小倉貴久子の《モーツァルトのクラヴィーアのある部屋》第37回~G.Ch.ヴァーゲンザイル | 北十字の旅と音楽会記録が中心の日記

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そして、クラシック音楽も好きなもんだから、音楽会を理由に、日本国内を旅しています。
音楽と旅を中心に、日記を書いていきます!

新元号になっての華やかなムード、騒ぎすぎの気もしますが、いいですね。自粛が続いた平成の時とは大違い。
前の日記、平成最後の音楽会の時に、平成最初の音楽会を引っ張り出して「どれだろう?」と書きましたが、今日はその時に再度、平成で一番だった音楽会は…と見直しをしてみました。

これは忘れられない音楽会なので「あっ、これこれ…」って感じで絞れましたが、絶対的だったのが次の2公演。

⭐1994年のウィーン国立歌劇場来日公演『こうもり』
コワルスキーさんの日本デビュー。第2幕でコワルスキーさんの声がNHKホールに響いた瞬間の ホールのざわめきが印象的。ちなみに、このチケットを取った時「薔薇の騎士は良いのですか?」と聞き返されたことも忘れられません。

⭐2002年、武久源造指揮:コンヴェルスム・ムジクムによる『メサイア』(CD化されています)
最初から最後まで、ホール内に音がくるくると廻っているCDでは再現不可能な面白さに、目から鱗の連続。

特に後者は、私に古楽器の面白さを決定づける契機になったものでした。

今日はその延長線上にある音楽会。しっかり仕事をしてから初台へ🚃💨


小倉貴久子の《モーツァルトのクラヴィーアのある部屋》第37回~G.Ch.ヴァーゲンザイル

19時~
近江楽堂


クラヴィーア:小倉 貴久子
ヴァイオリン:廣海 史帆

HPに記載の小倉さんによる聴きどころは
『〔ゲスト作曲家〕G.Ch.ヴァーゲンザイル Georg Christoph Wagenseil [1715-1777]
ウィーンに生まれ宮廷との深い関わりをもち続け、若い頃は宗教曲や舞台作品を書き、後年はクラヴィーアのヴィルトゥオーゾとしても名声を博したヴァーゲンザイル。膨大な数の器楽作品は、当時の様々な形式を取り入れた名曲揃い。また新しい装飾法や形式を追求し、ヨーロッパ各地で人気の音楽家でした。〈ナンネルの楽譜帳〉には彼の作品が含まれていて、そこに「5歳になる3日前、夜9時から9時半の間に習得」とレオポルトのメモが記されています。その後もコンチェルトを研究するなどモーツァルト父子はヴァーゲンザイルを高く評価していました。
幼いヴォルフガングは、当時流行っていた「ヴァイオリン伴奏付きクラヴィーアソナタ」を作曲。ヴァーゲンザイルのこのジャンルの作品は、デュオソナタの形式になる前の過渡的形式としてではなく、優雅で華やかな宮廷の香りさえ感じさせる、ひとつの素晴らしい音楽のスタイルであることを私たちに伝えてくれます。』

鍵盤楽器はA.ヴァルターのコピーを使用。

最初はロンドンの楽譜帳から
🎵W.A.モーツァルト:小品 ト長調 K.15y
まずは8歳のモーツァルトの作品。明快な普段着姿の作品を、小倉さんは旅に出るような外出着に着替えさせました。

次に
🎵L.モーツァルト:『ナンネルの楽譜帳』~ヴァーゲンザイルのスケルツォ
小倉さんのお話しでは
「作品1-3のメヌエット楽章で、そのトリオをカットしたもの」
「モーツァルト5歳の誕生日の3日前に弾いた、と父レオポルドのメモが残っている」
とってもかわいい曲。小倉さんは反復記号を生かして、5歳にはできないような、芸術的な音楽として再現されました。

ここからヴァイオリンの廣海さんが登場
🎵G.Ch.ヴァーゲンザイル:ヴァイオリン伴奏つきクラヴィーアソナタ ハ長調 作品2-3
なんとこの作品、作品1にヴァイオリンをくっつけた作品とか。そして その第2楽章が『ナンネル』の前に演奏した作品と同じ。小倉さんいわく
「この作品にはトリオがない、ナンネルと同じスタイルなので、レオポルドが採譜したのは もしかすると、この作品かもしれない」と。
そんな第2楽章を真ん中にした、3楽章からなる作品。
小倉さん主導の、元気いっぱいの明るい作品。完全にヴァイオリンはフォルテピアノの音楽を引き立てるのに徹したスタイル。そして廣海さんもそのスタイルを貫いた演奏。フォルテピアノからピカピカと光るヴァイオリンの音色が素敵でした。

続いて同じスタイルによるモーツァルトの作品
🎵モーツァルト:ヴァイオリン伴奏つきクラヴィーアソナタ ト長調 K.9
こちらも3楽章からなる、モーツァルト7~8歳頃に作った、ヴァイオリンを引き立て役にした作品。
ここでも廣海さんの控えに徹した『伴奏』が見事でした。
ここで印象的だったのは、自然な短調と長調との対比。これが小学校低学年の子どもの作品とは思えない!

次はモーツァルト10歳の時に書かれた
🎵モーツァルト:オランダの歌「ヴィレム・ファン・ナッサウ」による7つの変奏曲 ニ長調 K.25
素晴らしい演奏が聴けました。各変奏曲の性格をくっきりかつ明快に対比させていました。前半のみの反復でしたが、反復後の装飾の大胆かつ滑らかで自然な空気感は、圧巻。後半の反復カットで音楽全体が重くならないので、耳に届く音楽としては、完璧。特に第5変奏で使われたモデレーターの美しい響きは絶品でした。
今まで この作品をCDで聴いてきた時に感じられた不満は どこへやら。充実したモーツァルトの作品として楽しめました。でも、この作品、モーツァルトが10歳の時の作品なんですよね。演奏によって 作品の魅力をここまで引き上げた小倉さんに、脱帽!

盛りだくさんの前半最後は
🎵G.Ch.ヴァーゲンザイル:ヴァイオリン伴奏つきクラヴィーアソナタ 変ロ長調 作品2-5
こちらも急~緩~急の3楽章からなる作品。しかし3曲目に聴いた作品2-3に比べて、ヴァイオリンの役割が重要となっているのが 面白かったです。
ここでは廣海さんの伸びやかなヴァイオリンの音色をしっかり楽しむことができました。また、ヴァイオリンとフォルテピアノとの愉しげな会話も存分に聴くことができました。

休憩のあとは
🎵G.Ch.ヴァーゲンザイル:コンチェルト イ長調 WV330
ここでの小倉さんのお話しはまったく知らなかった驚きの内容。要約すると
「マリー・アントワネットに『お嫁さんにしてあげる』と言ったあの時、そのあとモーツァルトが演奏を披露するにあたり、モーツァルトが『ヴァーゲンザイルさんを呼んで』と言った。そして 呼ばれたヴァーゲンザイルに譜めくりをさせ、レオポルドがヴァイオリンの伴奏でモーツァルトがピアノを弾いた」
と。そして
「その逸話に基づいて、ヴァーゲンザイルの協奏曲をフォルテピアノにヴァイオリン1本の伴奏で演奏します。もちろんどの作品かはわからないので、ひとつの可能性として…」と。
掴みが完璧な状態で聴くことができました。
ヴィヴァーチェの第1楽章は 流れるように見せかけて、無理矢理の転調をかけたりと、心地好く聴いていると 突然の急ハンドルにやられる気分。これが仕掛けなら面白いのですが、ここは それではなく…
第2楽章では、fでモデレーターを使うという音作りは、驚きの効果。私的には、その解決できない悩みのようなくすんだ音が、モデレーターを外した瞬間 一気に解決。濃霧が晴れたような気分は  最高でした。
第3楽章は流れるような 安心して聴ける古典派の音楽。至福のひととき。

そして締めの作品は 前半より15年経った円熟した時代の音楽。
🎵モーツァルト:ヴァイオリンソナタ 変ロ長調 K.378
この作品はスコアを片手(参考)に聴きました。
スコアを持っているのに、聴いた記憶の無い作品でした。
アレグロの第1楽章。フォルテピアノが堂々と主題を語ったあと、2回目の主題はヴァイオリンが流麗に受け継ぎ、そのあとは フォルテピアノとヴァイオリンによって音楽を作っていくところが 前半の作品と違うところ。緻密な音楽が楽しめました。
アンダンテの第2楽章では、中間部、ピアノの伴奏が3連符のところでテンポアップ。明快なスタイルの対比で聴かせてくれました。
ロンドの終楽章では後半、3連符で駆け抜けるところでの鮮やかな対比が素敵でした。

令和最初の音楽会、小倉さんのとっても充実したお話しとともに 少年モーツァルトの音楽の魅力をたっぷり楽しめました。そういえば、ヴァーゲンザイルのピアノ協奏曲のスコア、どこかにあるはずだ… 探してみよう!