Retro Friends ~This is ther's happy life!~ -4ページ目

登場人物紹介(その他の人々)

*浅瀬 千鶴(あさせちづる)*

つばさの母。女優でセレブな奥様。


*浅瀬 珊瑚(あさせさんご)*

つばさの姉。大学1年生。


*浅瀬 綾名(あさせあやな)*

つばさの妹。おませな小学6年生。身長は160cm。


*佐竹 萌(さたけもえ)*

葵と桂矢の母。


*佐竹 まろん(さたけまろん)*

葵と桂矢の姉。家事手伝いの二十歳。彼氏いない歴20年。

6話

高原 豊。
自分さえ楽しければ何でもいい、の超自己中人間の彼だが、実はとってもファンシーな愛称があったりする。
それは…

「ゆっちぃっ。」

2時間目が終わるのとほぼ同時にB組の豊の元へやってきたのは渚。
名前を呼ばれたのに気づいていないのか豊は黙ったまま。

「ゆっちぃっ!昨日のトランプ(ポーカー)の決着をつけるわよっ!」
「………。」

猿の可愛らしい絵柄が描かれているトランプを目の前に突き出され、勝負を挑まれる。
渚は昨日の放課後、5勝5敗で終わったポーカーの決着をつけたいようだ。
だが、豊はまだ黙ったままである。

「ちょっと、ゆっちぃきいてるのっ?!ゆっちぃ、ゆっちぃ、ゆっちぃーーーーっ!!」
「うるさいなぁ、そんな大声ださなくてもきこえてるよ。」
「だったら、返事くらいしなさいよ、ゆっちぃ!」
「「ゆっちぃ」って連発するな!」

どうやら、豊がずっと黙ったままだったのは「ゆっちぃ」という言葉にあるようだ。
これは、中3の時に渚の従兄弟である湊に一方的につけられ、いつの間にか定着してしまった豊の愛称。
当然、本人は気に入っておらずこの愛称で呼ぶなと常にまわりに言っているが聞く人間は2.3人くらい。
それどころか、本人が嫌がっているとわかっていて呼び続けている奴もしばしば。

「えぇー。何が不満なのよ、ゆっちぃー。」
「渚…君わざとやってるね…。」
「あ、ばれた?」

で、渚もその一人だったり。
わざとらしく「ゆっちぃ」と何回も呼んでくる。
呼びやすいのも確かだが、嫌がる豊を見て楽しんでいるのも確かだ。

「そんなに嫌?「ゆっちぃ」って呼ばれるの。」
「わかりきってることきくなよ。」
「あ、ばれた~?」

きゃはは、と楽しそうに笑う渚に腹を立てずにはいられないが、なんだか怒るのも面倒くさく、豊は「はぁ」と疲れたようにため息をついた。

「じゃあ、「ジョルジュ」ってどう?」
「あ、真珠。」
「「ジョルジュ」ってなに?っていうかもう原形とどめてないし。」
「なによ、あんた「ジョルジュ」もしらないの?」

突然湧いて出てきたのは真珠。
いきなり改名を提案してきたが、改名案は本名と一文字もあっていないわけのわからないものだった。

「しらないよ…」
「だっさ~。お菓子のイメージキャラクターよ!ちょっとイタリアンで渋いひげの…」
「なんていうお菓子?」
「だめねぇ、ゆっちぃ。うーん、でも…確かにゆっちぃの言うとおり「ジョルジュ」じゃ違いすぎる気もするわねぇ。
…「ジョルっちぃ」にする?」
「だから、なんていうお菓子だよ!あと、それも原形とどめない!!」

真珠は次から次へと「ジョジョっちぃ」「ジョルジュルっちぃ」「ジョルルンっちぃ」などの改名案を打ち出してきた。
だが、当然全て却下。何故「ジョル」にそんなに拘るのかは謎。しかも「っちぃ」がつけば良いと思っているようだ。

「もー我が侭な奴ね。どんなのがいいのよ。」
「誰が改名したいって言った?僕は「ゆっちぃ」って呼ばれるのが嫌なだけなんだけど。」
「だから、改名したいってことでしょ?」
「ちがう…」

何でそういう考えになるのか。
真珠の奇妙な改名案にいちいちツッコミをいれて豊は少し疲れたようだ。
ぜぇーぜぇーと軽く息を切らしている。心の中で思ってももうつっこむ気になれない。

「葵君や海君の気持ちが少しわかった気がする…。こいつら二人相手にするの響子以上に疲れる…。」
「かちーん。失礼な奴ぅぅぅ~。響子以上ってなによぉ~。最大の侮辱だわ。」
「ほんと…もう良いわ。よく考えたらあんたに「ジョルジュ」ってあだ名をつけるのはお菓子のイメキャラの「ジョルジュ」おじさんに失礼だわ。ジョルジュおじさんに対する最大の侮辱よ。」
「教室戻ろう、真珠っ。こんなところにいてもつまんない!」
「じゃあね。あんたは「ゆっちぃ」で十分よ。」

豊のさりげない言葉にそうとうご立腹な渚と真珠。
ぷんぷんと文句を言いながら教室を出て行ってしまった。
豊から見れば何故怒られなければならないのかと唖然しざるを得ない心境だ。

「なんなんだよ、あいつら…。」

でも、騒がしいのが去ってくれて、内心ほっとしてもいる。
これで「ゆっちぃ改名騒動」は幕を閉じたかに見えたが、二人がでていくのとほぼ同時に来た海と聖、それに優によってそれは掘り返された。
またややこしい連中が来たと豊は顔をしかめる。

「あれ…千夜は?」
「海君、千夜君に用事?珍しいねぇ。千夜君なら桂矢君と一緒にC組にいると思うけど。」
「氷夕のとこか。いや…借りた本返そうと思って。」
「ふぅん…で、後ろの人達は何の用なの?」
「そんな嫌な顔するなよ、ゆっちぃー。暇だから海にくっついてきたんだ。」

ここでも出てきた「ゆっちぃ」。しかし、優には悪気はないので怒るに怒れない。
とりあえず注意しておく。

「優君…その呼び方やめてくれる?」
「えー「ゆっちぃ」って呼びやすいんだけどなぁ。でも、嫌ならやめた方が良いよなー。」
「優君は良い子だねぇ。…そう言っていつもすぐ忘れるんだけど。」
「あー…そう?あはは、わりぃわりぃ。これからは気をつけるからさ。」

優は豊がそう呼ばれると嫌なことを素で忘れている。
なんとか呼ばないようにしようと思っても呼び慣れしまっているせいか、なかなか上手くいかないのだ。
それでも、健気に努力しようという友達想いの優に対してそんな努力する必要ないと笑うのが約1名。聖だ。

「そんな努力する必要ないよ、優君。だって豊君にこれほどお似合いなあだ名なんてないじゃん。ねぇ、「ゆっちぃ」君?」

普段は仲が良い様に見えるが実は結構簡単に相手の嫌がることを平気するのが聖という人間。
豊も似たようなものだが。聖はいつもは「豊君」と呼んでいるが嫌がらせの時は「ゆっちぃ君」と悪意を込めて呼んでいる。

「うーん…そう言われればそうだよなぁ…。」
「納得するなよ、優。聖もいい加減にしろ。本人が嫌だって言ってるだろ。」
「あれ?海ちゃん珍しく豊君の味方するんだ?へぇー。」

「別に味方してるわけじゃない」と海は聖を睨み付ける。ただ、調子にのろうとした兄を止めたかっただけだ。
珍しい弟の態度に聖は気分が冷めてしまったようで「わかりましたよー」とつまんなそうにそっぽを向いた。

「海君に助けられるなんてね…」
「別に…ただ聖がうるさくなるのが嫌だっただけだよ。」
「やかましい兄弟を持つと苦労するよねー。」
「お前が言うのもどうかと思うけど…;あ、これ、千夜に渡しといてくれよ。じゃあ、教室戻るから。」
「えーもう帰るのかー?」
「もうって…優、時計見てみろ。」

海にそう言われて時計を見るともう時刻は3時間目開始の一分前だった。

「うわああ~~やべぇ~!もう授業始まるじゃん!」
「3時間目って確か英語だっけ?」
「あの先生遅刻したら10分はお説教されるぜ!急ぐぞ、聖!」
「それならそれで授業が潰れていいけど。」

「授業やってる方がマシだぁ~!」と優は頭を抱えながら、大慌てで教室を飛び出し、聖もそれに続いた。
海はそれを見送ってから、教室を出て行った。
10分間の休み時間の間で随分と疲れたものだ。これだけ疲れても「ゆっちぃ」というあだ名は改善されそうにない。
無駄な時間をすごした感じが抜けない豊だった。
ゆっちぃの明日はどっちだ?!


そして、その日の夜…

「ということが昼間にあったそーだ!」
「そんなこと話す為に電話してきたのか?ならきるぞ…。あと、その話ならもう知ってる。」

珍しく葵につばさから電話がかかってきた。
だが、想像通りというかいきなり無駄話を始めるので、呆れて電話をきろうとする葵をつばさが慌てて止める。

「うわわっ!待て!きるなって!!私が悪かった!!」
「ったく…用件があるなら早く言えよ。」
「悪かったって!で…用件は、ゴールデンウィークの旅行ことなんだけどよ。」

もう4月も下旬となり、1週間もしない内にゴールデンウィークがやって来る。
今年のゴールデンウィークは土日も含まれているので、通常より少し長い。
だから、みんなでどこかに旅行という話がでていた。
つばさの用件というのはその旅行のことのようんだ。

「2泊3日でうちの軽井沢の別荘に行くことになったから。」
「はい、了解…」
「ん?なんかあまりのりきじゃない感じだな。折角の旅行なんだから楽しくいこうぜ!」
「お前等と行くんじゃ、楽しむゆとりなんてねぇよ。不安の方が大きい。」

げっそりとした声の葵。
この旅行が楽しみなつばさにとっては、一緒に行く相手がこういう態度だと少しカチンとくるものだ。

「じゃあ、行かなきゃいいだろ。」
「誰も行かないとは言ってない。」
「ほんとは楽しみなんじゃねぇか。素直じゃないねぇ、葵ちんも。」
「うるせぇよ…。」

葵もこんなことを言っているが実は結構楽しみにしている。
それがわかったらつばさは少しだけ嬉しくなった。

「楽しみだなー!あ!花火しような!花火!」
「それはまだ早い気がする…。」


さぁいよいよゴールデンウィーク!


wrote by Kyoko

5話

「つばさ、映画行く気ない?」
「はい?」
 姉からの唐突な言葉に、つばさはなんとも間の抜けた返事をした。
「いやさ、映画会社から株主優待の招待券が大量に来てね。今月いっぱいのやつ持て余してんのよ」
「うちの関連施設じゃないの?」
「違うよ。あたしが個人株主やってるところ」
 珊瑚は聖稜学園大学商学部1年次生であり、マーケティングを専攻している。
そんな彼女が小学生から続けている、実益を兼ねた趣味が株取引であった。最近は先物取引にも手を出し、
稼ぎは年間億単位に相当するとかしないとか。その筋では「錬金術師」とまで称賛されるほどの凄腕である。
「で、行かない?映画」
 以上が今回の騒動のプロローグである。


      ∞


 かくて姉から十数枚の招待券を格安で入手し、いつもの腐れ縁軍団と映画館へやってきたのだが。
「ぬぅぉ~~っ!やだやだ!きょーちゃん、これがいいー!」
「そんなに観たきゃ観てくりゃいいじゃん」
「一人はいや~っ!ゆっくん付き合って!」
「ふざけんな。お前一人で行け」
 人目を顧みず、手足をじたばたさせて駄々を捏ねるのは、もちろん響子だ。某小学生探偵のアニメ映画を観たいと言ったものの、
賛同者が誰もいない。ちびっ子や親子連れに混じって一人で観る勇気はなく、かといって諦めたくはない。
それでさっきから周りの制止も聞かず、暴れまくっているのだ。
「僕は海くん達と観るから」
 豊が観たがっているのは、原作が世界中で大ベストセラーとなった歴史ミステリーだ。海と渚も一緒に行くという。
「いい加減、うざいよ響子。そんなに一人が嫌なら杏やつばさと一緒すれば?」
 不快感を微塵も隠さない瞳を真珠が響子に向ける。氷の女王ばりの冷たい視線に、さすがの響子も少し大人しくなった。
 ちなみに映画は一人で観る主義の真珠は、B級カンフーアクションを選んだ。つばさと杏も同じものを観るかと思いきや、
意外にも韓流ラブストーリーらしい。理由は二人が大ファンの韓流スター主演だから。
「響子も同じ俳優好きなんでしょ?」
「う…そりゃ大好き、っていうかむしろ愛してるけど!あ~でもっ!」
 頭を抱え苦悩する。そこへ、意外な所から救いの手(?)が差し伸べられた。
「……じゃーけーやがあのバカに付き合えば?特に観たい映画ないんでしょ?」
「え゛?」
 さらりと千夜の落とした爆弾に、桂矢が露骨に顔をしかめた。
日頃から趣味が昼寝くらいしかない桂矢は、映画にも特に興味はない。千夜と一緒でいいやと適当に考えていたのだが。
「俺は別に一人でもいいし。桂矢どうせ上映中寝ちゃうんだから何でもいいんじゃん?」
 千夜の観たい映画というのは、こちらも意外で、青春純愛映画(邦画)だった。
なんでも千夜の好きな建築デザイナーが美術監督で参加している作品なんだとか。
千夜が選ぶ映画なら騒がしいものではなく、居眠りもしやすいだろうという仄かな目論みもあった桂矢だが。
「いいんじゃねぇの、桂矢?たまには響子と映画館デートとか♪」
 いつもなら味方な筈の長髪の保護者が笑いながら千夜に賛同する。あ、それいいね~。デート、デート♪と
他のメンバーもはやしたてる。
「えぇ?!も…もしかしてけーくん、きょーちゃんのことを…っ」
 似たような勘違いを繰り返す馬鹿一名。
「うるさい、黙れ!なにありえねー勘違いしてんだ、松阪牛!」
 桂矢マジ切れ。そんな風に言わなくてもいいじゃん~と、杏に泣き付く響子を無視して声を張り上げて反論する。
「みんなしてふざけたこと言って…。大体、それなら葵でもいいじゃん!」
 これまでのやり取りを呆れきった様子で見ていた葵が、急に矛先を向けられた。
「いや、俺はおまえと違って目的もって来てるから」
 葵は今回、氷夕と一緒に時代劇を観るつもりでいた。共に原作者のファンで、映画化が決まってから
しばしば話題にしていたのだ。
「というわけで、やっぱ桂矢が最適じゃない」
「絶っ対やだっ!それなら僕は帰る!」
 肩に置かれた真珠の手を振り払い、桂矢はタクシー乗り場に行こうと……して左腕を捕まれた。
振り向くと魔王(湊)とその配下(聖と豊)がとーっても素敵な笑みを浮かべていらっしゃった。背筋が思わずぞくっとする。
「桂矢くん、折角みんなで来てるのになにその協調性のなさは?困るんだよねぇ、そういう集団規律を乱すような行為は」
 魔王配下の有り難いお言葉。脅迫による集団支配はどうなんだ!と突っ込みたかったが、命が惜しかった。
「響子もさぁ、我儘は良くないと思うけど?みんなうざがってんじゃん」
 こちらには少々冷めた視線を送りつつ、魔王さまが仰った。恐怖から、まるで首振り人形のようにがくがく頷く響子。
傍にいる杏も冷気にあてられ、心なしか青ざめている。
「折角みんなで来てるんだからさ、ばらばらじゃなくてみんなで楽しもうよ」
 魔王さまファンが見たら卒倒しそうな、極上の笑顔(営業スマイル)。一同に悪寒が走る。
 結局のところ、魔王さまの見事な取り成しで、最新CGを駆使した壮絶ホラー(魔王さまのご趣味)をみんなで楽しく観賞しましたとさ。

 余談。ホラーが苦手な数名(つばさ、杏、響子、桂矢、渚)は、映画を見終えてから数日うなされ続けながら寝込んでしまったそうな。
それ以外のメンバーもその夜は大層夢見が悪かったとか。その中でただ3人、魔王さまと付き人2名はとても楽しそうにしてたとか。


wrote by Matsuri

4話

昼休みってなんだかわくわくしますよね?
授業(もしくは仕事)と授業の束の間の休息。
友達と美味しいお昼ご飯を食べて、一息つけば午後も頑張ろうって思えてきたり。
今回はそんな昼休みのお話です。


春うらら。
桜が舞い散る美しい光景が広がる聖稜学園高等部にその光景に似つかわしくない
下品な声がこだまする。

「よっしゃー!!昼飯だーー!!」

午前の授業の終わりを告げるチャイムがなったと同時に席を立ち上がり、
杏は叫んだ。
チャイムは鳴ったが授業はまだ終わっていない。

「西川さん…」
「なんだ?先生」
「まだ授業は終わってませんよ!!!!」


***


「あははははっ!」
「おい、つばさ!笑いすぎだぞ!」
「ごめんごめん。おかしくてさー…あはははっ。」

謝りながらもけらけらと笑い続けるつばさに杏はむぅと頬を膨らませる。
その顔はつばさの笑いのつぼをさらに刺激したようで、おなかを抱えて笑い出す。
杏は、午前の授業が終わる直前に起きたあの出来事を、話すんじゃなかったと今更後悔する。

「あー…笑った笑った…。さぁ飯にするか…。」
「やっと笑い終わったか。失礼な奴!」
「悪かったって。おかず、一つやるから許せ。」
「……しょうがねぇな。」

それから、約3分後、やっとつばさの笑いは収まったようで、昼食となる。
鞄に手を伸ばし、弁当箱を取り出すのかと思ったら、二人の鞄から出てきたのは3段の重箱…。
どうやらお嬢様(しかも片方は日本最大)達は弁当箱も豪華なようだ。
勿論中身も海老だの松坂牛だの豪華なものが並んでいる。

「なんだ、この豪華弁当はーーーー?!!」
「おう、響子…に氷夕君と愉快な子供たちじゃねぇか。」
「なんだそれ…」

突然、大声をあげながら乱入してきたのは響子とつばさ曰く氷夕君と愉快な仲間達(桂矢と千夜)の皆さん。
少し意外な組み合わせだ。

「変な組み合わせだなー。3人で響子の取り合いでもしてるのか?」
「えぇ?!そうだったの?!悪いけど…私、長髪にも無口にも根暗にも興味ないなぁ…。」
「お前みたいなあほ、こっちから願い下げだ。変なこというな、杏。」
「おぉ、悪い悪い。」
「誰があほだーーー!!」

変なことを言われて、何も言わないが、氷夕だけでなく、千夜も桂矢もかなり不機嫌そうだ。

「じゃあ、なんで一緒にいるんだよ?」
「このあほが勝手に俺達についてきてるだけ…」
「よっぽど暇みたいだよ、このあほ。」
「ここに来たのもこのあほに無理矢理連れてこられただけだ。」
「あほあほ言うな!だって…いいにおいがしたんだもん…。」

どんな嗅覚をしているのか。響子はとなりのB組の教室からつばさ達の弁当のにおいを嗅ぎつけ、
なんでか氷夕達を引っ張って、A組のつばさたちのもとへやって来たようだ。
いやしいにもほどがある。

「いやぁ…しかし、美味しそうな弁当ですなぁ…。」
「やらねぇからな。」
「い、嫌だなぁ!杏ちゃん!そんなこと思ってないわよう!」
「本当か~?」
「ほんとだって!…あ。」

その時であった。それは響子の口から杏の弁当箱の中に落とされた。
高級松坂牛がそれによってきらきらと輝く。

「き…きったねぇぇぇ!!!!よだれこぼしやがったよ、こいつ!!!!」
「ご、ごめん!!つ、ついぃぃぃ…」
「ついじゃねぇよ!どーすんだよ!コレ!!責任持ってお前が食え!!」
「え?!いやだよう!いくら高級松坂牛でもよだれがのっかってるのなんて…」
「お前のよだれだろおおお!!!!」

響子のよだれがのっかった松坂牛はもう高級でも何でもなく、
ただの汚い牛肉になってしまった。
あきれてものも言えない氷夕君達と愉快な子供たちの皆さん。
なんだか疲れきったご様子でさっさと教室を出て行ってしまった。

「行くぞ、桂矢、千…」
「うん…」

一人残ったつばさは我関せずという風に自分の弁当を食べながら、
終わるところを知らないくだらない口争いをきいていたとさ…。

「さっさと食えーー!!」
「いやー!!」
「…うん、うまい。やっぱ松坂牛は最高だな。」

ちなみに…噂が広まるのが早い彼らの中では、この騒動の話はやっぱり瞬く間に広がり、
暫くの間響子は「よだれ松坂牛」というあだ名がつけられたそうだ。


wrote by Kyoko

3話(後編)

じゃんけんバトルスタート!
ちなみに、トーナメントは健康診断にちなんで身長の一番低い方と高い方が順番に組んでいる形となっている。


第一試合「葵VS湊」

「あれ、葵…縮んだ?」
「お前が伸びたんだろ。」
「あぁそっか、ごめんごめん。あんまり小さいからさー。」

100%悪意を込めた台詞。葵は湊の挑発になんぞのるまいとぷいっとそっぽを向く。
ここで挑発にのってしまえば湊の思うツボだからだ。

「それより、早くはじめろよ。」
「ちぇっ。つまんねぇの。はいはい、じゃあいくよー。じゃんけーん…」

「ぽいっ」。
かけ声と共に両者がだしたのは葵がグーで湊がチョキ。負けた方が勝ちというルールなので、湊の勝ちである。

「葵って最初にグーだす癖あるんだよね~。楽勝楽勝。」
「………。」


第二試合「桂矢VS聖」

「あれぇ、けーや君縮んだ~?」
「同じネタかましてんじゃねぇよ。っつーか、しつこい!!お前には絶対負けないからな!」
「ありゃりゃ、なんか闘争心むき出しだねぇ。まぁけーや君になんか負ける気しないけど♪」

いつになく闘争心むき出しの桂矢。
おお、なんだか今日の彼は一味違う。もしかしたら、勝てるかもしれないぞ。
とは誰も思っていないが、じゃんけん勝負は開始された。
結果は…

「はい、僕の勝ち。けーや君も葵君と同じで最初にグーだす癖あるんだよねぇ。いやいや、そっくりな兄弟だねぇ~。」
「ちくしょー…」


第三試合「響子VS海」

「よーし。きょーちゃんはパーをだすぞ~~。いくよ~海ちゃん。じゃーんけーん…ぽいっ!」

響子、パー。海、グー。

「のぉぉぉ~~~!!しまったぁぁぁぁ~~!!本当にパーをだしてしまった~~~!!!!」
「…ほんとバカだな、お前。」

響子の癖は勝負の前に言ったものをそのままだすこと。(本人ははったりをかましているつもり)
究極のバカの彼女にしか成し得ない癖である。
じゃんけん勝負の前からバカ炸裂の響子に呆れを通り越して、哀れみさえ感じる海ちゃんなのでした。


第四試合「渚VS豊」

「今度こそ勝ってやるんだから~~!!」

腕をぶんぶん振り回し、意気込む渚。
それをしれっとした目で見ている豊が勝負開始の合図をかける。

「じゃんけん、ぽい。はい、渚の負け…って、あれ;?」
「きゃーっ!やったーっ!あったしっの勝っちー♪残念だったわね、豊!」

予想外の展開に豊唖然。
勝負の結果は渚がパーで豊がチョキで渚の勝ちである。
渚は本日1ラウンド目大負けしたせいか、嬉しそうにぴょんぴょんとはね回る。
しかも、豊には先ほどバカにされた恨みもあり、喜びも二倍だ。

「やったやったー♪極悪豊に勝ったー♪」
「極悪は余計だ!」


第五試合「千夜VS氷夕」

「俺の相手は千か。」
「負けないから…」
「おっ、珍しくやる気だなぁ。」

日頃保護者とその子供のような関係の氷夕と千夜。
意外な勝負相手にやる気もみなぎり、面白ささえ感じられる。
そんな二人の勝負の結果は…

「あいこでしょ…あいこ…。ねぇ、氷夕、あいこになったのこれで何回目…?」
「20回目くらいじゃねぇか…。」

流石保護者とその子供。気が合う。
お互いに何回も同じものがでてしまい、なかなか勝負がつかない。
結局勝負がついたのはちょうど30回目の時であった。


第六試合「優VSつばさ」

「誰が筋肉だるまだって、ごら。」
「え、だからお前…」
「乙女に向かってなんて失礼な奴だ!お前にはまけねぇぇぇ!!」
「俺だってお前なんかにまけねぇよーだ。」

あっかんべーと舌をだしてみせる優に対してつばさの怒りもやる気も一気に上昇。
そのせいかはわからないが彼女の頭の中に変な知恵が働いた。

「よっしゃー!あたしの勝ちだー!!」
「今、あとだししただろ。」
「(ぎくぅ)してねぇよ、そんなの。うん。してねぇよ、してねぇって言ってるだろ。
してねぇぇぇぇ!!!!」
「ずるしたんだからつばさの負けね。」


第七試合「杏VS真珠」

「あいこでしょ、あいこでしょ、あいこでしょーーー!!!!」
「もう、あんたもしつこいわねっ!さっさと負けなさいよ!!」

白熱している勝負を繰り広げているのは杏と真珠。
もうかれこれ3分間くらい続いてる。あいこの数は氷夕達をとっくに越えている。
なかなかつかない勝負にしびれをきらした真珠はある行動にでた。

「あ!いい男が白いタキシード着てブーケを持って歩いてる!」
「なにぃ?!あたしを迎えにきたのかぁぁぁ?!」
「…後出ししたわね。あんたの負けよ。そんなわけないでしょ。ばーか。」
「卑怯だぞ!!」
「ひっかかるほうがわるいのよ~。」

こうして、3分間によるじゃんけん勝負は
余所見をさせて、手をだすタイミングを一歩遅れさせたという真珠の作戦勝ちに終わった。
杏、完敗(ちーん)。


こんな感じで勝負は次々と行われ、いよいよ決勝戦。
残ったのは葵とつばさと杏だ。
この中で勝った一人だけがおこらずに済む。負けられない。
たかがじゃんけん勝負に闘志という名の炎が燃えたぎる中、戦いの火蓋は切って落とされようとしていた。


決勝戦「葵VSつばさVS杏」

「葵が残ってるのが意外だな。」
「グーばっかだしてるからだよ…。」
「意外な弱点ってところか。」
「じゃんけんに弱い…。」

好き勝手なことを次々口にしている氷夕と千夜を葵は睨みつけるが、桂矢同様全く持って迫力がない。むしろ、可愛いくらいだ。

「そんな可愛い顔したら応援したくなってくるじゃないの、葵。しょーがないわねぇ、今日は特別にあたしがあんたを応援してあげるわよ。」
「お前の応援なんていらねーよ。(けっ)」
「むかっ…やっぱ、たまには葵に奢らせるのも面白いわね。」

真珠の心の篭もってない応援なんぞ誰がいるか。
葵は心の中でそう毒吐き、今度はつばさを睨みつけた。

「なんだよ。負けてばっかだからってあたしに八つ当たりするなよ?グーばっかだしてるお前が悪いんだからな。」
「八つ当たりなんてしねぇよ(けっ)」
「思いっきり八つ当たりしてんじゃん…。」

こんな連中に奢らされてたまるもんか…と葵は完璧に不機嫌モードに突入しているようだ。
しかし、奢らされてたまるものかと思っているのはつばさとて同じ事。(勿論杏も)

「つばさが買ったらうーんと高いもの食べようかな♪」
「学食にそんな高いものなんてないと思うけど…。」
「あ、そっか!そうだな。サンキュー海。」

そう、今、優が言ったようにつばさの場合はお金持ちという理由で容赦なく高額なものを要求されるのだ。
お金持ちといっても、つばさのお財布の中は春休みに小遣いを使い過ぎたことから閑古鳥がなっている。
とは言ってもやはり一般の高校1年生よりは持っているのだが…。
今月は他にも欲しいものが色々あったりして無駄な出費は避けたいのだ。

「絶対負けられないぜ…!よっしゃぁぁぁぁぁぁぁ!!気合い注入完了いくぜええええ!!!!」
「じゃあ、はじめるよー。じゃんけんぽいっ!」

湊のかけ声のもと、いよいよ始まった決勝戦。
一回目は…あいこ。

「あいこでしょっ!」

二回目…あいこ。

「あいこでしょおおおお!!!!」

そして、三回目…

「やったぁ、あたしの勝ちだぁ!」
「ちくしょーっ。」
「……。」

かんかんかーん。試合終了ー。
杏がパーで、葵とつばさがチョキ。勝負は杏の勝利で幕を閉じた。
悔しがるつばさに呆然としている葵に他のメンバーはそれはもう嬉しそうに声をかける。

「つばさ、あたしA定食ね。デザートも忘れないでよ。」
「俺はラーメンがいいかな~。大盛りでよろしくな、葵っ。」
「カレー…。」

こうして、葵とつばさは予想外の大出費をしなくてはならない羽目になったのだった。
今日のお昼ご飯は他のメンバーにとってはそれはそれは美味しいご飯だったに違いない。
特に…

「あ~面白かった~♪」

言い出しっぺの湊君は、面白い結果、奢ってもらった昼ご飯にそれはもう大満足なのでした。


wrote by Kyoko