果たしてどれほどの間、この大広間で沈黙を保ったのだろうか。
誰一人と声を発さない。
静寂に包まれる。
そしてついに、その沈黙を破ったのはあの黒騎士だ。
「こうも安静だと癪に障る。まぁ硬直しなくてもよかろうに。ここはひとまず自身の紹介でもしたらどうだ。」
凄く透き通るように聞こえる声だ。
俺はそれに気圧された。
これが戦争の最前線で指揮を執る人だと言えば、即座に信じてしまうだろう。それほどにも気高い声だ。
そして黒騎士の提案したことは最もだろう。
今の状況を打開する以前に、まず交流を深めるのは、妥当だ。
最近は連携戦闘が求められるからな。
俺が言うことじゃないか。
俺はとりあえず頭を縦に振る。
他の人も肯定の意識を表した。
「我が名がアリオン。剣聖の称号を持つ気高き覇者だ。剣の腕で我を越える者はいないであろう。」
黒騎士の名を聞いて、場にいるほとんどが顔に変化が起きた。
驚愕した者もいれば、笑みが溢れる者、目を輝かせる者、無表情で今だ座っている者もいる。あいつ...。
そして俺の顔は豹変していた。
「剣聖」という名を聞いて平静を保っている方がどうにかしているだろう。そう、俺は至って通常の反応だ。決して不可解ではない。
だから、この場にいる者たちは通常ではなく「異常」なのだ。
それを聞いて顔が強張らない方が可笑しい。
剣聖とは、六帝国中にただ一人譲渡される称号。六帝国を統治する、中央に位置する「アスカテ大帝王国。」
その天辺に鎮座する、王様と謁見し、直々にその称号が与えられる。
形の物でもないのに「剣聖」と言う称号はこんな扱いをされるほどの、化け物染みたものなのだ。
なのに...なのに...。俺と他何人かだけだ、こんなにも顔面崩壊しているのは...。
何がかっこいいだ...。下らん。
情けなくて仕方がない。
もうかっこいい何て捨ててしまえばいいんだ。
体にへばりついただけ、邪魔になる。思考が違う方向へ行く。
その結果、阿鼻叫喚な目に会ったりしかねない。
しかし、その感情はどうにも捨てきれない。くっそ...。
そして一人一人自己紹介を終える。
出自を言う者もいれば、名前だけの者もいた。
どれもこれも一度は聞いたことのある名ばかりだ。
強者のフルコースだ。
特に目立った名前の者もいた。
あの女騎士は西の「イマラヤ帝国」にあるかの有名な「神界の十騎士」でトップに躍り出る騎士だった。
前人未踏の女性の序列一位。
それにはその帝国だけに止まらず、全六帝国でも知れ渡っていった。
ならばさきほどピーナッツ野郎に喰らわせる直前までした、あの光速の抜刀術も理由がつくだろう。
世界最高峰の女性騎士「アエル・グレネイダ」と言いさえすれば...。
女騎士以外にも驚いた名前も幾つか聞いた。
あの数字の羅列を唱えていた。いや、微かにだが今も口をパクパクしているような...。(アホだな)
そいつはダンジョンを発見した第一人者だ。
ダンジョンはつい20年前に発見されたばかりだ。彼はそれを独断と偏見で解明して見せ、全帝国にその名を轟かせた。
どう言う場所に出るか、ダンジョン内はどういう性質か、脱出するためにはどうすればいいか。そのダンジョンについての全てを解明したやつだ。
俺の生き甲斐でもある迷宮探索を作ったようなやつ。
「アレクサンドロ・ショー」偉人だ。しかし、その功績とは裏腹に今目の前にいる彼には侮蔑しかねない。アホすぎる...。
そして、ダンジョン捜索の機械を作ったのも彼だ。
彼は多方面に関して一流である。機械制作は勿論。
ダンジョン研究するにはダンジョンを潜る。だから彼の戦闘技術も一流。「天下決戦」で決勝まで行ったような話も聞く。
そしてダンジョンの数多の謎を検出し、それから分析。それを経ったの数時間だけで謎を解き明かしたと巷で噂になった。頭脳も常人離れしているのだ。さぞかしモテるのだろう...。
まただ...。脱線した。この思考どうにかならない物なのか...。
それから疑念が残った者もいた。
「ベルクリュー」と名乗ったやつだ。出自については触れなかった。
あの金髪調子もの。
聞いたこともないし、ましてや名前が一綴りだけだ。
何か隠しているような気がする...。
でも危機感は感じられないので、とりあえず頭の片隅に置いておく。
そして、問題なのはあの褐色少女。
名前がわからないというのだ。
訳がわからない。
ここへ飛ばされた時に何らかの刺激を受け記憶の断片が外れ一時的な記憶障害を起こしているのか、単に元々自分のことを知らないのか...。
脳に疲労を来たし、思考を巡らすだけ無駄だと判断し、これは捨てる。とそんな取捨選択を繰り返す。
そしていつの間にか俺の番になっていた。とりあえず簡単な情報だけ伝えればいい。
「俺はグレン・ヘルシャヴィン。東のアルヴォイド迷宮大国出身だ。日々ダンジョンを潜り続けているかた、あのおっさんには感謝してるよ。」
とそんなことを言った。
最後のやつ結構女子が聞いたらかっこいいなんて思って好感度上がるかもな...。って...またか。ふぅ...。
ショーの方を見ると、顔をソッポに向けて僅かに顔を紅潮させている。
おい、おめぇじゃねぇ...よ。
そして女性陣は俺とショーに少し引き気味。いやそう言う関係じゃないから。
第一印象大事なのに、やらかした...。
後悔と言うものは、取り返しがつかないものだ。後から償ったとしても、それは後悔した経験とは別種のものを償っただけで、直接後悔を拭い去るようなきっかけとはならない。
はぁ...。
俺は落胆し、悲愴感に満ち溢れるのであった。