Retro Friends ~This is ther's happy life!~ -3ページ目

9話

中間テストも終わった頃、聖陵学園高等部では変な噂が流れていた。
噂の内容は以下の通りである。

「高原豊と日川氷夕は"何か"をかけて勝負をしている。
その"何か”とは佐竹桂矢だとかそうじゃないとか」

この噂に一部の女子(主にマン研所属)がえらく興奮して同人誌を描き上げ、写真部は確証を得る為に三人の監視に余念がない。
廊下を歩けば冷たい視線が周囲の生徒達から向けられる。
テストも終わったというのにこの噂のせいで当の本人達は落ち着かない毎日を送っていた。

「---全く、誰だよ。こんな根も葉もない噂流したの。」
「不機嫌そうだねぇ、豊。」

放課後、薄暗いコンピュータ室で豊は不機嫌そうにレポートを仕上げていた。
キーボードを打つ指が少々荒れている。
そんな豊の隣で渚は呑気な笑みを浮かべていた。

「まぁまぁただの噂じゃない。「人の噂も七九日」っていうでしょ。気にしなきゃいいのよ。
すぐみんな忘れちゃうって。」
「七五日ね。」

「あれ?」と首をかしげる渚を無視して豊は乱暴にキーボードを打ち続ける。
豊が不機嫌な理由は噂だけではないのだ。
噂なんて渚の言うように放っておけばいい。それよりもうざったいのはつきまとう写真部やこちらを見ながら
こそこそと喋っている周囲の生徒達であった。

「言いたいことがあるならはっきり言えっつーの!!」

不満と共にだんっと、切れのいい音がパソコン室にこだます。
渚はよっぽどびっくりしたのか、目をぱちくりとさせている。

「キーボードに八つ当たりすんなー。」

突然聞こえてきた声の方を向いて豊は顔をしかめる。
声の主は今、最も会いたくない人物の氷夕であった。
氷夕も今回の騒動に大分頭にきているようで眉間にしわを寄せている。
二人は同じパソコン部に所属しているので部室であるコンピュータ室では嫌でも顔をあわせることが多い。
それにしてもタイミングが悪いにもほどがある。

「そんな顔されても困るんだけど。第一、俺のせいじゃねーし。」
「それはこっちも同じ。」

険悪な雰囲気が漂ってきたのを察知した渚は慌てて二人の間に割り込んだ。

「ち、ちょっと二人とも喧嘩しないでよ!二人が喧嘩しても問題の解決にはならないでしょ?!」
「……それもそうだ。」

寸の間黙り込んだ豊と氷夕だが渚の言葉に納得したようでとりあえず険悪な雰囲気は解消された。
しかし、なんとも気まずい雰囲気が流れているのには変わりなかった。
この中に最もいずらいのはやはり渚でどうやってこの場を和ませるべきか必死に頭を回転させる。

「ちょっとあんた達、あんまりなぎを困らせるんじゃないわよ。」

また突然聞こえてきた方を見て豊、氷夕も更に顔をしかめる。
渚は意外な声の主に抱えていた頭をぱっとあげて表情を明るくさせる。
顔をあげた先にはしかめっ面の氷夕の頭を小突いている真珠の姿があった。

「まじゅ~~!!」
「「人の噂も八十五日」っていうでしょ。噂なんて気にしなきゃいいのよ。」
「それ渚にも言われた。そーじゃなくて僕が嫌なのはまわりの奴ら…。
あと、人の噂も七…」
「まわりの連中に関しても同じ!好き勝手やりたい奴にはやらせときゃいいのよ!
大体、そういうこと気にしてる時点で噂事態を気にしているのと同じでしょ!だから怪しまれるのよ!」

落雷でも頭の上に落ちたかのような気分であった。
「七十五日だろ」というツッコミも忘れて豊と氷夕はただただそこに立ちつくす(豊はいすに座ったままだが)。
真珠の言うことは至極最もで気にしているから実は本当なんじゃないかと思われる。
まわりがうざったくていらいらなんてしていたら「気にしているんです」と言っているようなものだ。
そこへ他の生徒達はますます興味を注がれるのだ。

「わかりましたか?」
「…わかったよ。悔しいけど。」
「確かにお前の言うとおりだな。…悪かったな、豊。」
「別にいいよ。僕も…氷夕くんが悪くわけじゃないのに君のせいみたいに思ってたし…。」

豊と氷夕から険しい表情が緩んでいく。
その様子に渚は「ほっ」と小さく安堵のため息をついた。

「じゃあ、仲直りの印にこれからみんなでご飯でも食べにいこーよ!」
「賛成~。豊達おごってね。」
「はぁ?なんで…。」
「なんでじゃないわよ。誰のおかげで今回の問題が解決出来たと思ってんの?
渚にだって随分と迷惑かけたのよ、あんた達。ごはんぐらい奢ってもらって当然でしょ。」

そうぴしゃりと言われ豊も氷夕も返す言葉がない。
今回ばかりは真珠に救われたのは事実で、なんだが渚には今日の彼女が神々しく見えた。
鞄と運動靴を持つと軽い足取りで真珠に駆け寄る。

「真珠、今日はなんだか格好良いね~!」
「惚れ直した?」
「うん!」

渚が運動靴を履くと二人は手を繋いでさっさと教室をでていってしまった。
その姿はさながら恋人のようで、噂が立つならむしろこっちでは…と思わせるほとであった。

「だけど…なんであんな噂がたったんだろ…。氷夕くんと桂矢くんだけだったらわかるんだけど…。」
「は?」

折角緩んだ表情がまた険しくなる。
真珠達に続いて教室をでた豊と氷夕の間にまた嫌な空気が流れ始めた。

「だって、氷夕くんと桂矢くんよく一緒にいるし、氷夕くんはセクハラしてるし…」
「ちょっと待て!よく一緒にいるはわかるけど、セクハラってなんだっ」
「よく桂矢くんの肩に手回したり、たまに抱きついたりしてんじゃん。」

言われてみればそういう行動を普段からとってないわけじゃない。
でも、それは氷夕からしてみれば友達同士のスキンシップの一環であって、それを変な目で見られても困る。
だが、今日までの自分の行いが周囲にはそういう風に見られていたのかと思うと流石に恥ずかしくなる。

「……。」
「あれ?氷夕くんどーしたの?」

顔に手をあてたままうつむいてしまった氷夕。よくは見えないがその表情は相当落ち込んでいるように見える。
そんな氷夕の様子が面白かったのか豊はいじわるな笑みを浮かべる。
いつも淡々としていてなかなかこういう表情を見せることはないので、豊は面白くて仕方なかった。

「…お前だって、しょっちゅう桂矢のこといじめてんじゃねーかよ!そっちの方がよっぽど怪しいと思うけど。」
「え…それこそ、スキンシップだよ。変なこと言わないでくんない。」
「どーだかな。好きな子ほどなんとやらって言うだろ。」

両者沈黙の睨み合い。
豊も豊で桂矢をからかうのが好きで何かにつけてはちょっかいをだしていた。
双方に今回の噂の原因を思わせる要因はあるのだ。
険悪ムードがどんどん漂う中で、真珠と渚はただただ呆れるしかなかった。

「ほんと懲りない奴らねぇ…。あれじゃあ、噂が嘘だって言っても誰も信じないわよ。」
「えっ、そうなの?」
「だって、噂通り…桂矢のことで喧嘩してるじゃない。はぁぁ…」

折角仲裁にはいってやったというのにこれでは水の泡だと真珠は深いため息をついた。


噂の出所や誰が何のためにこの噂を流したのかはわからないが、
あの二人があの様子では七十五日経っても噂はなかなか消えそうになかった。
噂とは恐ろしいものである。


因みに…桂矢はというと「二人の男をたぶらかした魔性の男(?)」だとか日を追うごとに他に変な噂が増えてきて
豊達以上に落ち着かない毎日を送っていた。
二人の事を極力避けているのは言うまでもあるまい。


wrote by Kyoko

8話(後編)

「これって…ラブレター…だよね。」

体育館と校舎の間。
暗くて人の目につかないこの場所に優達は隠れるように向かい合って座り込んでいる。
彼等の中心にあるのは一通の手紙。
封筒の真ん中には「須藤洋子」と書かれている。

この手紙が自分の下駄箱に入っていた時、優は自分の目を疑った。
湊や海の下駄箱の中にラブレターが入っているのは何度も見たことがあるが、自分の下駄箱に入っているなんてはじめてのことだったからだ。
何かの間違いではないかとまだ中身を見ないでとりあえずここまで持って来たというわけだ。
ちなみに厄介な響子は先に帰されたようでこの場にはいない。

「や、やっぱ…そうかな?」
「どう考えてもそうでしょ。良かったじゃん、優君。須藤さんってうちのクラスの須藤さんだよ、きっと。」
「あぁ、あのいつも忘れ物ばっかしてる子…。結構可愛いよな、あはは…。」
「嬉しくないの?」

勿論、嬉しいに決まっている。
今まで、女の子に縁がなかったわけではないが、やはり男としてラブレターなんてもらえたら嬉しいものだ。
しかし、優は何か気になることがあるようで今ひとつぱっとしない顔をしている。

「嬉しいけどさ…なんかひっかかるんだよなぁ。これ、本当に俺宛てなのかなって…」
「優君の下駄箱に入ってたんだから優君宛てでしょ?」
「でも、どこにも俺の名前書いてないぜ。」
「あ…そういえば。」

確かにどこにも優の名前は書かれていない。
それに、差出人である自分の名前を封筒の真ん中に書いたりするだろうか?
普通、そこには相手の名前を書くものだ。

「これさ…須藤さん宛ての手紙なんじゃないかな…。」
「須藤さんに書いた手紙を差出人が間違えて優君の下駄箱にいれちゃったってこと?」
「うん…。須藤さんと俺の下駄箱、隣同士だし。」
「そっかぁ…。じゃあ、この手紙どうする?返そうにも差出人の名前は書いてないみたいだし…。」

封筒のどこを見ても、差出人の名前は書いていない。
真ん中に「須藤洋子」と大きく書いてあるだけだ。

「俺達でこの手紙を須藤さんの下駄箱にいれておこうか。」
「そうだね。じゃあ、行こうか。」
「おう。」

結局、自分達の手で、須藤さんの下駄箱に手紙をいれておくことにした優達は急いで玄関へと向かう。
須藤さんが帰ってしまっては困るからだ。

「きっと、この差出人、今日の放課後見ると思ってるから急いだ方がいいよな。」
「そうだね。どこかに呼び出しているかもしれないし。…けどさ…テスト中に告白なんて、誰がだしたんだろーね、この手紙…。」
「さーな。もう諦めたかしっかり勉強している奴のどっちかなんじゃない?」

告白に気を取られて、テストになんて集中できる筈がない。
きっと、この人物にとってテストはどうでもいいものなんだろう。
そんなことを話している内に玄関に到着した。

「えーと…須藤さんの下駄箱はー…。」
「でも、随分と失礼だよねぇ。この手紙。自分の名前も書かないで、敬称もつけないでさー。
………ねぇねぇ、優君。僕さ、ちょーっと興味あるんだけど、この手紙の中身v」
「だーめ!人の手紙を勝手に見るなんて駄目だよ。」
「ちぇー、つまんないのー。少しは好奇心持とうよ。」

口を尖らせてぶーぶー文句を言う聖に優は苦笑する。

「はいはい、ぶつぶつ言わないの。あ、ここだよ、須藤さんの下駄箱。」
「じゃあ、さっさと入れて帰りますか…。明日の勉強もあるしね。」

そう言いながら、聖が下駄箱に手をかけようとした瞬間…

「あーーー!!!!」
「うわっ……って、響子?帰ったんじゃなかったのか?」

突然、聞こえてきた大声の主は帰った筈の響子であった。
その顔は驚きと焦りに満ちているようだ。

「なんで優君とひー君がその手紙持ってんの?!」
「え…?これ、響子がだしたのか?!」
「そんなわけあるかい!」
「じゃあ、なんで、そんな慌ててんだよ。」
「そ…それは…。言えません。」

誰が見ても明らかに隠し事をしているのがわかる。
響子はこのラブレターについて何か知っているようだ。
それがわかった優は響子に更に問い詰める。

「あーっ!お前、絶対この手紙について何か知ってるな?!」
「し、しししし…知らないよぉ!知るわけないじゃないか!その手紙が、購買部の宮田さんが
だしたものなんてー!!」
「ふーん、この手紙、宮田さんがだしたんだ…」

「あ…」と慌てて口を塞ぐがもう遅い。
響子は勢いでこの手紙の差出人を喋ってしまった。
ちなみに「宮田」というのは購買部に勤めている青年のことである。
ギザったらしく、ぶっちゃけぱっとしない感じの青年だ。

「あのおっさん…何考えたんだ…。」
「で、なんで、響子はこの手紙が宮田さんがだしたものだって知ってる上にここにあることを見て驚いてる訳?
まぁ、大方の検討はつくけどねー。」

そう言うと聖は腕を組んでにっこりと微笑んだ。
全てを見透かしているかのようなどす黒い笑顔に(響子にはそう見えている)響子は思わず身震いする。
「やばい」と心の中で何回も叫ぶ。

「どーせ「カンペ作り手伝ってあげますよ。」とか言われて、見返りにこの手紙だしてくれるように頼まれたんでしょう?
生徒に手をだすなんて、先生達に見つかったらただじゃすまないからねぇー。
で、それを間違えて優君の下駄箱にいれちゃって、須藤さんがここを通るの待ってたってわけ。違う?」
「ちがうよ…?」
「ほんとに?」

「はい」とは言わせない力のある言葉に響子は首を横に振るしかなかった。
優も大方の検討がついていたようで、図星の響子にただただ呆れるしかなかった。

「お前…何やってんだよ、ほんとに;」
「はい…もう二度としません。ごめんなさい。」
「ま、結果的に何もなかったから良かったんじゃない。
でも、宮田さんってやっぱどうしようもない人だったねぇ…。生徒に手をだそうとした挙げ句、カンペ作り手伝うなんて。」
「あの人いくつだっけ?」
「聞かない方がいいんじゃない。」

きっと聞いたら嫌な気持ちになるだろう。
そうなんとなく感じた優は「そっか」と呟いた。

「あ、響子。一つ聞きたいんだけど…なんで、宮田さんは封筒に自分の名前を書かなかったの?敬称もなかったし。」
「てんぱってたみたいだよ…?」
「へぇ…意外と小心者なんだな…;」

結局、自分宛ではなかった今回のラブレター。
ちょっと残念な気持ちの優はその気持ちを外にだすかのようにはーーっとため息をつく。

「優君、ちょっと残念だった?あの手紙が自分宛じゃなくて。」
「え?うーん…うん、そうだな。ちょっと残念だったかな。」
「まぁまぁそう気を落とさないでよ。いつかいい人が現れるって。」
「そうかな?だと、いいな…。うし!その時のために今は帰って勉強するか!」

拳をぎゅっと握りしめて気合いを入れ直し優は一番に玄関をでた。
いつか、自分にも大切な人が出来たりするのだろうか?
そんなことは今はわからないけど、その日のことを考えると優はなんだか嬉しくなった。

「響子!いつまでもおちこんでんな!お前も帰ってしっかり勉強しろよ!」
「あいよー。」

こうして今回の騒動は幕引きとなった。
魔の中間テストはまだ続く。


wrote by Kyoko

8話(前編)

ゴールデンウィークが終わればやってくるのは魔の中間テストだ。
というのは、一部の人間の解釈であって、昨年度の復習が試験範囲のほとんどである一学期の中間テストはさほど苦ではない。
というよりも、日頃からきちんと勉強をしている人間にとってはテストは苦労するというよりは勉強の成果を発揮する為に頑張る場だ。
一週間前になって慌てて勉強するような人間にとってこそ、テストは苦労する場だと言えよう。
そんなテストのまっただ中、ちょっとした事件がおきた。


「ふいーっ。テスト一日目無事しゅうりょーっと。」

一仕事すんだかのようにはぁーと優は息を吐いた。

「優君、今回頑張ったもんね~。」
「おうよ!数学と英語っていうなかなかの強敵だったけど、結構手応えはあったぜ!答え全部書けたしな♪」
「へぇ~すごいねぇ。これも日頃からしっかりと勉強しているおかげだね~。それに引き替え…」

ちらっと聖が向けた視線の先にいたのは響子。
怪訝の眼差しを向けてくる聖に響子は悔し紛れに反論する。

「な、なななな、なによ!!何が言いたいのよー!!あたしだって頑張ったわよ!!」
「カンペ作りを?」
「そーそー、折角作ったのに先生にばれちゃって没収されちゃったのよ…って、何言わせるんだ、コラー!!」
「やっぱりね。バカでもちゃんと勉強すれば少しは尊敬してあげるんだけどねぇ~…」

やれやれ、と聖は首を横に振った。
本当にどうしようもない奴である。もう勉強しても間に合わないと、何もしていないくせに、
一週間前から慌ててカンペ作りをしていた響子(とつばさと杏)。
しかし、その努力は無惨にも散り、結局何も勉強していない状態で試験にのぞみ、玉砕したというわけだ。
元々、成績が悪い彼女達。せめて、一週間前からでもしっかりと勉強していればもう少し良い結果になったかもしれないというのに。

「期末テストはちゃんと勉強しろよ~。」
「うぅ…わかってるわよ。ちゃんと一週間前からやるわよ…。」
「一週間前からじゃなくて、今日からやれよ。」
「嫌だよ!そんなことしたらゲームも漫画もテレビも見れなくなっちゃうじゃん!!」

もう何を言っても無駄だ…。
そう悟った優と聖はさっさと下駄箱へ行くことにした。

「ちょっと~!待ってよ~!!置いてかないで~!!」
「全く…ほんとにどうしようもねぇなぁ…。」

泣きながら追いかけてくる響子に盛大なため息をつき、優は自分の下駄箱の扉に手をかけた。
そして、開けた瞬間、目を疑うような光景が眼前に広がった。

「…え?」
「優君、どうしたの?」
「え?あ、いや…えっと………」
「?」
「………な、なんで!!!???」
「は?;」


wrote by Kyoko

7話(後編)

軽井沢旅行の2日目。
昨晩、夜の神社に幽霊を見に行こうツアーが決まってしまったせいで朝から怖いのが苦手な面子の顔は暗かった。
つばさと杏は恐怖からがくがくと震え、響子は叫びまくっている。
で、残りの渚と桂矢はというと…

「桂矢、夕飯食べ終わったら一緒に駅前でも行かない?」
「は?」
「声が大きい!!」

夕飯作りの前の自由時間。
客間で一人でくつろいでいた桂矢のところに渚がこっそりとやってきた。
まわりに気づかれないようにか、小さな声で内緒話をするように喋る渚の言葉に思わず桂矢は大きな声をあげてしまった。
真面目な顔で怒られ、桂矢は驚いたように頷き「ごめん」と小さな声で謝る。

「なんで、突然そんなこと;?」
「今日のツアー桂矢も嫌でしょう?だから、一緒にエスケープしよ!
二人一緒ならこわくない!(色んな意味で)」
「別にいいけど…僕よりつばさ達誘った方がいいんじゃない?」
「駄目よ!あいつらなんか誘ったらふける前にばれちゃうわ!」

確かにそうだ、と桂矢は納得する。
エスケープすることは構わないが、でも、やはりあとのことを考えると不安だった。
結局、最終的には全部ばれてしまうのだ。

「湊のことでしょ?だいじょーぶっ!桂矢には指一本触れさせないから!」
「うーん、でも…」
「湊とおばけ!!どっちがこわい?!…いや、湊なんだろうけど…とにかく!私は絶対嫌なの!
真珠達になにされるかもわかんないし…そんな目にあうくらいだったら、駅前でショッピングでもして、
ばれて怒られた方がよっぽどまし!!そう思わない?!」

桂矢からすれば、ばれたあとの方が恐い。でも、今回のツアーに参加したくない。
渚がいればまわりの反応も少しは和らぐ筈。だったら、ここは渚の誘いに乗ったほうがきっと得策であろう。
そう思った桂矢は渚の誘いに応じることにした…が

「うん…わか」
「へぇーこっそりデートか?お前ら。」
「ーーーっ!!」

突然割り込んできた声に驚いて渚も桂矢も思わず後ずさる。
また湊か聖あたりかと思ったが声の主は意外な人物。氷夕…と千夜だった。

「な…なぁんだ…氷夕達か…。脅かさないでよ。別にデートじゃないわよ。
ただ、今晩のやつが嫌だから一緒にふけようってだけ。」
「そうだよ…」
「ふーん、女嫌いのけーやが女と駆け落ちか。こいつはおもしれぇな。なぁ、千?」
「(ぴき)だから違うって言ってんだろ!!」

からかい口調で好き勝手言ってくる氷夕に桂矢はいい加減かちんときて食ってかかった。
普段は仲が良い二人だが、氷夕はたまにいじわるな態度をとることがある。
特に桂矢が相手だと楽しいらしい。

「ねぇ、それより、氷夕達、言わないでくれるよね?お願い!私、絶対行きたくないの!!」
「言わないよ。でも、そんなことするより、良い方法があるけど?」
「え?」


***


「腹が痛い?」

夕飯も終わる頃、突然つばさと杏と響子が腹痛を訴えだした。
「どーせ、仮病だろ」的な目線が3人に向けられるが、それをかばう人物が1人。

「ねぇ、みんな…なんか本当に痛そうじゃない?」

わざとらしいが不自然ではない渚の演技。
少し顔をしかめながらつばさ達を見る。うーんうーんと本当に痛そうに唸っている。
気味が悪い。

「確かに言われ見ればそうかもね。」
「でしょ?ねぇ3人ともそんなに痛いならトイレ行って来たら?」
「おぉそうだな!トイレだな!!」
「待て!私が先だ!腹がぎゅるるいってんだ(ぎゅるるるる)はうっ!!」

渚の言葉を受けると3人は鯉が水を得たようにぱっと明るい表情になり、
どたどたとトイレめがけて走っていった。
とても演技には見えない。仮病ではないようだ。

「あいつらがあの調子じゃ幽霊ツアーは行けそうにないな。」
「えぇー?!中止なのかー?!」

海の言葉に優は不満げに口を尖らす。
きっと1番楽しみにしていたのだろう。

「あいつらおいていけばいーじゃん。」
「そういうわけにもいかないだろ。病人を置いてはいけないよ。」
「じゃあ、私が残るわ。3人の看病してる。だから、みんなで行ってきなよ。」

待ってました、と言わんばかりに先ほどの調子のまま渚は海の言葉に食いついてきた。
続いて、桂矢…それから氷夕と千夜も名乗り出る。

「僕も残る。元々面倒くさかったし…。」
「桂矢が残るなら俺等も残るか、千。この2人だけじゃ不安だし。」
「うん。」

実はこれが氷夕の言っていた「良い方法」だったり。
つばさ達にも協力してもらって、自然な流れでツアーから外れる方法を考えたのだ。
つばさ達に賞味期限切れの牛乳を飲んで、腹痛をおこしてもらって、看病を理由に別荘に残るという方法。
ただ、ここまでは自然だが、これを湊達が許すかはわからない。

「…どうする、湊君?」

渚達はごくりと息を飲み、先ほどから不機嫌そうに黙っている湊を見る。
暫く沈黙が続いたが、湊が口を開いた。
と、そこへトイレへ行って腹痛が少し治まった3人が帰ってきた。

「はー…少し、スッキリした。」
「つばさ達さー…この写真、ゴールデンウィーク終わったら新聞部に売り込むことにしたから。」
「はっ!そ、それはっっ!!」

湊が差し出した1枚の写真に3人の目は釘付けになる。
その写真は3人の超恥ずかしい写真だった。この写真を校内に流されるのは流石に嫌だ。

「そ、それだけはご勘弁をーーーっっ!!」
「じゃあ、腹が痛いなんて言わないよね?幽霊ツアー…行くよね?」
「はっはいっっ!もうすっかり治りましたっっ!是非、行かせて頂きますっっ!!」

汗をだらだらとかき、恥ずかしい写真の流出を阻止するのに必死な3人。
改めて魔王様の怖さをつきつけられた瞬間だった。恐ろしや恐ろしや…。

「うん、じゃあ、渚たちも看病する必要ないね。」
「え゛…えっと…う、うん…そう、だね…。」

逆らえないような力のある言葉に内心は泣いているが納得するしかない。
こうして、氷夕の作戦は失敗し、結局また魔王様の見事なとりなしでこの件は片付いてしまったとさ。
このあと、神社に行き、つばさ達は散々怖い目にあわされたのは言うまでもあるまい。

「残念だったね、氷夕。」
「あ?」
「渚達に助言したの君でしょ?お見通しだよ。まぁこれで俺に逆らわない方が良いってことわかったと思うから。
今後は余計なことしないことだね。」
「俺が何しようと俺の勝手だろ、ばーか。」

幽霊ツアーの最後の方で氷夕が湊に宣戦布告(?)みたいなことをしたなんてこともあり、
波乱万丈のゴールデンウィーク軽井沢旅行は幕を閉じた。
何人かの心に大きな傷跡を残して…(笑)


wrote by Kyoko

7話(前編)

ゴールデンウィーク。
初夏の香りがする5月の軽井沢にやってきた葵達は、早速二人組になりテニス大会を催して楽しんだ。
時間はあっという間に過ぎ、気がつけばあたりはもうすっかり暗くなり、もう夕食の時間だ。


「では、いただきます。」

つばさの掛け声で食事スタート。
本日のメインははテニス大会優勝者特権で優勝ペアの真珠と氷夕の希望通り「ハンバーグ」。
(ちなみに最下位特権は夕飯の費用を全部出すといことで、最下位ペアのつばさと桂矢の負担となっている)
形作りは皆でやったので、ハートだったり星だったり、それぞれの趣味にあわせた色んな形のハンバーグがある。

「うわぁーこれ、可愛い!猫だっ!」

渚の指差したの先には猫の形をしたハンバーグがあった。
テーブル中央の大量のハンバーグが載せられている大皿の端っこに皆の視線が集まる。

「これ、誰が作ったのっ?」
「あぁ、それあお…むぐっ」

つばさは何か知っているようで、それを口にしようとしたら、突然おかずの冷やっこを口の中につっこまれた。
いきなりの出来事に大分びっくりした様子の本人と周囲。犯人は…

「あばあばばば…。(もぐもぐ、ごっくん)はぁーはぁー…いきなり、なにすんだよ、葵!
びっくりしたじゃねぇか!」
「べつに…。」
「はっはーん。そんなことしたらばればれよ、葵?」

真珠の言葉にぎくっとなる。そう、猫型ハンバーグを作ったのは葵だ。
誰にも見られないように作っていたのが、つばさには見られていたようで、ばらされそうになり慌ててつばさの口に冷やっこを突っ込んだのだ。
だが、そんなことをしてしまっては、自分が作ったと言っているも同然である。
まわりがにやにやとした顔で葵を見る。

「へぇぇー葵が作ったんだ。この猫ちゃんっ!すごいねーっ!葵ってば意外と可愛いもの好き?」
「か…形整えてたらそういう風になっただけだ…。」
「えーでも、随分と楽しそうにやってた…むがー!!」

また余計な事を言いそうになったつばさの口に今度は大量のそら豆がつっこまれた。
これを一気に食べることは流石に出来ず、つばさはだんだん苦しくなってきてそら豆を口につっこんだまま白目をむいてその場に倒れてしまった。
続いてその顔に響子が驚き、倒れた。

「うわぁぁぁ!こっ…こわいよおおお!!!!」

気絶してしまったバカが約2名。場は一時しーんとしたが、すぐ何事もなかったように和気藹々とし始めた。

「ねぇねぇ、この猫ちゃんハンバーグ食べていい?」
「いいけど…」
「なんで、こんなの作ったの?」
「だから…形整えていったらそういう風になっただけだ。ほんとに。」

「そっか」と渚は頷くと美味しそうに猫型ハンバーグを食べ始めた。
あんまりしつこく聞くのは良くないだろうと判断したようだ。
が、優しい渚と違って、彼女の従兄弟はそんなに優しくない。
珍しく黙ってご飯を食べていた湊が何やら楽しげに口を開いた。

「そういえばさぁ、来る前に珊瑚さんからきいたんだけど…この別荘の近くに神社があるんだってー。」

おや、珍しい。また、何か企んでいるのかと思いきや出てきたのは近くの神社の話。
何人か拍子抜けしたような様子だ。だが、話は最後まで聴かないとわからない。
何故なら相手は湊(魔王)だからだ。

「でーその神社ってー………でるらしいよ?」

ぞくっと思わず肩がすくんだ。
湊は急に声のトーンを落とし、話すペースもゆっくりになり、不気味に笑う。

「で、でるって…な…なにが?」

ききたくない…ききたくないのだが、なんだかきかなくちゃいけないような気がする。
いや、きかなくても結局きかされるのだが…。
そんな事を頭で考えながら怖がりの杏が恐る恐る言葉を返した。

「そりゃぁ…でるっていえば………ゆう」
「ぎゃーーーー!!!!」
「きゃあーーーー!!!!」
「…まだ、何も言ってないんだけど。」

また気絶者がでた。
言葉の途中で、怖さのあまり杏はその場に倒れてしまい、
小さく震えながら聴いていた渚も杏の言葉にびっくりして大声をあげてしまった。
湊は雰囲気が台無しになってしまい、ちょっとおかんむり。

「ご…ごめん。つ、つい…こわくて…」
「大丈夫ぅ?なぎ。後ろの青ざめた顔のお兄さんもなんか心配そうな顔してるわよ?」
「へ?後ろ…青ざめた?じょ…冗談はやめてよ。やだなぁ…真珠ってば。」

本気で怖がっている渚の様子が面白かったのか真珠のいたずら心に火がついてしまったようだ。
声を細めて、顔をうつむかせ…真珠は渚の後ろを指す。

「…冗談じゃないわよ?ほら、後ろ…」


ぽんっ。


「きゃあああああ!!!!」

渚、気絶。あまりの怖さと驚きに倒れてしまった。
真珠の冗談に悪乗りした豊が彼女が後ろを指すのと同時に渚の肩に手を置いたのだ。

「ありゃ、ちょっとやりすぎたかしら?」
「うーん、そうかも?」

とか何とか言いながら口は笑っている二人。
これで気絶者は4名。全員床に放っとかれている。

「…じゃあ、気ぃ取り直して続きね。そういわけでその神社に幽霊がでるらしいんだよ。
酔っ払って、神社の古井戸に落っこちちゃった女の人の霊。」
「…なんだか、まぬけだな。その噂、本当なのか?」

大げさに言った割りにはありがちな話に呆れ顔の海ちゃん。

「本当だよ。実際にその霊を見て、一晩愚痴を聞かされてノイローゼになって帰ってきた人がいるらしいよー。」
「ますますまぬけな感じだな。」
「まぁ、でも。幽霊なんて本当にいるのかなんていうのはわかんないけどねー。
だからーここは実際に自分達の目で確かめてみるべきだと思わない?」

狙いはそれか…。結局、魔王様はいつも通りであった。
だが、こういう手の話が大好きな優は目を輝かせる。

「おう!それは行くべきだ!!」
「さすが、優。だよねーそうだよねー。」
「俺も幽霊の愚痴ききてー!!」

優はやる気満々。
他はため息つきながら面倒くさいと思っているが、最終的には一緒にくっついてくる。
魔王様のお力もあるが…。

「今から行くのか?!神社!!」
「ううん、今日はテニスでみんな疲れてるだろうから明日の夜行こう。」
「えぇーどーせなら今日行こうぜー。」

ぶーぶーいう優の傍ら、桂矢が少し青ざめている。
それを両端から覗き込んでいるのはいつも一緒の氷夕と千夜。

「お前、明日行くのか?」
「なんか、青ざめてるけど。」
「……ほ、ほんとは面倒くさいからいきたくないけど、みんなが行くって言うなら…行ってもいいよ。」

強がっているが声は震えている。
桂矢も怖いのが大の苦手なのだ。苦手なものから逃げ回る主義の桂矢だが、
湊の話をきいた後、別荘に一人で残っている方が怖いと思ったようだ。

「行きたくないなら無理しなくてもいいんじゃねぇ?此処でのんびりしてろよ。」
「うるさいなぁ!行くって言ってるじゃん!!お前、わざと言ってるだろ!!」
「そんなことねぇよ。」
「うそつけ!!」

けらけらと笑う氷夕をぽかすかと叩きまくる桂矢。
そこへ千夜から静かだがある意味強烈なツッコミがはいった。

「二人とも…こんなところで痴話ゲンカはやめなよ…」
「千…お前、なにいってんだ;」
「変な事言うなー!!」

「おーい、つばさ達ー起きろー。」

ぺちぺちぺち。

「ん…なんだ、聖か。」
「あのさー明日の夜会いに行くことになったから。」
「誰に?」
「幽霊。」

ばたり。折角、目を覚ましたのにまた気絶してしまったつばさ。
おかしいなぁーとわざとらしく聖はくすくすと笑った。
他の倒れている奴にも同じ事をして楽しむ。悪趣味だ。

食事の時間だというのにぎゃーぎゃーと騒がしく、落ち着いて食べられない。
むかむかとしながらも葵はうさぎ型ハンバーグも作ったことがばれないように、せっせと食べていた。


wrote by Kyoko