REX5期 大阪の 谷井隆夫です。 2010年の韓国視察の記事を引き続き掲載します。 視察した学校について、旧友の金庚壽 韓国外務省の経済局長に解説をお願いしました。

 
金さんに 夜のソウルを案内していただきました

これまで言ったことの結果として、平準化政策と並行して、英才教育校や特性化学校の指定などの教育政策があります。バランスが難しい上、批判も多い中で前進しています。以上を踏まえて、今回視察された各校についての私なりの感想をお話します。

 
 
韓国外務省の近くで金さんと食事をしました

1 ソウル科学英才学校

  親の気持ちとしては「自分の子どもを是非この学校に入学させたい。しかし、自分の子どもが行けずに他人の子どもが行くのは不満だ」というのが率直なところでしょう。まあ、親と言うのは身勝手なものですから。環境の充実した学校に英才を集めているために、有名大学への進学が極めて有利なのです。この学校の存在に賛成か反対かをソウル市民に聞けば、賛否半々になるのではないでしょうか。

 しかし、国の将来を考えたときに、サイエンスの分野をリードする人材が必要だということは多くの国民が理解することなのです。

2 大元外国語高校

 早くから進学校として知られた私立学校です。韓国の母親は、いい学校の近くに引っ越そうとする傾向があるので、学校周辺の賃貸住宅の家賃は飛びぬけて高いことで有名です。私のような庶民派の人間にはピンとこない学校です。

 私の勤務する韓国外交部には、この学校の卒業生がたくさんいます。私の場合、外交官になったときには韓国語と英語しかできませんでしたが、ベルギー勤務の際にオランダ語を、日本勤務の際に日本語を身につけました。そうやって仕事をしながら語学を伸ばしていくことがかつては一般的だったのです。しかし、大元の卒業生は、勤務した時点で3ヶ国語を十分使うことができます。庶民感覚からはずれている学校ですが、即戦力の人材を出していることは間違いありません。

3 中谷小学校

 中谷地区は歴史的に貧しい地域です。ここに立派な小学校をつくったの、格差解消を目指した政策によります。ただ、ほとんどの小学校はもっと庶民的な学校ですよ。

 
橋下徹前知事と教育委員会の主たるメンバー

この韓国視察では、橋下知事がご一緒ということもあって、大変効率よく多くのものを見聞することができました。その結論は「日本は日本の変化の方向を自ら見出していかねばならない」ということです。橋下知事とその後の維新の会政権は、それを政治主導で行おうとしますし、私たちは現場からの声をあげて変革を進めなければなりません。
また私は個人的に大変信頼のできる金局長を友人にもっていたため、見聞したことをその場で解説していただくことができました。「完璧ではないにしても、韓国はスピード感のある教育改革を進めており、その成果もあがっている。また国民は概ねそれを支持している」というご意見でした。私たちは何を考えるべきでしょうか?
 

  REX5期 大阪の 谷井隆夫です。 2010年の橋下前知事に同行した韓国視察の記事を引き続き掲載します。

 ソウル 設備の充実した中谷小学校にて 意見交換する橋下前知事
 
この韓国訪問の際、私個人の楽しみとして、旧友である韓国外務省の金庚壽 経済局長(現在 韓国の中国公使)に会うということがありました。REX関連のみなさんは覚えておられるかもしれません。岸和田高校で日韓バーチャル国際会議というイベントをしたときに、韓国事情についての生徒指導者として参加していただいた韓国の外交官の方です。私はこの視察で見たもの感じたもの疑問に思ったことについて、現地で金さんに会ってその場で解説してもらおうと思っていたのです。
 以下 金さんの解説です。

 
旧友である 韓国外務省  金庚壽 経済局長(当時) 現在は韓国の中国公使
 
 韓国の教育改革は、韓国の社会状況の進行と大変関係の深い事項です。全てがうまくいっているとは思いませんが、社会状況に合わせた人材育成を目指していることは確かです。

最近の経済の例をあげます。2008年のリーマンショックの際、日本は円高に韓国はウォン安になりました。簡単に言うと「世界経済は日本経済を信頼し、韓国経済を信頼しなかった」ということです。世界の投資家は円を買い、ウォンを売ったのです。ところがその後の数年間で、韓国経済は足腰の強いものとなってよみがえりました。このウォン安が輸出を後押ししたことが要因の一つです。また、韓国企業は日本企業と異なり、経営陣の決断で小回りよく動き回ることができることも大きな要因です。例えばサムスンはIT分野に技術投資を集中させました。また、現代自動車は、かつては軽自動車しかつくらなかったものが、全ての車種の国内外での生産に踏み切りました。さらに政治も行政も後押しします。韓国外交部は、先日ユーロとのFTA交渉(自由貿易交渉)に仮署名しました。現在私は日本との原子力協定の締結準備を進めています。そしてこのような各界の動きの基盤になるのが教育分野における人材育成です。この迅速な立て直しに、1980年代以降の教育界が育てた、対応能力のある若い人材が、産業界、政界、行政、各分野で活躍しています。判断力や創造力や交渉能力のある人材です。技術ひとつをとっても、私は韓国の工業技術は日本に8割方追いついたと感じています。


 
教育現場視察で感じたことを金さんに話し 解説をしてもらいました

 この間、教育界は、加熱した受験状況の緩和と、親の収入や地域による教育格差の解消という課題を抱えながらも、国家の繁栄という目標に向けて対応を進めて来ました。これには、経済状況だけでなく、軍事や政治状況も関係しています。1980年代、1990年代の教育改革を調べられたらいいと思います。 
 
 この韓国視察で私が感じたことの一つは、教育現場も社会の変化に対応して常に変革していかなければならない時代になっているということです。欧米を模倣し追いかけていればいい時代はすでに過ぎ、アジア各国がそれぞれの状況に合わせて人材育成をしなければならなくなっているからです。政治主導でその変革を進めてきたのが橋下府政であったわけです。学校現場の多くがそのことに気がつき、現場の意見を反映させようとしているのが2013年の現状と言えるのかもしれません。政治が単なる学校攻撃に進まぬように、学校現場が保守的にならぬように、バランス良く変化が進行して欲しいものと私は感じています。
 
 REX5期 大阪の 谷井隆夫です。 2010年の韓国視察の記事を引き続き掲載します。

 
流暢に日本語を話す大元外国語学校の生徒  右は津田仁教育監 当時高等学校課長

ソウル教育庁のトップは「一夜漬けの勉強で勝ち残るようなニセの秀才を排除し、真の英才を育成する」と話していました。

「平準化政策」と「英才学校」、これが二つの柱です。この政策の遂行には、「大きな教育予算の存在」と、「政治主導の教育政策」という、日本と異なる側面があることを感じました。

 
ソウル女子商業  まず全員を就職させ、その後に夜間大学等への進学を勧める

今回の視察の間、私が自分なりに心に期していたことが一つあります。それは、子どもたちの実際の表情をよく見よう、できれば直接話しかけてナマの声を聞こうというものです。

ソウル科学英才高校の一年生の生徒は、しっかりした英語で「自分の家族の幸せと、韓国の発展のために勉強しています」と言ってくれました。大元外国語高校2年生の生徒は、中国語の時間に「韓国の良いところは、歴史があって、自然がきれいで、食べ物がおいしくて、その上自由にカラオケができるところ!」とオチまでつけた中国語スピーチをしてくれました。キャリア教育で定評のあるソウル女子商業の生徒は「大学進学をせずに、まず就職して3年経ってから働きながら大学に行く」と話してくれました。それぞれの生徒の表情と言葉の中に、自分の幸せを求める率直な気持ちと、社会貢献への使命感を感じました。


生徒たちは各自の状況や国の方針をよく理解していました 「まず銀行員になる」などと話してくれました

 橋下知事は現地でのインタビューで「(大阪でも)世界に通用する人材育成を」と答えておられました。生野教育委員長も「府立高校から海外の大学へ進学する生徒を支援したい」とお考えを話してくださいました。私も、韓国で感じたことを自分の中で消化し、大阪で具体化していきたいと思います。胸を張って私の質問に答えてくれた韓国の高校生と同じように、「生徒一人ひとりの幸せを願うと同時に、日本の社会に貢献していく使命感をもった人材を育てていきます」と、照れることなく私も発言していきたいと思います。


 
 韓国料理を食べながら 橋下知事が自分の描く教育施策についてたくさん話してくれました

韓国の現状を知ること、橋下知事のお人柄を感じること、そのどちらの意味でも大きな経験になった韓国視察でした。「失敗を恐れるより新しい試みを試してみる」、韓国の行政にも、橋下知事からも感じたことです。