前回のお話では、

立甲とスポーツパフォーマンスの関係を考える上で、

基本となるヒトの進化の話に触れてみました。

 

立甲

 

この中で、そもそも、

ヒトの肩帯はぶら下がりと投動作を行うために、

鎖骨が残って延長し、

肩甲骨の関節面は外を向いてきたんだ、

ということに触れました。

 

立甲は、

上肢(腕)を前方にあげた時に、

肩甲骨を内旋させ、

肩甲骨の内側縁を胸郭から浮き上がらせる運動です。

 

 

これにより、腕の向かっている方向に、

肩甲骨の関節面を向けることができます。

そもそも、外側向いてついてるんだから、

身体の外側だけで使えるようにすりゃいいもんを、、

と考えてみても、それは無理な話です。

 

前回ご紹介した「なぜ外側を向いたのか」という学説の中に、

ヒトが厳しい生存競争を勝ち抜いてくるなかで、

狩猟における投動作の発達が寄与した、とありましたが、

これは、

「生きのびるのに都合が良いように」

そうしたのであって、

日常生活を送りやすいようにしたわけではないのだと思います。

したがって、

ヒトは当然視界に入る範囲、特に体の前方で上肢を操作し、

器用にものを作ったり、

動かしたり、料理をしたりします。

 

腕を体の前方にあげてくる時、ヒトの肩甲骨は、

どのように動くのでしょうか。

Ludewigらが12名の健常成人を対象に計測しています。

        (Ludewing 2009 JBJSより著者改変して引用)

 

上肢が上に持ち上がってくるに従い、

ヒトの肩甲骨は前を向き(内旋)、

関節面を上に向けて(上方回旋)、

後ろに傾いていきます(後傾)。

ちなみに、この運動は、

外から手をあげる時と、

前からあげる時では、

支点が少し異なり、

回転の中心が違っていることを、

京都大学の森原先生らが明らかにされています。

(森原徹 2011 肩関節より引用)

 

普通は、このようなバリエーションを持って肩甲骨を動かすことができるので、

生活には困らないわけです。

ただし、この運動は、

普通胸壁に沿った形で、

丸みを持った関節面をなぞって行われてくるわけです。

この辺りもポイントです。。

 

では、立甲は・・?

どうしてそんなに羽みたいなのはやさなきゃいけないんだ・・

って感じですよね。

 

そろそろ、私なりの解釈をお伝えしないと。。

まず、

立甲ができる、できない、

はあまり重要でなくて、

「肩甲骨を胸壁から分離して十分に動かすことができるか」

が鍵を握ると考えています。

つまり、

背骨をまっすぐにしたまま、肩甲骨を前に出したり、

後ろに引いたり、下に下げたり、上に向けたり、

前に向けたり、できますか・・?

ってことです。

 

その理由は、たくさんあるのですが、

ここでは代表的な二つの点に関して。

 

まず、一つ目。

わかりやすいので、

身体の前にあるものを「押す」という動作。

(もしくは、前にいる(ある)ものに力を伝える)

前方にある物体に力を伝えようとする場合、

力の起点になるのは、

やはり地面です。

分かりづらいかもしれませんが、

地面から力をもらえないと、

前方にある対象物に力を加えるのは大変難しい。

空中に浮かんでいる状態で前にあるもの押すのは難しいでしょう?

(浮かんだことないからわからないけど・・・)

地面を足で後ろに押すことで、

前にあるものに力を伝えることが出来るわけです。

 

では、

腕を前にあげて対象物を押すために

肩甲骨を前に出してくる動きをやってみましょう。

 

おそらく、写真のように背中がまるまるのではないでしょうか。

地面に四つ這いになって、

しっかりと地面を押すようにしてみる動きでも確認できます。

つまり、

立甲を訓練していない状態だと、

肩甲骨の関節面を前に向けて物を押そうと頑張る時、

胸郭を丸める、つまり、胸椎を後ろに弯曲(後弯)させる動きが、

都合が良いわけです。

 

ですが、

この状態で物を押そうとすると、

地面を押して、せっかくもらった反力は、

自分の重心をきれいに前に運んでくれません。

つまり、

「地面からもらった力が100%前に向かわない」

わけです。

 

この時、立甲が使えると、上図の形のように、

地面を蹴った力がそのまま自分の重心を前方に運んでくれて、

対象物に力を加えるのが容易になります。

地面を押した力の水平成分が、

腕を通して前に伝わる形が出来上がるというわけです。

 

 

私は、ラグビー選手やレスリング選手を指導させていただく機会が多いのですが、

このような競技で、「タックル」に入る時は、

ほぼ100%体を前に傾けた状態で腕を前に伸ばします。

その時、体は素早く前に進めたいので、

背骨はまっすぐにしたい。

けど、腕を前にあげようとすると、胸椎は丸まって(後弯して)しまう。。

このような状態だと、素早くきれいに強く相手に力を加えることが、

難しくなってしまいます。

立甲する能力を持った選手は、

そこがあまり苦にならなくなるんですね(^ ^)

 

つまり、肩甲骨を胸郭から分離して、

背骨をまっすぐにしたままいろんな方向に向けられる能力は、

そのまま、良い姿勢で相手にコンタクトすることに繋がりますよ、

ということなんですね。

この能力を向上させるためのトレーニングとして、

Re-Viveでは

Scapula Grid

というトレーニングをお伝えしています。

Gridとは「格子」

快適な位置を真ん中として、

文字通り格子状に肩の位置を動かす練習です(^ ^)

 

今回のお話は、

体の前方に力を伝える上肢操作なので、

肩甲骨がしっかり腕を支えてくれた方がいいに決まってるだろ、

ということで、イメージしやすいかもしれません。

 

長くなってしまったので

二つ目のお話はまた次回。。

走る、泳ぐ、などの動きの中でどのような利点があるのか、

を考えてみたいと思います。

 

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

 

 

(参考・引用文献)

・Ludewig et al. Three-Dimensional Clavicular Motion During Arm Elevation: Reliability and Descriptive Data. JOSPT 2004;(34) 3:140-149

・Ludewig et al. Motion of the Shoulder Complex During Multiplanar Humeral Elevation. JBJS Am; 2009;91:378-89

・森原徹ら. 肩関節屈曲・外転における肩甲骨周囲筋の活動パターン 〜鎖骨肩甲上腕リズムに着目して〜. 肩関節; 2011; (35) 3: 715-718

 

トレーニング動画や当施設でのトレーニングの様子は、

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をご覧ください。

 

http://reviveconditioning.com