年齢は伏せさせて頂きます。

彼女は入院の前日、会社で混乱状態となり会社の同僚が自宅に送り届けました。

しかし翌日になっても混乱が続き、おかしな事を口走ったりするため、家族に連れられて

来院しました。


パニックで暴れているという訳ではありません。診察室のドアを開け、普通に歩いて入ってきました。

しかし神様にお告げを受けた、死者の魂に導かれてここに来た等と話し、強い幻覚妄想状態にある

事が明らかでした。シュナイダーの一級症状という、“これがあれば精神病である可能性が高い”

症状がいくつも揃っていました。“やはり統合失調症かな…”と思いました。

更に、連合弛緩と言いますが順番に整理して話す事が出来ず、話が飛んだり

繋がりがメチャメチャです。本人も強い混乱状態にある事は自覚しており、入院して加療を

勧めたところ、初めは拒否されていましたが、間もなく納得され、入院となりました。


この患者さんは数日前まで少なくとも周りからは“普通”だと考えられていました。

叫んだりおかしな事を言ったり、おかしな行動をとったりしませんでした。

まじめで不器用で頑張り屋さん、優しくて家族の不和に心を痛め、恋愛も出来る“普通”の方でした。

仕事は相当ハードだったようです。不眠も続いていたようでした。

他にも何か切っ掛けはあったのかもしれませんが、急にこのような事になってしまいました。


患者さんのお母さんと面談をしました。

やはり優しく人の良さそうなお母さんでした。

主治医が疑われている診断名をお母さんに告げたところ、お母さんは

「ああ…」

と驚いたようにおっしゃり、しばらく言葉が出ませんでした。


『精神科における精神分裂病は、
その診断と告知において内科でのがんに相当する』

と言った人がいました。実際はどうかは別としてそれだけ重い診断という事です。


どんな気持ちだったでしょう…。私も娘がいますので気になりました。

お母さんの表情が頭から離れません。


私は、統合失調症やうつ病、その他の精神疾患は、繊細でまじめな方がかかる病気だと思っています。

どちらかと言うと不器用で要領が悪く、ストレスの発散が上手ではない。

優しく、他人の傷を自分の傷のように感じてしまう。他人ではなく、自分を責めてしまう。

一方で要領が良く、失敗を他人のせいにして、他人に心無い言葉を掛けるような人間は

なかなかこのような病気にはならないのではないかと思っています。

そう考えると、本当に“普通”なのはどっちで、“異常”なのはどっち?と思ってしまいます。


この患者さんは抗不安薬と共に非定型向精神薬のリスパダールが開始されました。

急性一過性精神病障害など、統合失調症に似ていてもすぐに回復し、予後の良い疾患も

あります。そのような病気であれば良いな、と思いながら担当させて頂きます。

付き合っている彼とも上手くいく事を願って…。