日本酒テイスティングノートvol.3

●課題酒
惣誉 特別純米 生もと仕込み
醸造元 : 惣誉酒造株式会社(栃木県芳賀郡)
原材料 : 兵庫県特A地区山田錦100%
精米歩合 : 60%
アルコール分 : 15度
製造年月日 : 2018年3月




●当日のコンディション
2月11日(日) 気温5度
参加者 花岡、和田、鍛治

●手順

1. テイスティングシートをもとに課題酒の味、香りを確認
2. 温度帯による味わいの変化を細かく確認
3. 酒器の素材別での味わいを確認、適性を判断 (写真③参照)
4. 料理との相性を検討

●1.テイスティング 
上立ち香の強度は中程度で、穀物系の香りです。藁や木の皮、濡れたコルクを思わせる香りに、若干のドライフルーツのニュアンスや柑橘のニュアンスが加わった、混然一体となった香りが特徴的です。
味わいはまだ余韻に苦みも感じさせ、熟度が適熟には至っていないことを感じさせます。全体的にもまだ固さを感じさせる味わいで、甘みがまだまだ弱めであること、生もと由来の強めの酸味が特徴です。
(テイスティングシートは別表1を参照。)

●2.温度別テイスティング
適正温度は45℃で、お酒単体の味わいが最も映える温度です。冷酒での飲用において、低すぎる温度では甘みも香りも閉じてしまっていて酸味による辛さばかりが目立って難しさを感じさせますが、10℃~15℃まで上がってくると甘みのボリュームも上がりバランスが整ってきます。しかしそれでも熟成不足の感は否めないのですが、デキャンタージュをして空気と触れさせると、より角が取れて味にまとまりが出てきましたので、実際に提供する際には一工夫加えると良さそうです。
燗においては30℃と45℃で評価が上がります。30℃では柔らかい甘みが感じられ辛みとのバランスが取れてきます。
45℃では、40℃では感じられたツンとするアルコールの揮発感が弱まり、全体の味のバランスが取れて輪郭がはっきりとしました。
(それぞれの温度でのコメントは別表2を参照。)




●3.酒器の素材別テイスティング
同じ口径、形のタイプのガラス、磁器、陶器の酒器で試飲し、適する酒器の材質を確認しました。
今回のお酒は未熟感があり酸味がまだ際立っている状態です。磁器とガラスのそれぞれの酒器ではお酒の持つ酸味をストレートに表現してしまい、酸味が強く感じられてしまいます。このため磁器とガラスは現状のこのお酒を美味しく飲む器とはなりませんでした。陶器の器の場合はこの酸味を感じとりにくい材質なので、酸味を抑えてお酒の持つ甘みのボリュームとのバランスが整えられ、このお酒を美味しく飲むのに適する器であると考えられます。
(詳細は別表3を参照。)




●4.料理との相性
【相性の良いと思われる料理、食材】ワカサギの天ぷら、塩の焼き鳥(鶏ささみ、胸肉)、キスの天ぷら、鮎の塩焼き
【相性の悪いと思われる料理、食材】甘みと旨みのはっきりした料理全般

 この酒は骨格の良さ(生もと由来による酸味、それに余韻の苦み、それぞれの強度)、肉付きの未熟さ(甘みと旨みの未発達)が現状感じ取れます。旨みが弱めであるので、食材も旨みの控えめの食材で、調味も醤油やたれなどではなく塩ベースのものとの相性が良さそうです。また生もと造りであることから、その酸味は乳酸、コハク酸、ピルビン酸、でほぼ構成され、リンゴ酸やクエン酸などは少ないと想定されます。このため鮎の塩焼きなどでも柑橘は添えない方がマッチングしそうです。

 相性が悪いもののポイントとしては熟成による甘みと旨みが不足していることがあげられます。料理自体にはっきりとした甘みや旨みのあるものを選んでしまうと、お酒の持つ甘みと旨みがかき消されてしまって、酸味と辛みだけが口に感じられるようになってしまい、結果的に酒が辛くなってしまいます。

●総評
このお酒は例えて言うなら【良家の跡取り息子★今はやんちゃな反抗期だけどポテンシャルと将来性は折り紙付き♪】タイプです。
特A地区の非常にいい山田錦を惜しげもなく用い、ストイックにお酒造りをしたお酒で、2018年3月の瓶詰にも関わらずまだまだ飲み頃は先にも感じられました。ポテンシャルは非常に高いお酒ですが現状はまだ頑なで、さながら反抗期に入ったばかりの年頃のようです。このお酒のポテンシャルをきっちり活かしきって美味しく飲むには、現状では非常にピーキーな状態です。これから年月を重ねていくことで味の幅が広がっていくことを期待できる、将来が楽しみなお酒です。

花屋の花も、完全に今が絶頂で咲き誇っているものを店頭に並べているわけではなく、これから購入先の自宅で満開となる9分咲きの花を販売するといいます。酒蔵から出荷された酒もすでに飲み頃の満開のお酒もあれば、流通過程での熟成を見越して出荷され、流通した先でこれから飲み頃を迎える8分咲きのお酒もあります。
日本酒の提供に携わる者としては、お酒ごとの飲み頃を適切に見極めて、最善の状態のお酒を提供することができるか否かが一つの腕の見せ所、差別化のポイントにもなるところなのではないかと思います。

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飲食店日本酒提供者協会理事 鍛治 大
東京都四谷「かいのみ別邸 さばのみ」店主。
2014年同店開店より、日本酒を中心とした飲料の仕入れ、メニュー作成にも従事。
RESSA認定 日本酒提供者マイスター、SSI認定 日本酒学講師、J.S.A.認定 Sake Diploma