎌で俺は切られたはず...。
手で身体中をくまなく触り損傷がないか確認する。後頭部、腕部、脚部、背部、腹部。
しかし何処にも大きな損傷は見受けられず、迷宮探索で負った切り傷や擦り傷程度の軽傷しかなかった。
どういうことだ...。
確かに俺は鎌で斬られたはず。
いや...。
斬られたのではなく、触れられた?
もし斬られたのなら、その時に痛みは感じるはず...。
しかし、俺は鎌が肌に触れた途端に、意識を失った。
理解できない...。
「おい...こりゃどうなってんだ...」
するとそこに一人の屈強そうな男が何の前触れもなく突如と出現した。
歴戦の戦士みたいな肉体にはこの男が相当な実力者だと窺える。
なぜいきなり人が...。
「おい...小僧。これはどういうことだ。」
「いや、俺に聞かれても困る。」
「あん?喧嘩売ってんのか?俺は過去の天下決戦で3位になったことのある、ジョゲル様だぜ?」
その名前には聞き覚えがあった。
俺がまだ迷宮探索を始めていない4年前のガキの頃に働いていた、酒場では天下決戦の結果の話題で盛り上がっていた。
その時にこんな名前のやつを聞いた気がする。しかし、それがなんだって言うんだ。
俺は挑発と言わんばかりの口調で話した。
「あぁそうか、そりゃよかったな。ピーナッツ野郎。」
「っ...!てっめぇ...!まじでこの俺様とやるってんだな!?今から泣いて謝ったって赦さねぇーぞ?ガキー!?」
何とも掛かりやすい、脳無しの野郎なんだ。顔から連想したピーナッツと言っただけで、感情が高ぶり、奮闘体勢に入ってやがる。嘲笑せざるを得ない。
「くそ...!!生意気なガキが...!」
「あなた達二人、いい加減にしてくれないかな...ふぅっ...。」
途端に女性の声がした。
声の方角へ頭を回転させると、手を顎にやりやれやれとばかり呆れている姿の女性がいた。
紫紺の長髪をしており、妖艶な顔立ちだ。
この美しい美貌に暫し見惚れてしまった。
それもつかの間、身体を見やると
頭部以外、身体中に白銀の鎧を身につけており、腰には一目で相当な代物だとわかる細剣がかけてあった。
しかし、それを抜刀して攻撃してくるような敵対感はない。
この女性もさっきのピーナッツ野郎と同じように唐突に現れた。
ピーナッツ野郎もそれには眉間にしわを寄せて、怪訝な表情をしている。
「てめぇ...どっから現れやがった...。」
「その口調辞めなさい。聞いていて耳が腐ってしまう。」
「なんだとぉお...!!」
「ふぅっ...言うことを聞かない男の子ね...。」
そう言うと、腰に捧げている細剣を一瞬にして外し、ピーナッツ野郎との間合いを詰め、喉元に剣を当てている。身動き取れば刺すといった威圧感が感じられた。
ピーナッツ野郎は怯えて身をすくませた。
それには俺も驚愕した。
あの瞬きにも似た超短時間だけで、約1メデル(2.5メートル)程の距離を一瞬にして高速に移動した。いや、光速と言った方が妥当だろう。
「それ以上無駄口叩けば、お前の口を聞けなくするぞ...!」」
先ほどの口調とは打って変わって、力強くなっている。
「...。」
ピーナッツ野郎は素直に従ったようだ。
これって俺は話していいのだろうか...。俺の不快な表情を察してか、女性は頷いてみせた。どうやらいいらしい。
ふぅ...。
「何か面白い面子が揃ってるね~。うん!いい予感!」
とそんな、お調子者だと直ぐわかる声を発した者が次に現れた。
金髪に青眼。いかにも貧しそうな服を見にまとっている。
その後ろにも小柄な少女はが一人膝を抱えて座っていた。
身体中褐色な少女にはつい前に似たようなものを見て、少々怖気が立ったが、よく見れば全く違う。
マスコット見たいに可愛い感じがする。
しかし、この空間に容姿が良い女が二人もいると、モテたい俺にとっては心臓の鼓動が早くなり、ついいいところを見せたくなる。
とりあえず疑問に思ったことを言って見た。
「ここにいる皆に聞きたいが、この前どこに...」
「3.141592786あ、間違えた。ちくしょぉぉぉーー!!!」
俺の声が一瞬にして掻き消された。
何だこいつは...てかなんだよその数字の羅列は...。
見た目は智慧が豊かで、四六時中冷静を保っていそうな人に見えたが...。
人は見た目だけで判断しちゃだめさな。
場の全員はこの男を侮蔑の視線を向けているが、それには気にもせず男は永遠に数字の羅列を唱える。
これは無視するしかない。
いつの間にか人数が増え、部屋には10人程になっていた。
服装、容姿、武器、年齢が様々だった。
その中でも一人だけ纏う雰囲気が特殊な人物がいた。
身体中を漆黒の鎧で包まれ、兜を付けているので、年齢も幾つかわからない。そして背には巨躯の背丈を上回る程の大剣を携えていた。
その大剣も鎧同様、漆黒...。
身に付けている全てのものが宝具とも言える程の代物だろう。
こいつは一体何者なんだ...。
部屋の中に10人もの人が居るというのに、物音一つもなかった。
おそらく皆その黒鎧の男を見て衝動的に口を閉ざしているのだろう。
その男からは異常な程の威圧感を感じられるのだ。
先ほどのはあんなにもピーナッツ野郎に吠えた、紫紺の女性騎士も、安静を保持している。
そして、一刻ほど経過しても、この部屋に突如と集った10人はただ、自己と対面し討論することを続けることしかできなかった。
この場はどうなっているのか?どうすればいいのか?
そう、自問自答するのであった。