『プロジェクトQ・第9章』~若いクァルテット、ハイドンに挑戦する~:石橋メモリアルホール | 北十字の旅と音楽会記録が中心の日記

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~若い力で、1日ハイドン~

2月の不忍池の水面は渡り鳥がいっぱい、のハズが…
今年は少ない。
鴨っこを眺めてテクテク歩いて…


『プロジェクトQ・第9章』
~若いクァルテット、ハイドンに挑戦する~ 

13時~
上野学園 石橋メモリアルホール


今日は昼と夜の2回公演で、F.J.Haydnの 作品50のプロシア四重奏曲の全曲を演奏する企画。

作品50になると、それまでの作品に見られる 第1ヴァイオリン中心の構成、まるで弦楽三重奏伴奏によるヴァイオリンソナタ、から脱却し、4つの楽器が精巧に組み合わさったバランスになってきます。だからこそ アンサンブルの緻密さが求められてくる難しい作品。

まず13時からの前半の演奏会。作品番号の順に演奏会が開始しました。

🎵F.J.Haydn:弦楽四重奏曲 変ロ長調 作品50-1
リュイール シャトン クァルテット
愛知県芸の授業の中から2008年に結成したグループ。

この曲は単純なテーマがきっかけに 4つの楽器の柔らかい響きが広がっていく。第1ヴァイオリン主導のスタイルから脱したつくり。
霧が晴れていくような美しさの第1楽章。
緩やかな旋律に温かい響きに満ちた第2楽章。
ヘミオラのリズムがたのしい第3楽章。
小さなカデンツァがそこかしこに撒かれ、最後はお茶目な全休符で聴衆をからかう終楽章。

音の方向性がもう一歩っていう感じで、まだ固い蕾の状態の若いグループでした。

続いて
🎵F.J.Haydn:弦楽四重奏曲 ハ長調 作品50-2
クヴェレ クァルテット
芸大附属高の仲間で2008年に結成したグループ。

ハ長調の堂々とした感じがまったくなく、優しいまなざしの温かさあふれる感じの曲。
ぎこちなさがユニークで人工的な匂いがする第1楽章。
第2楽章の美しい旋律と響きは1番とそっくり。
第1ヴァイオリン主導の第4楽章は、楽器ごとの緻密な立体感が巧み。

このグループは、響きの安定感や 旋律、響きの受け渡しや変化に対する描き方が見事。このレベルなら十分、プロの団体としてOKっていう感じでした。

休憩後は
🎵F.J.Haydn:弦楽四重奏曲 変ホ長調 作品50-3
カルミア弦楽四重奏団
洗足学園大 大学院のメンバーが2009年に結成したグループ。

前の2曲に比べ こちらは第1ヴァイオリンが旋律を演奏する割合が多く、また 響きも明瞭な作品。きっと第1番や第2番より前に作ったように思えます。
F.J.Haydnらしい速めの第2楽章は変奏曲。繰り返しがついているので反復後はやっぱり演奏者が積極的に装飾を加えて欲しかった。若手では難しいかな… 単調に、長い曲と感じてしまう。
速めのメヌエットは優雅な中央ヨーロッパの香り。
ウィットに富んだ楽しい終楽章。

豊かな響きは良かったのですが 、F.J.Haydnの緻密な構成による構築感を存分に味わうには、もう一歩って感じでした。

いろいろなマイナス要素ばかり書きましたが、若手演奏家のF.J.Haydnは、どの団体も新鮮な弾力的な音に聴いている私の身体には心地よいマッサージ効果がありました。とても楽しい前半でした。

15時前に第1部が終わり、このホールから一旦退出。ホールから出てもここだと時間つぶしに苦労してしまう…

後半は
18時~

昼と夜2回で F.J.Haydnの作品50のプロシア四重奏曲の全曲を演奏する企画の後半。
作品番号4から6の後半の3曲。

🎵F.J.Haydn:弦楽四重奏曲 嬰へ短調 作品50-4
エール弦楽四重奏団
2011年 桐朋大学と高校のメンバーによって結成されたばかりの新しいグループ。
力強い響きとリズムにアグレッシブに向かっていくパンチのある迫力をもつこの作品に、若いこのグループはぴったり。
第2楽章は変奏曲。積極果敢に攻めていく。スコアを見ながら聴きたかったと思わせる 動きの細やかさと正確さ。
フーガと題された終楽章は、前の3つの楽章に比べるとコンパクトなつくり。緊張感を持った演奏が見事でした。

高校生が加わっているとは思えない音の圧力と響きに大喝采。

続いて
🎵F.J.Haydn:弦楽四重奏曲 へ長調 作品50-5
プレス弦楽四重奏団
藝大と桐朋の卒業生が2009年に結成したグループ。
つまり前のグループより年齢が10くらい上になるってこと。
楽器の組み合わせを変えて これでもか~みたいにF.J.Haydnが遊んだ第1楽章。最初のヴァイオリン2つの音色で驚かされました。あまりのザラザラ。しかしすぐにそれが意図的なものであることがわかりました。そしてかなり思い切ったボウイングなど 聴いていてハッとする瞬間がいっぱい。
第2楽章は後年『夢』とあだ名がつけられた美しい曲。本当に穏やかな響きの中 旋律が緩やかに まるで霧の向こうの風景のように浮き上がってくる。
リズム遊びしているような楽しいメヌエットのあとは、ポルタメントを効果的に使った第4楽章。なかなか大胆な解釈かもしれませんが、中央ヨーロッパのオーストリア=ハンガリーに生活していたF.J.Haydnは、ロマのような民族音楽の風に吹かれていたから これは実験的というより、身近なリズムであり響きだったはず。その音楽を生き生きと立体的に再現していきました。

こちらは表情の豊かさと ダイナミックの大きさで、嬰へ短調の演奏と対比が生まれました。ただ 一気にppに落とす時に、私には音量のバラつきがあったように感じられたのは、次の課題になりそうでした。

休憩後は
🎵F.J.Haydn:弦楽四重奏曲 二長調 作品50-6『蛙』
クァルテット コローレ
桐朋学園のメンバーにより結成されたグループ。ここには私の知っている演奏家がいました。第1ヴァイオリンに南 紫音さん。既にソリストとして活動されていますね。
この曲は 第1ヴァイオリンがアクロバティックに活躍、また第2楽章では チェロがダイナミックに合いの手を加える 技巧的な面も聴きどころ。
第1楽章からものすごい起伏。南さんはやっぱり別格かも。それに合わせて他の3人も 大きな表情づけ。こんなF.J.Haydnもなかなか良いかもしれない。高音域の叫ぶような音にもピッタリと合わせるあたりは さすが。
第2楽章はヴァイオリン2つの滔々たる流れの中に、チェロの渦がアクセントとして入ります。チェロのダイナミックな演奏も見事でしたが、ちょっぴりヴァイオリンのバランスが大きめだったかな っていう印象も。
メヌエットは堂々と。それと対比するように トリオはテンポを一転させて軽快に。
終楽章は第1ヴァイオリンが同じ音を開放弦と隣りの弦を押さえた音を交互に弾く。音色の変化が蛙の鳴き声を想像させるので このあだ名がつきました。南さんの安定感のある 難しいバッセージや高い音もしっかり当てる、素晴らしい演奏は見事というしかありませんでした。素晴らしいF.J.Haydnを聴かせてくれました。

ダイナミックかつ、細かい表情まで しっかり組み上げた、安定感あるグループでした。


今日は1日、F.J.Haydnのめったに実演で聴けない曲ばかり。
それも曲ごとに団体が変わる 贅沢な演奏会。本当に楽しめました。