伊勢神宮 A Social History of the Ise Shrines その1 | ReubenFan

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伊勢神宮/Ise Jingu

”A Social Histrory of the Ise Shrines”
Mark Teeuwen and John Breen 
Bloomsbury Publishing. Kindle 2017/written in English

 

紹介

英語の本に手を出してしまいました。 英国ベースの出版社から2017年に出ています。 ということは、読者の対象は、世界の神道研究者なのでしょうか。直訳すると、「伊勢神宮の社会的歴史」とでも。

海外の研究者は、どのように伊勢神宮や伊勢市を捉えているのでしょう。

 

Kindle版ですが読破するのはたいへんです。少しづつ「眺めて」います。しかし、思ったより読みやすいことがわかりました。まず第一印象を記してみます。

時代に沿ってChapter10まで、わかりやすく整理されています。 きっと、観念的な表現でなく論理的なパラグラフや文章の組み立てによって、自分たちの考え方を伝える構成になっているからでしょうか。海外にはキリスト教が社会歴史に大きく関与しているという視点があって、その目で伊勢神宮を見ているのかもしれません。このように整理された伊勢神宮に関する本は今まで見たことがありません。

 

著者のMark Teeuwenは、オランダ生まれ、オスロ大学教授で神道研究において多くの論文を発表しています。John Breenは国際日本文化研究センター(日文研/京都)の教授で、『変容する聖地 伊勢』や『神都物語 : 伊勢神宮の近現代史』など思文閣出版から日本語で出版しています

  

この本はごく最近、2017年出版されたものです。過去の歴史推移を教科書的に描くことが目的ではないです。もちろん宗教的考察でもありません。現在起こりつつある社会事象について過去にさかのぼり、これからの方向を読み取ろうとしているように感じます。

 

なぜ

この著者や世界の研究者は、いったいなぜ伊勢神宮や伊勢を研究対象としているのでしょうか?

建築家ブルーノタウトは社殿を見て感銘を覚え、ジョンレノンは自然の中から生み出される深遠なエネルギーに感動したそうです。

しかし、MarkとJohnの著書にそのような観念的な記述は見えません。伊勢神宮が他に類を見ない社会的機構としての宗教施設であること。朝廷政府の意図によって皇祖神すなわち天皇の先祖を祀るため創建整備されて以来1300年に渡り、また現在も強く社会、政治中枢に関与し続けていること。このような事象は興味の域を超えているのでしょう。

特に、これからの動きに関心を示し、明治以降の社会との関りを詳しく述べています。

 

今、多くの日本の人たちの伊勢神宮に対する想いは新しい様相を見せています。政策や社会経済だけでなく、マスコミやネットでの扱いの変化にも目を向けています。神宮は国民にこころのふるさと、氏神であることをソフトに示しています。政権は、天皇に対する好意や神宮の国民に対する浸透を見え隠れしながらうまく取り込んでいく。これからの伊勢神宮と政治社会との関係がどのような方向に進んでいくのか、非常にソフトで見えない形の国家神道化に、海外の研究者は強い関心をもっているのではないでしょうか。

 

内容は表題のとおり、7世紀の伊勢神宮の創始期から現代まで、神宮や地元伊勢市が社会との密接な関係を持って変容してきたことを述べています。 大きな変化のあった明治から、昭和、戦後の推移、特に神道指令後の遷宮の実現について詳しく調査しています。報道やマスメディアの扱いの変遷とその影響についても触れ、Conclusionでは、伊勢志摩サミット以降、政治との結びつきにより次の神宮の姿へと変化していることが示されています。

 

 日文研からは、Jinja Honchō and the Politics of Constitutional Reform in Japan /Ernils larsson という英文article もでてますから、現代の日本政治と神社本庁(日本会議)の関係についても研究者は注目しているのかもしれません。

 

日本向け関連書籍

John Breenは日本語での著書『変容する聖地 伊勢』(2016)を出版しています。伊勢神宮が社会により変化し、多層化し、適応してきたことを論証しています。「大古から変わらぬ伊勢神宮」という観念を持つ日本の人たちにメッセージを送っているようです。日本の人だと扱いにくいことも、外国人ということで書けるのかもしれません。上述の著書には英文で一部が入っていますので、その日本語訳的なところもあります。

内容の多くは日本人研究者の論文で、決して「外国人からみた伊勢神宮」という類のものではありません。間接的な口調ながら、日本の歴史における伊勢神宮の在りようや伊勢という町の変化、神仏習合と明治期の分離政策、特に最近の変化についての「気付き」を伝えようとしています。

 

これから

まだ拾い読みの段階です。もう少し内容が分かってきたら、その2を書けるかもしれませんが、それまでは追記をしてみます。

 

この書で示される2017までの神宮の姿はその後も「進化」しています。伊勢神宮の創建は7世紀の律令制による国家統一とも深くかかわり、新しい元号のイメージとも重なります。また政権の元号制定経緯もこの著の示唆する延長線上にあるのでしょう。数年後、我々日本人の動きがこの本の続編に示されるかもしれません。
一部追記19/4