記念すべき第1回のテーマには、立甲を選んでみました。

立甲ってなに??そう思う方も多いかと。。

背中にある肩甲骨を肋骨から分離して腕と一緒に動かすと、

こんな風に背中から浮き出てきます。

(レスリングトップレベルの選手の立甲)

 

古武術、運動研究家の高岡 英夫氏はこれを、

「甲腕一致の能力」

と述べていて、この能力があることで、

上肢運動のパフォーマンスが向上することを示しています。

動物でいうと、四足動物、

チーターやトラは前脚を駆動して走行に用いるので、

効率的に地面に力を伝えるために、

上腕の方向に肩甲骨の関節面がしっかりと向いている必要があるということですね(下図)。

 

現在では、この立甲をスポーツ選手が習得することのメリットとして、

「スローイングにおけるパフォーマンスが向上する」

「押し動作で力を伝えるときの力源を相手にわからせない」

「体軸が安定する」

「ランニング時の腕振りが強化される」

といったことが様々なところで言われています。

それはどうしてなのでしょうか。

正直、私は立甲ができるようになったからといって、

スポーツのパフォーマンスに直結するとは考えていません。

 

この辺りを説明するには、

肩甲骨の向きを決めた進化のお話しをしなければなりません。。

 

人間には鎖骨があることを、皆さんはご存知ですね。

この鎖骨というのは特殊な骨で、

四足性動物では全般に退化傾向にあります。

爬虫類のように横に脚が飛び出した動物から、

猫や犬、トラやチーターのように体の下に脚が移動してきた動物に進化する過程で、

哺乳類の肩帯は「自由肢化」し、

走行性の哺乳類では、

肩帯の自由肢化が進んで鎖骨は退化してきたと言われています(犬塚 1992)。

 

ちなみに、側方型四足動物から下方型四足動物に進化する過程で、

走行に効率的になるよう、肘は前に、

膝は後ろに回転するようになったわけです。

関節が「屈曲する」という運動は、

「関節の角度を小さくする運動」と定義されているようですが、

肩関節の屈曲、肘関節の屈曲、頭部の屈曲、股関節の屈曲、体幹の屈曲、

移動軸がすべて体の前方に動く動きをさしているのに、

なんで膝だけ、後ろに動くんだろ、、

と若かりしころに考えていた疑問は解決されました(^ ^)

 

脱線した。。

さて、元に戻すと、

ヒトに鎖骨が残っているのはなぜかというと、

brachiationといって、

ぶら下がり運動を行うために鎖骨が残っているという話です。

この鎖骨は、大変重要な骨で、この鎖骨が長くなったことで、

ヒトの肩甲骨は、関節面が四足動物のように前方ではなく、

側方に向くようになった、

と言われています。

また、

肩甲骨を外に向けることでヒトは

「物を遠くに投げるための機能を獲得した」

という学説(Roach 2013, 2015)があります。

物を遠くに飛ばすためには、身体の横で腕をしならせる必要があり、

そのために外を向いている肩甲骨は都合がよく、

関節窩面がチンパンジーなどのサルより下を向いています。

 

このお話しを私はおもしろいな、

と思っています。

鎖骨は、歩行、走行時に慣性をコントロールする役割を持ち、

ぶら下がりでテコのアームを長くし、

鎖骨の長さが残存していることで肩甲骨を外へ向けることができて

ヒトは投動作を発達させたというわけですね。

(N.T. Roach and B.G. Richmond. 

Clavicle length, throwing performance and the reconstruction of the

Homo erectus shoulder. J of Human Evolution (80);107-113:2015より)

 

いやいや、ちょっとまて、

それじゃやっぱり、甲腕一致(関節面を前方に向ける能力)はスポーツパフォーマンスを改善させることにならないじゃないか、

と思われるかもしれません。

事実、トラとかヒョウとか四足動物は鎖骨が退化しています。

だから肩甲骨の関節面を腕の方向に向けやすいわけです。

 

根本的に求められる能力が異なるのに、

同じように解釈して、

ヒョウとかチーターとか、

足の速い四足動物が立甲してるから、

人間もそれをすれば速く動かせる!

とするのは少々早計かと。

 

長くなってしまったので、

立甲修得がスポーツパフォーマンスを向上させるのはなぜか、

次回考えてみましょう😊

 

参考文献

・「究極の身体」高岡英夫 2006 講談社α文庫

・「退化の進化学」犬塚則久 2006 講談社

・N.T. Roach et al. Elastic energy storage in the shoulder and the evolution of high speed throwing in Homo. Nature. 2013 June 27; 498(7455): 483–486. 

・N.T. Roach and B.G. Richmond. Clavicle length, throwing performance and the reconstruction of theHomo erectus shoulder. J of Human Evolution (80);107-113:2015

・犬塚則久.肩帯の進化.人類進化学100巻4号;391-404:1992

・岡田守彦. サルからヒトへの進化ー二足歩行の前段階ー. Anthropol. Sci.Vol 122; 98-101:2014