日本酒テイスティングノート Vol.6

● 課題酒
大七 生もと純米
醸造元 : 大七酒造 株式会社 (福島県)
原材料 : 五百万石
精米歩合 : 69% (扁平精米)
アルコール分 : 15度
日本酒度 : +3
酸度 : 1.8
BY : 2017年 一年熟成
製造年月日 : 2019年3月
小売価格 : 2,749円(税込み)1,800ml




● 当日のコンディション
4月10日(水) 室温19.6℃ 雨
参加者 鍛冶、花岡、和田

● 手順

1. テイスティングシートをもとに課題酒の味、香りを確認
2. 温度帯による味わいの変化を細かく確認
3. 酒器の素材別での味わいを確認、適性を判断 (写真③参照)
4. 料理との相性を検討

1. テイスティング 
香りは生もと特有のナッツやヨーグルトに、醤油やプルーンの様な熟成香を感じる。
何層にも重なる奥行きのある旨味と柔らかい酸味、熟成からくる円やかなカラメルの様な甘味の調和がとれた味わい。
口に入れた時のアタックから、中盤、余韻にかけて引っ掛かりがなく、とてもバランスが良い。
余韻の苦味もほぼ無く、良い状態で熟成している。
(テイスティングシートは別表1を参照。)




2. 温度別テイスティング
味は、5度~55度までどの温度帯でもバランスが崩れることは無く、それぞれの良さがあった。
5度~10度でも余韻の酸味が強調されることは無く、スッキリとした味わいを楽しめるが、20度で甘味と酸味のバランスがとれ、酒本来の味わいが楽しめる。
お燗は40度~45度で、甘味と酸味、味の輪郭がハッキリし、バランスも良い。
50度以上では、甘味が抑えられ余韻の酸味が少し強くなり辛く感じるが、シャープな味わいと温かさが心地よく感じられる。
香りは、低い温度では閉じているが、常温くらいから熟成香が柔らかく鼻孔に広がる。
〈 Best 〉
冷酒・・20度 やさしい甘味と奥行きのある旨味、余韻の酸味のバランスが良い。 
燗酒・・40度~45度 味の輪郭がハッキリして、甘味と酸味のバランスがとれる。
(それぞれの温度でのコメントは別表2を参照。)




3. 酒器の素材別テイスティング
同じ形状のガラス、磁器、陶器の酒器で試飲し、酒単体での適する材質を確認。
◎ ガラス・・甘味と酸味をはっきりと感じる。洋食や中華料理と、酸味を強調させたいときに。
◎ 磁器・・・甘味が程よく抑えられ、和食向け。
○ 陶器・・・甘味、酸味が抑えられ、スッキリと飲める。
(詳細は別表3を参照。)

4. 料理との相性
【相性の良いと思われる料理、食材】
冷酒・常温・お燗で、それぞれ合う料理が違う。
冷酒・・・海月の酢の物や棒棒鶏など、酸味のある中華系の前菜や、鯵の南蛮漬けなど。酒の熟成した旨味と酸味が、酢を使った前菜料理と高相性。
刺身は、鰹や鮪、天然物の力強い旨みのある魚を、醤油やバルサミコ酢を使ったドレッシングや胡麻油で味付けすると合う。
常温・・・たけのこの土佐煮、牛蒡のきんぴら、筑前煮。酒の優しい旨味とほんのり香る熟成香が、醤油を使った甘辛い味付けと合う。
お燗・・・金目鯛の煮付け、豚の角煮、酢豚、焼き鳥レバーなど(タレ)。お燗にすることで甘味と酸味がハッキリ主張するので、脂ののった肉や魚の煮物と合う。

【相性の悪いと思われる料理、食材】
淡泊な味付けの料理、白身の刺身、焼き豚・焼き鳥(塩、ササミや胸など淡白な部位)など、シンプルに塩で味付けしたもの・・・酒に熟成香があるため、淡泊な味付けや塩味の強い料理より、熟成香と同じ香りの醤油を使った旨みのある料理の方が合う。また、酒の酸味も旨味を伴う柔らかい酸なので、焼いた鶏や豚などの強い脂は切れずに口中に残り、酒が負けてしまう。

● 総評
このお酒は例えるなら、陸上十種競技の優勝チームです。
冷酒・常温・お燗、各部門においてトップクラスの味わいであり、総合得点の高さを感じます。
大七というブランドを裏切らない高いクオリティから、長年培ってきた揺るがない信念と技術力が感じられます。お酒から見える造り手の顔は、決して個人ではなくチーム、個々が力を合わせ何代にもわたって造りあげてきた味です。
冷酒・常温・お燗、それぞれの良さがあり、料理によって温度を変えれば、これ一本で前菜からメインディッシュまで合わせられる、活躍の幅が広いお酒です。
コクのある酒で熟成感もありますが、飲み飽きしないやさしさがあります。
家に1本は常備したい、万能酒です。

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飲食店日本酒提供者協会 理事 和田静佳
運営事務局、日本酒提供者マイスター試験講師
東京都大塚「はなおか」勤務
NPO法人 酒は未来を救う会 理事