超人ですか?
誇張でも何でもありません。
北翔海莉という役者の凄さ、その新たな一面を存分に堪能できました。
北翔海莉がモーリス・ルブランを演じていなかったら、惨憺たる結果になりかねなかった・・・そう思えるほどの難役を、大きなリスクを背負いながら、何てことないかのように爽やかに演じ切っていました。
まずこのモーリス・ルブランという役ですが、立ち位置が分かり辛いのです。
別の世界、違う次元から物語を客観的に眺めて語るストーリーテラーではありません。
物語の世界、いや、正確には「ルパンの世界」に存在し(片足を突っ込んでいるくらいの感じでしょうか)、ルパンに寄り添い、時に対話し、ルパンにも少なからず影響を与えながら、ストーリーテラーの役割を担うのです。
突き詰めて考え過ぎると、ルパンの伝記作家ということは分かるものの、そういうことではない意味での「一体どこの誰なんですか?」感をこの役にものすごく感じました。
特に終演後。
「ルブランって結局どういう存在だったのだろう」と。
北翔海莉というスターの力量のみによって、上演中はほとんどルブランという役に違和感を覚えませんでしたが(全く自然にその存在を認めることができました)、終わって考えてみると「なんでずっとルパンのそばでウロウロしているのだろう」という役に対する疑問が少しずつ湧いてきました。
それでもシリアスに語ったり、コメディっぽく魅せたりと場面ごとに、ルパンとのやり取りや関係性に応じて変幻自在に舞台上を駆け回り、踊り、歌う。
役に忠実に、客席に誠実に。
偉大なる安定感とヤミツキになる安心感。
私は北翔海莉の出演を待ち望んでいたのだ、と自分の気持ちに正直になれるのです。
そして彼女の表現は、初見ではなかなか分かり辛かった本作においてオアシスのように貴重なものとなりました。
特に銀橋ソロは演出的にはちょっと唐突感があったものの、彼女の歌が空気を変えてくれたことで「さあ、今一度作品世界に入ろう!」と思わせてくれました。
正塚先生を擁護するつもりはありませんが、きっとルブランという役は相当面白い役なのだと思います。
一方で正塚先生の作品らしい、非常に難しい役で、演じる生徒を選ぶ役でもあると思います。
私の記憶する限り、北翔海莉が正塚先生の作品に出演するのは、バウW主演の「BourbonStreet Blues」以来2回目だと思います。
それなのに先生は北翔海莉というスターを見抜いていて、敢えてこの難役を当てたのではないかと推察します。
正塚先生らしい鋭い洞察力と配役の妙。
実は私は観劇直後、今回はあまり「おいしい役」ではなかったのかも、と思っていましたが、改めて味わってみるとかなりマニアックなツボではありますが、北翔海莉にとっては貴重な役であったと思います。
こんな風に作品の舞台となる世界に片足だけ突っ込んでいる役、おそらく宝塚では二度とできないのではないでしょうか。
しかもそんな不思議な役を、さも普通に(当たり前のように)演じてしまうところも、全編を通して宝塚史上希有な名場面と言えるような気がします。
ちょっと前向きな考え方ではありますが、この役は「専科」で特別出演だからこそ出来る役と私は捉えます。
改めて振り返って揺れ動く気持ちを正直に告白すると、原作には登場しない(登場するわけがない)この役は、北翔海莉の特出のためにある種強引に作ったのではないかという疑念もありました。
でも今はそんなことはないと確信しています。
北翔海莉が演じても客席がそう簡単に消化出来ない、良くも悪くも「正塚先生らしい」役ではありますが、でも間違いなく先生が北翔海莉のために、北翔海莉でないと出来ないような役を渾身の力で作ったのだと思います。
分かり辛い役ではありますが、手を抜いて安易に作られた登場人物でないのは明らかです。
そしてミチコは本当によく取り組んだと思います。
様々な評価、考え方、感じ方があろうかとは思いますが、私はこの役も彼女のキャリアとして認めたいと思いますし、北翔海莉というスターの「偉大なる履歴書」に太字大文字で書きたい経歴です。
「オーシャンズ11」のラスティ・ライアンから一転して、全く取り組み方の違う、観客も捉え方のモノサシの異なる役で私も消化に時間がかかりましたし、当初はいろいろ考えさせられました。
しかし、総論としては彼女自身が演出家によって与えられた「チャンス」を活かし、「おいしい」役に昇華させたと見て間違いないと思います。
次回は星組公演に初出演です。
以前、どなたかのコメントに「北翔海莉が最も似合わない組」といったニュアンスの返信をした記憶があります。
その時と全く同じニュアンス、心境なのですが、「だから面白い」のです。
「似合わない」というのは文字通りではなく、そしてもちろん否定的な意味でもなく、「異色な相性」、「無限の可能性を秘めた出会い」まで期待しているのです。
しかも私が今イメージできるのは、あくまで「想定内」での話であり、私が勝手に想像しているだけの話です。
「柚希礼音率いる、円熟なのにそのギラツキが止まらない星組」に、北翔海莉という「実力に満ちた新たなシゲキ」が相互作用する。
想像出来ないような魅力が互いに爆発し、そして一体となった時、100周年のスタートを切るに相応しい傑作が誕生するのではないでしょうか。
ストーリーがオリジナルのため配役の予想が難しい所ですが、もしや・・・
ホレイショ・ネルソン
なんてことはないですよね。(ありえますか!?)
完全に妄想劇場に突入しそうなので、今回はこの辺りで。。
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