藍川由美「日本のうた編年体コンサート」第13回 | 北十字の旅と音楽会記録が中心の日記

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旅と鉄道と温泉が大好き。
そして、クラシック音楽も好きなもんだから、音楽会を理由に、日本国内を旅しています。
音楽と旅を中心に、日記を書いていきます!

今日は午前中、ちょっぴり仕事をして 都内へ。
2年越しの課題、冬ズボンを3割引の1万円未満で購入できて、満足。
その後は 古本でのスコア探しは 不調。夜の目的地、東京文化会館に早めに到着。チラシを見ていると、ビビビ!っと来る公演があるじゃあないですか! 早速 音楽会予定をまとめている 天文手帳を開けば あれま! 既に2日間とも入っている。でも どうにか行けそうな時間の公演もあり、そちらを購入。2日目は 私も音楽祭以外では未経験の マチネ3公演となっちゃいました。

と、散財したあとは
19時~
東京文化会館 小ホールで
藍川由美「日本のうた編年体コンサート」第13回
『國民歌謠』~『われらのうた』(1941)と同時代の歌
に行きました。

藍川 由美:ソプラノ
蓼沼 明美:ピアノ
片山 杜秀:企画構成、解説


今回は 最も私の好きな、興味関心の高い、領域(時代)の曲が集まりました。

今回は藍川さんのHPから曲名他をコピーしちゃいました。

まずは昭和15年の作品から
「支那の夜」(西條八十・竹岡信幸/1940年6月公開『支那の夜』主題歌/1938年12月発売)
「蘇州夜曲」(西條八十・服部良一/1940年6月公開『支那の夜』劇中歌)
時代を感じる大陸ものの映画からの有名な2曲。支那の夜の最後にある「夢の夜」のところ、夜の雰囲気を醸し出すところがお気に入り。感情豊かな絶品の歌唱の2曲からスタート。

「誰か故郷を想はざる」(西條八十・古賀政男/1940年1月発売)
細かい動き、こぶしか装飾か? 、が 正確無比。素晴らしかった。これを聴いたら カラオケで歌えない。今日の白眉。

次は『國民歌謡』から
「隣組」(岡本一平・飯田信夫/6.17放送)
一転、浅い胸声の歌唱が緊張を解きました。3節からは声が深くなったあたりは 歌詞の反映でしょう!楽しい。

「用心づくし」(岡本一平・服部正/8.19放送)
歌詞と曲の感じが正反対で楽しい曲調。聴いていて心地好い。歌詞の毒が抜けた感じ。

「出せ一億の底力」(堀内敬三作詞・作曲/11.26放送)
軍国調のシンコペーションの効いたリズムが生き生きした曲。

「火の用心」(相馬御風・中山晋平/12.2放送)
「嗚呼北白川宮殿下」(伯爵 二荒芳徳・古関裕而/12.9放送)
この2曲は初めて聴く曲でした。
「火の用心」は半終止で終わるのが面白い。果たして当時 歌える人はどれくらいいただろう?
それに対し「…殿下」は落ち着いた重厚な曲。深い感情的な曲が歌詞にぴったりでした。

「國民協和の歌」(中央協和會&大政翼賛會・橋本國彦/12.16放送)
この曲は前から中学校の校歌みたいと思っていたのですが、今日もやはり…
歌詞と曲がコンパクトにまとまった堂々とした曲は、戦時下の歌詞で歌われないのが惜しいくらい。見事な歌唱に満足。

昭和16年
「歩くうた」(高村光太郎・飯田信夫/1.20放送)
私の知っているテンポの倍の遅さでビックリ!軽快な曲が重々しくなって。重荷を背負って田舎の未舗装の道を歩く当時の風景の感じは 藍川さんの歌唱がぴったりでした。

「めんこい子馬」(サトウハチロー・仁木他喜雄/1.27放送)
藍川さんはこの曲も落ち着いたテンポで歌詞をハッキリと歌いました。私は歌の中にある掛け声をもっと元気に歌えるテンポが理想と思っていましたが、これもあり!という発見になりました。

後半は 國民歌謡の次の『われらのうた』
最初の3曲は 俗に言う「軍歌」の仲間。
昭和16年
「海の進軍」(海老沼正男・古関裕而/5.9放送)
私の好きな曲。推進力溢れる曲。最後のたたみこむあたりが軍歌そのもの。勇壮に歌いました。

「婦人愛國の歌」(仁科春子・古関裕而/7.16放送)
軍国調のシンコペーションのリズムの中で 各節の3段目にあたる箇所でシンコペーションの解けた瞬間の優しさは、女性を主題に置いた作品らしい温かさが感じられました。シンコペーションをもう少し強調しても、と思いましたが 家庭を守る女性の温かさを感じる歌唱でした。

「月月火水木金金」(高橋俊策・江口夜詩/9.24放送)
有名すぎるこの曲。私はピアノ伴奏に注目しちゃいます!前奏のターン。銅鑼の音を彷彿とさせる真っ直ぐな音。特に最初のターンはピアノではなかなか満足のいかない公演ばかり。
堂々とした歌唱も、やっぱり男声で聴きたい感じが残りました。私はカラオケではなく、ピアノ伴奏で しっかり練習をしてから歌いたくなりました。

次は軍歌からはちょっぴり離れた曲で
「朝だ元氣で」(八十島稔・飯田信夫/10.25放送)
リズムに軍国調のシンコペーションがあるのは時代からでしょうか?伸び伸びとした歌唱が気持ち良かったです。

「僕等の團結」(勝承夫・信時潔/10.25放送)
初めて聴いた曲。
小学校低学年の唱歌の様。戦時下の修身そのものの歌詞。音も歌いやすく並んでいました。作曲が信時とは驚き!

ここで片山さんのお話。
いつものように 熱い語りに 私のメモ書きが追いつかない!
日中戦争下の日本の音楽事情の説明。最後に、器楽をはじめとする芸術音楽の領域が37~44年にかけて沢山作られたのは、クラシック音楽界では 外国人作曲家の作品をプログラムにのせにくくなっていた世相が反映している!と。納得。

そしてその時代の芸術歌曲
どちらも初めて聴きました。
「北の海」(中原中也・清水脩/1941-作曲) 『在りし日の歌』より
幽玄な曲。中也の幻想的な詩に ダイナミックなピアノと豊かな表情の歌唱が生きた作品。見事でした!

「お道化うた」(中原中也・清水脩/1940作曲)
最後は笑えました。なにしろ ベートーヴェンの「月光」の第1、第3楽章が歌の伴奏に存分に入っているのですから!
そして歌詞には シューベルトとベートーヴェンを『シュバちゃん』『ベトちゃん』と言っちゃうんです。

最後の解毒剤で 戦争の影を一気に振り払う選曲の片山さんに 大拍手。

お話も含めて充実した演奏会でした。
頭の中は 月月火水…より とんとんとんからりと隣組…が鳴りながら 電車に乗っての帰宅です。