リクオリティのお客様で、これからイギリスへ旅立つ方がいます。
目的は、
音楽。
彼が初めてうちに来た時の事、今でも覚えています。
やっと暖かくなってきた春先でしょうか。
その日は店内が混雑していて、予備の鏡も引っ張り出しながら5.6人の常連様を接客をしていました。
「こんにちは。靴脱ぎますか?」
180cm以上の長身で、一目で「モッズ」なコーディネート。
足元は真新しいはクターマーチンの10ホール。
宝物を探すようにキラキラした目で店内をぐるぐる。
丁度お客様が一段落した時、マルジェラのレザーコートを手に取って僕に言いました。
「コレ、コレ、コレです!!」
彼はその時マルタンマルジェラと言うブランドを知りませんでした。
でもウェブショップで見た時に「何か」を感じて、
原宿の裏路地、小さな看板、しかも3Fの週末しかやっていないお店にやってきたのです。
未使用タグ付で20000円程と言う破格で出していたマルジェラのレザーコートですが、
20000円は安いお金ではありません。
試着して、考えて、試着して、考えて、
「この辺りにATMありますか?」
「お店を出て、左に歩いて、十字路を更に左でファミマがあります」
ATMへダッシュ。
アウターがいらない位暖かい日にも関わらず、そのままレザーコートを着て帰りました。
汗ばみながらそれでも嬉しそうな顔。
それから彼は月に2.3回遊びに来てくれる常連様になってくれました。
いろんな事を話しました。
名古屋から出て来たばかりな事、
時計仕掛けのオレンジ、さらば青春の光を筆頭としたカルチャーが好きな事、
僕が昔住んでいた所の近くに住んでいる事、
お昼ごはん代を浮かす為に食パンを食べている事、
でも毎週水曜日は自分へのご褒美として中華料理を食べる事、
その中華屋さんはチャーハンがおかわり自由で嬉しい事、
そして、
音楽をする為に大手企業を辞めてイギリスへ行く事。
先週渡英に向けて最後のあいさつに来た彼。
まっすぐな目で僕を見ながら話してくれました。
差別が強いのは身を持って知っています。
でも日本語で歌おうと思います。
「寅さん」が好きなんです。
ガッチリ握手をして別れました。
心底応援してる。
やりつくして欲しい。
そしていつかうちに帰って来るその日の為に、
僕は待っているから。
キラキラした目にさせる服を揃えて待っているから。
彼に笑われないように、自分を律して。
リクオリティは営業して参ります。
君に会えて良かった。



