不妊症とは、夫婦が妊娠を希望し2年以上性生活を行っているにもかかわらず妊娠しない場合をいいます。

ただし、現在では結婚年齢が上がっているためと、また、高齢になればなるほど妊娠がしにくく、不妊治療(医療)の効果も得にくい傾向があるために、1年間で妊娠しなければ不妊検査や治療を進めるのが一般的になっております。

 

不妊症についての詳しい説明は、医療機関サイトなどをご参照いただくとして、今回から不妊ストレスに対して、セルフケアの方法についていくつかのセッションで書かせていただきます。

 

リスタでは、不妊症の方に対して、鍼灸治療と必要に応じて今回から書かせていただきます認知行動療法を用いて行っております。

鍼灸治療では、現在医学的な方法を用いている鍼灸治療機関と同様の方法で行っております。

簡単に述べると身体の状態をよくするために、自律神経へのアプローチと子宮と卵巣の血流改善(子宮と卵巣の血流がよくないと、いい卵子が育たないし、子宮が着床にふさわしい状態にならないため)を主な目的に行っております。

 

しかし、不妊症がわかると多くの夫婦がストレスを感じてしまいます。
また、女性の方が不妊ストレスを強く感じていることと、男性・女性ともに不妊の原因が男性因子である方がストレスを感じやすいことがわかってきております。
女性の身体の状態は、子宮には交感神経、副交感神経、求心性線維が分布しておりますが、ストレスがかった状態でいると、交感神経の緊張状態が続き、子宮では血流量の持続的な低下が起こります。
これは、着床時に必要な子宮内膜の増殖や肥厚に影響を及ぼしてしまいます。
次に卵巣に対しては、子宮同様に交感神経、副交感神経、求心性線維の支配を受けているのですが、普段は卵巣には豊富な血液が供給されており、それはまた、排卵やホルモン分泌が正常に機能するうえで大切なものです。
ただし、子宮同様、交感神経の持続的な緊張が続くと、卵巣内の血流が減少するのと、ホルモン産生細胞にも影響を及ぼし、エストラジオールの分泌が減少してしまいます。
これらは、卵巣内での卵胞の成長に大きく影響を及ぼします。

 

これでは、鍼灸治療で身体をいい状態にしようとしても、ストレスが邪魔をして結果的に効果がない状態となってしまいます。

なので、不妊ストレスを抱えておられる方は、そのストレスを効果的に処理する必要があります。

 

不妊症に対しての鍼灸治療が国内外で研究されているように、不妊ストレスに対しての認知行動療法やその療法を用いたセルフケアの方法についても国内外で研究されております。

不妊症に悩む女性を対象にした大規模なテストも繰り返されており、認知行動療法によるプログラムで妊娠率が上昇することも確かめられております。

それと、認知行動療法を用いた様々なプログラムがございますが、精神的な苦痛を和らげる一つ一つの方法(やり方)が重要ではなく、どの方法を用いたとしても精神的な苦痛を和らげることが重要で、その結果、ストレスがない状態によって妊娠率が上がるということです。

 

さて、今回書かせていただく者について少し紹介をさせていただきます。

新横浜でリスタ・コンディショニング・ルームとリスタ・カウンセリング・ルームで治療と相談を行っている千田というものが書いております。

鍼灸治療は、現在医学的(その他には、日本では中国医学の立場の鍼灸師の方と経絡治療という方法を行っている鍼灸師の方がおられます)にエビデンスのある方法を主に行い、専門は今回の不妊症をはじめ、自律神経関連疾患、ストレス関連疾患、慢性疼痛などの痛みの鍼灸治療です。

また、認知行動療法については、20年以上にわたって心理相談を行っており、現在は、日常の心理相談に加え、医師や臨床心理士、看護師、鍼灸師などの専門職に認知行動療法を指導しております。

 

さて、今回から始まる不妊症ストレスのセルフケア方法の流れは、リラクゼーション方法から始まり、自分の内にある不妊ストレスの考え方の修正、夫婦の不妊症に対するコミュニケーション、自分の感情を表現・発散する方法を目的に10セッションで構成されています。

 

ただ、プログラムは不妊ストレスとなっておりますが、不妊症に関係なく普段のストレス解消に用いていただくことも可能ですので、ご利用いただければと思います。

それと「ご夫婦で一緒にやっていただけるといいな」と思っております。

 

前置きが長くなってしまいましたが、それではファーストセッションを始めましょう。

セッション1 :リラクゼーション

いくつかのリラクゼーション方法を書かせていただきます。ご自分がリラックスできる方法を毎日行ってください。できれば、行う時間帯を決めておかれるのがいいでしょう。

リラクゼーションを行っていくことで、筋肉の緊張や疲労感を低下させ、うまく眠れていなかったり、睡眠が浅かったりと睡眠の問題も少しずつ改善し、また、腰痛や肩こりなど慢性の痛みなどがある方も痛みが和らぐなど多くの利点があることが研究によって示させています。

今回は2つの方法を書かせていただきます。

次回もリラクゼーションの方法をいくつか書かせていただく予定です。

 

1、呼吸法

これはどこでも気軽にできる方法です。

一度、手首の脈を計る場所に手を当てて、大きく深呼吸を何度かしてみてください。押さえている脈や血管に何か変化を感じたでしょうか。というのは、息を吸うときは交感神経が働き、息を吐くときには副交感神経が働くために、脈の強さや血管の硬さに変化が起こります。

ちなみに、血管は交感神経のみが支配(働く仕組みになっております)しております。

 

自律神経が安静・安定させるのに一番手っ取り早く簡単な方法なのです。

たかが呼吸法ですが、されど呼吸法なのです。

 

やり方

はじめはなるべく静かな場所で行います。

慣れてきたら通勤途中の電車の中や仕事の合間などにも行ってください。

ベルトや時計などの身体を圧迫している物はなるべく外してください。

姿勢は座った状態でも寝ている状態でも構いません。ゆったりとした状態を作ります。

目を閉じると不安感が高まる方がおられるので、目は閉じても閉じなくでもどちらでも結構です。

1回の練習時間は、3分~5分程度でいいでしょう。

時間を見つけて一日3回程度行うようにしてください。

イチ、ニ、サンと約3秒かけて鼻から息を吸います。この時には腹式呼吸で行います。

ジュウ、キュウ、ハチからイチと約10秒かけて鼻、口の両方で息をゆっくりと吐いていきます。息を吐くときに吐く息とともに体の力が抜けていくようなイメージで行うことも有効な方法です。

呼吸法が終わったら2分~3分間、ゆったりと呼吸をしながら静かにしておきます。

ゆったりした後は、手や足を動かしてから身体全体で大きく背伸びをしましょう。

 

2、漸進的筋弛緩法(ぜんしんてききんしかんほう):簡易バージョン

筋肉の緊張(力を入れる)と弛緩(力を抜く)を繰り返し行うことにより身体をリラックスした状態に持っていく方法。

筋肉の完全な弛緩を誘導するために、各身体の筋肉を数秒間緊張させた後に弛緩することを繰り返していく。

 

やり方
各部位の筋肉に対し、約10秒間力を入れ緊張(8割程度の力)させ、15~20秒間脱力・弛緩する。

トレーニング中の呼吸は止めずにゆっくりと呼吸しながら行ってください。

 

1日2セット~3セット

 

身体の筋肉に対し、基本動作を順番に繰り返し行っていく。各部位の筋肉の緊張状態と弛緩状態を感じる。特に弛緩した状態を感じるようにする。

①両手

両腕を伸ばし、掌を上にして、親指を曲げて握り込む。10秒間力を入れ緊張させる。手をゆっくり広げ、膝の上において、15~20秒間脱力・弛緩する。筋肉が弛緩した状態を感じる。

②上腕

握り拳を作ったまんま、手のひら側を上にして、肘を曲げ肩に近づけ上腕(力こぶが出るところ)全体に力を入れ10秒間緊張させ、その後手をゆっくりと広げ膝の上において15~20秒間脱力・弛緩する。

③背中

②と同じ要領で曲げた上腕を外から後ろに広げ、肩甲骨どうしを引き付けるようにして背中に力を入れます。10秒間緊張させ、その後手をゆっくりと広げ膝の上において15~20秒間脱力・弛緩する。

④肩

両肩を上げ、首をすぼめるような格好で肩に力を入れる。10秒間緊張させ、その後手をゆっくりと広げ膝の上において15~20秒間脱力・弛緩する。

⑤首

まずは右側に首をひねる。ひねった側の首の筋肉の緊張を感じてください。10秒間緊張させ、その後、正面を向いて今感じた首の筋肉の力が抜けていることを感じてください。15~20秒間脱力・弛緩する。左側も同じ要領で行ってください。

⑥顔

口を強くすぼめ、目をギュッとつぶって、意識は顔全体を顔の中心(鼻に向かって)に集めるように力を入れる。10秒間緊張させてください。

続いて、筋肉が弛緩した状態 口がぽかんとした状態で目は開けずに閉じたままで緩めてください。15~20秒間脱力・弛緩する。

⑦腹部

お腹に手をあて、その手を押し返すように力を入れる。10秒間緊張させ、その後15~20秒間脱力・弛緩する。

⑧足

a:足を伸ばして爪先まで足を伸ばし、足の下側の筋肉(ふくらはぎ)を緊張させる。

b:今度は足を伸ばして爪先を上に曲げ、足の上側の筋肉(むこうずねにある筋肉)を緊張させる。

10秒間緊張させ、その後15~20秒間脱力・弛緩する。

⑨全身

1~8までの全身の筋肉を一度に10秒間緊張させる。力をゆっくりと抜き、15~20秒間脱力・弛緩する。

全身のリラクゼーションが終わったら2分~3分間、ゆったりと呼吸をしながら静かにしておきます。その後、手や足を動かしてから身体全体で大きく背伸びをしましょう。

 

この方法は、不妊症だけでなく、不安障害や過度に緊張してしまう方、ストレスを強くお持ちの方にもリスタでは指導させていただいております。

 

また、お時間がある方は、漸進的筋弛緩法の「脱力・弛緩」の時間を約40秒に伸ばしていただくとより効果的だと思います。

というのは、リスタでは千田が月に1回、医師や臨床心理士、看護師、作業療法士、鍼灸師、その他の専門家が集まって「横浜認知行動療法研究会」という認知行動療法の勉強会を行っており、そこで、自律神経の検査機器を用いて漸進的筋弛緩法の緊張と弛緩の自律神経の動きを確認したのですが、その時に行った参加者全員が緊張で交感神経がいっきに働き、その後の弛緩では40秒かけてゆっくりと副交感神経のほうに移動(副交感神経が働く)することを確認しました。

なので、時間のある方は「脱力・弛緩」の時間を約40秒にしていただければと思っております。

ただ、15~20秒間脱力・弛緩では効果がないということではありません。(多くの書物では大体15秒から20秒の弛緩となっています)

 

さて、本日はここまでです。

リラクゼーションはなるべく毎日行っていただければと思いますが、ただ、やるのを忘れたからといって落ち込んだりしないでください。やらなかったことでネガティブになってしまったり、ストレスになってしまうと何のためのリラクゼーションかわからなくなってしまいます。

本末転倒、まずは、気楽にやっていくようにしてください。

 

リスタ・コンディショニング・ルーム

http://resta-eap.com/

 

 

参考文献

1.Cousineau TM, Domar AD. Psychological impact of infertility. Best Pract Res Clin Obstet Gynaecol. 2007;21(2):293–308.

2.Gourounti K, Anagnostopoulos F, Vaslamatzis G. Psychometric properties and factor structure of the Fertility Problem Inventory in a sample of infertile women undergoing fertility treatment. Midwifery. 2011;27(5):660–667.

3.Cooper BC, Gerber JR, McGettrick AL, Johnson JV. Perceived infertility-related stress correlates with in vitrofertilization outcome. Fertil Steril. 2007;88(3):714–717. 

4.Pasch LA, Dunkel-Schetter C, Christensen A. Differences between husbands’ and wives’ approach to infertility affect marital communication and adjustment. Fertil Steril. 2002;77(6):1241–1247.

5.Podolska MZ, Bidzan M. Infertility as a psychological problem. Ginekol Pol. 2011;82(1):44–49. 

6.Domar AD, Seibel MM, Benson H. The mind/body program for infertility: a new behavioral treatment approach for women with infertility. Fertil Steril. 1990;53(2):246–249.

7.The effect of the cognitive behavioral therapy and pharmacotherapy on infertility stress:arandomized controlled trial. Faramarzi M, Pasha H, Esmailzadeh S, Kheirkhah F, Heidary S, Afshar Z, int J Fertil Steril,2013 Oct;7(3):199-206.Epub 2013 Sep 18.

8.「Ease Emotional Stress The Hervard Behavioral Medicine Program for Infertility」
from 「6STEPS TO INCREASED FERTILITY」A HARVARD MEDICAL SCHOOL BOOK