-死合わせ-


「……っ」

目を開けるとそこはベッドの上だった
匂いからすると保健室だろう
どうせなら全てが夢だったらどんなに良かっただろうか
そんな俺の浅はかな考えは周りの様子で一瞬のうちに砕け散る

「く……そ……」

握りこぶしでベッドを何度も、何度も殴り付ける。そんなことをしても何一つ変わらないのは分かりきっている

でも――何かしていないと気が狂ってしまいそうなのだ

人が――大切な、守りたかった人間が次々に死んでいってしまう。こんなのまともでいれるほうがオカシイ

「目、醒めたんだ、ケン」

そう言いながら近づいてきたのはナホだった。手には水の入ったコップを持っていて、俺に渡してきた
無言でそれを受け取ると俺は一気に飲みほした
カラカラに渇いた喉を潤してくれる
こんなにもただの水が美味しいと思ったのは人生初だった

「これから……どうするの?」

ナホはベッドの横のイスに腰かけて不安げに口を開いた

「……日向と火織先輩はどうなったんだ?」

質問を質問で返すと、ナホは首を横に振る
分からない――ということだろう

「……」

「……」

お互い無言だった
俺はナホを見て、ナホは自分の足元に目線を下げている

「ねぇ――月音が死ぬ前に言っていたことは本当……なの?」

沈黙を破ったのはナホのほうだった
しかし、目線は変わらず下に向いている

――死ぬ前に言っていたこと
考えられることは1つだけだった

「――好きだよ」

俺は腕を伸ばして、ナホの小さな身体を自分の胸に抱き寄せた

「ケン……」

ナホは顔をあげる。その顔はほんのりと紅く染まっていた
吐息がかかる距離にナホの顔があり、俺の目はナホのピンク色の柔らかそうな唇に釘付けだった
それを察したのか、ナホは静かに――目を閉じる

「ナホ……」

俺はゆっくりと顔を近づけ、ナホにキスをした
ふれあうだけの簡単なキス
それだけでも今は幸せに思える

「うれ…しい……」

ナホの頬に一筋の涙が伝う

「私――今まで生きてきて……何度も世界を繰り返している中で、今が一番幸せ。ケンと……大好きなケンとキスすることが出来て、一緒にいることが出来て、凄く――幸せ」

流れる涙を人差し指で拭って、再び俺はキスをした
さっきとは違う、長いキス
ナホの髪からはとてもいい香りがした。どうして女の子はこんなにもいい香りがするのだろう
――凄く不思議だ
側にいるだけで安らぐことができる
優しく、暖かい気持ちになれる

「大好き――」

抱きついてきたナホを支えることが出来ずベッドに倒れ込み、俺がナホに覆い被さるような形になってしまう
顔が熱くなるのが分かる

「……」

「……」

お互い無言で見つめ合う

「いいよ……ケン。私――ケンだったらいいよ」

キスしたとき以上に顔が紅くなっているのが、窓から射し込む月明かりで分かる

「……分かった」

俺はそう答えて、震えるナホにもう一度キスをして、そのまま――



「……話は戻るけど、これからどうするの?ケン」

俺たちは寄り添うようにベッドに腰かけていた

「そうだな……俺は、まだ会っていない、宵桜先輩を探すのがいいと思う。あの人は生徒会長だ。きっとなんとかしてくれる」

「そうだね。私もそれがいいと思う」

ナホの返事を聞き、立ち上がった

「よし。じゃあ行こうぜ」

手を差し出すと、ナホはギュッと握ってくれたから俺も握り返す
手を繋いだまま保健室の扉に手をかけた瞬間、バァンという轟音が鳴り響いた

「校庭のほうからだ……!

「行こう、ケン!」

「あぁ――」

俺たちは校庭に向かって、薄暗い廊下を走り始めた
もちろん、お互い手を離しはしなかった


Chapter 27 End