少し前の話になりますが、タミフル内服後に異常行動、易興奮性が出現し、精神科に入院

となった成人の男性患者さんがいました。インフルエンザA型の診断となり、タミフルを3日

飲んだところ、飲み終わった翌日から精神症状が出現しました。具体的には絶えずイライラ、

ソワソワしており、食べたい、飲みたいといった衝動を我慢するのが難しく、眠れず、夜通し

外を歩き回る等の行動がみられました。すぐに怒り出し、尊大な態度をとり、また本人も

自分の気分の異常さに気付いており、タミフルのせいだと話していました。

来院時既に3日が経過しており、改善の気配がなく、何をし始めるかわからない、という様子

だったため、同日医療保護入院となりました。


タミフルによる精神異常症状はかなり有名です。実際はどれくらいの頻度でどんな症状が

出るのでしょう?以下は中外製薬に問い合わせてお聞きしたものです。


タミフルの有害事象の報告は2001年2月~2005年6月までで2775例3779件。

うち、精神・神経症状は328例。

めまい(75)、幻覚(69)、意識消失(64)、易興奮性(35)、異常行動(30)、

けいれん(19)、傾眠(18)、せん妄(18)。


易興奮性について:

発症:服用開始初日~2日以内

消退:服用中止後3日以内(5日まで遷延が2例、8日後までが1例)

症例:20歳未満が31例、20歳以上が4名。


異常行動について

発症:服用開始初日~4日以内

消退:服用中止後3日以内。1例のみ15日以上遷延。

意味不明な事を言う、親の名前がわからない、字が書けなくなる、

トラックに飛び込む、飛び降りる


精神科の医師は、この患者さんについて、タミフルの影響は否定出来ないが

病像は双極性障害のそれであり、家族歴、そしてタミフル服用前のいくつかの

エピソードから、もともと双極性障害があり、今回のインフルエンザもしくは

タミフルが引き金となって病気が顕性化したのではないか、という考えの

ようでした。少なくともタミフルによる“躁”の報告はなく、その後も症状が遷延し、

リーマスやリスパダールの内服によって症状は落ち着いて来ました。


感想です。まずなかなか薬が原因とする根拠をはっきりさせる事は難しいのですが

タミフルほど精神症状の副作用報告の多い薬は少ないのではないかと思います。

タミフルを弁護する言い方をすれば、インフルエンザ自体がこのような症状を起こす

可能性もあるのかもしれません。しかし、多くの場合タミフルは処方されなくても

インフルエンザは治ります。平均93時間の高熱の期間が70時間に、約1日短縮

されるだけです。確かに、日本は同薬を安易に処方し過ぎであると思います。

しかし、私は今年、インフルエンザの患者さんになるべくタミフルを出さないですむ

ようにお話をしてきましたが…患者さんはほぼ全員タミフルを希望するんですよね。

1日早く熱が下がる…、って結構大きいですからね。


薬を有害だ、有害だ、と盲目的に批判する人がいますが、これは薬を絶対的に信用する

のと同じくらい愚かな事です。不完全な薬ですが、他に信頼に足る薬がないのであれば、

ある物を有効に利用していくしかありません。その為にはリスクとベネフィットの正しい

評価、偏らない科学的な判断が必要です。

これこそ、医師に求められている事だと思います。