-死合わせ-


真っ暗な闇の中に――俺はいた
どこまでも、どこまでも漆黒の闇が続いていた

『健太』

闇の中に、一人の少女が現れる
その少女は俺のよく知っている少女

「月音……お前、死んだ……はずじゃ?」

真っ暗で何も見えないはずなのに、月音の姿だけは――はっきりと見えた
手を伸ばしても届かない距離
どれだけ伸ばしても、月音には届かなかった

『健太――少し、話をしましょう。もう時間は……あまり残されていないから』

月音は静かに俺を見つめる

「時間……?」

『この世界にいられる時間よ、健太』

ふふ――と、儚げに笑う月音にはいつもの強気な姿はない
ただの無力な一人の女の子だった

『健太も気づいている通り、この世界は同じ時間を繰り返しているわ。正確に言うなら、6月23日から『七不思議』か『怪談』の悲劇が起きるまでを、ね。人が死んで世界はリセット――振り出しに戻されるわ。そしてまた、悲劇を繰り返す。この世界はそういう仕組みで出来ているのよ』

「何で――こんなことになったんだろうな」

『それは分からない。ただ――、一つだけはっきりと言えることがあるわ』

心なしか、月音の周りの闇が濃くなったような気がする

『時間ループを引き起こしている犯人は――この世界にいる。そしてその人物はこの世界でいう《リピーター》という存在よ』

月音の言い方に疑問が浮かぶ

「ま、待ってくれ。《リピーター》は月音――お前じゃないのか?」

『違うわ』

ピシャッと言い切る

『私は《リピーター》なんかじゃない。日向と火織先輩は勘違いをしている。本当の《リピーター》は――』

シン――と辺りが静まりかえる
いや、元から音なんて無かったのがよりいっそう静かになったのだ

緊張が走る
《リピーター》は一体誰なんだ――
月音が口を開こうとした瞬間だった

「!?」

グニャリと目の前の空間が歪む
何が起きているのか分からず、俺は一歩後ろに下がる

『時間……みたいね』

ゴゴゴ――と、地響きのような音がついさっきまで静寂に包まれていた闇に響き、木霊する

『どうやらこの世界とはもう――お別れみたいだわ。健太、最後に一つだけいいかしら?』

激しい地響きの中でも、月音の声だけは透き通りようにはっきりと聞こえた

『いい?健太。自分以外の人間は絶対に信じちゃダメよ』

「それはどういう……」

言いかけた言葉が轟音にかき消される
パラパラという表現通りに、闇の空間が剥がれるように崩れていく

『この世界は『七不思議』や『怪談』の世界とは違う。信用出来るのは自分自身だけよ。気をつけないと一瞬で持ってかれるわよ――大切なものも、自分も、何もかも』

「どういうことだよ!意味分からねぇよ!それに――《リピーター》は誰なんだよ!月音、お前知っているんだろ?だったら教えてくれよ……!」

声を張り上げる
これだけは何が何でも知っておかなければならないような気がするのだ

『《リピーター》の正体は……』

「正体は……?」

『――――よ』

突然、ノイズがかかった古ぼけたレコーダーのように音が途切れ途切れになる

『ゆ……ちゃ――ダメ……太』

「聞こえない!もう一回言ってくれ!」

必死になって叫ぶが、俺の声が月音に届くことはなかった
文字通り消えてしまったのだ
さっきまで目の前にいた月音の姿が

ぐらっ――と目眩に似たような感覚が俺を襲ってくる
まともに立っていることすらままならない
そのまま俺は倒れ込むように意識を失った


Chapter 26 End