飼い犬を散歩に連れていくと、
ルートの途中で犬が必ず立ち止まって動かなくなる場所があった。
何かが落ちているわけでもないのに、何故かそこで必ず立ち止まるのである。
この日も執拗に匂いを嗅いで、なかなかその場を動こうとしない。
そして、しびれを切らしたワタクシが犬を抱きかかえて先へ進もうとした、その時であった。
〝それ〟はワタクシの視界にスッと入り込んできたのである。
堅牢な金網に囲まれた下水道施設の無機質なコンクリートの上で、
〝それ〟は明らかに異彩を放っていた。
関係者以外立入禁止の区域内に何者かによって意図的に置かれたであろう〝それ〟は、一体何を意味しているのか…
そう言えば数年前、
団地内の「調整池」で発見された身元不明者について情報提供を求める町内会の回覧板が回った事があった。
それと何か関係があるのだろうか…。
しかしこの団地内に調整池は三箇所有り、回覧板でも場所の明記まではされていなかったので、その現場がここなのかどうかは今となっては分からない。
そしてその日以来、何となく〝それ〟の前を通りたくなくなり、散歩の際はそのルートを避けるようになった。
それから月日は流れ、約半年が過ぎたある日のこと…
〝それ〟の存在をすっかり忘れていたワタクシであったが、ついうっかりその前を通りかかってしまったのだ。
ハッとして足早に〝それ〟の前から立ち去ろうとしたのだが、
一度だけ視線を〝それ〟の方向に向けたワタクシは、
「あれ⁉︎」
と思わず声を上げた。
そして金網の向こう側の異様な光景に、ワタクシは目を疑った…
《つづく》