少子化がどんどん進んでいる。2023年の出生児数は1年前より約5%減り、約76万人となっただけでなく、全国の合計特殊出生率は過去最低の「1.20」、東京都の合計特殊出生率は「0.99」と1を切った。
一方で、2022年のデータだと、出生児約77万人に対して、体外受精で生まれた赤ちゃんは7万7千人。約10人に1人が体外受精で生まれたことになる。
このほかにタイミング指導や人工授精での妊娠も含めると出生児の2割弱くらいは何らかの医療の力を借りて妊娠しているのかなということになるのかなと思うと、生殖補助技術を生業とする身としては、自分の仕事の重要性を意識する一方で、少し複雑な心境にもなる。
現役世代の年金が激減することは分かりきっているので、今の世代の年金支給額や医療費を削ってでも少子化対策にまわすべきという意見だってあっていいと思うが、そんなスローガンで戦ったら選挙で絶対勝てないので誰もそんなことは言わなかったのだが、いよいよもってそんなことを言っていられなくなる危険水域まで来て、やっと政治家が少子化対策を少しは声高に叫んでくれるようになってきた。
某大臣が少し前に、「今が少子化対策のラストチャンス」とか言っていたが、ラストチャンスなんてとっくに過ぎ去っている。長く続く少子化でそもそも出産可能年齢の女性の数そのものが減少している上、これからも出産可能年齢の女性の数が減り続けることは確定しており、合計特殊出生率がいきなり1.5倍とか2倍とかにならない限り、出生児数がV字回復する可能性は限りなく低い。
出生児数を語る時によく出される「合計特殊出生率」は、未婚女性も含めた15~49歳の女性が一生の間に出産する子供の人数の平均で、約50年前に2を割り込み、現在は上記となったわけだが、この母集団には未婚女性も当然含まれる。結婚している女性が子供を産む数だけでなく、婚姻率も大きく影響する。
これに対して、「完結出生児数」という指標があって、結婚している夫婦が平均何人の子供を産んでいるかというものだが、これは微減はしているが、これは1973年の2.20から、最新の2021年の1.90までほとんど低下していない。晩婚化が進んで、さぞ結婚している女性が産む子供の数も減っているだろうと思いきや、結婚している女性が産む子供の数は思ったほど減っていない。
一方未婚率は年々増加し、実際、1970年の女性の生涯未婚率は3.3%だったのが、2020年には17.8%に、男性の生涯未婚率も、同1.70%から28.25%にまで上昇している。つまり、データを診る限り、出生児が減った背景は、結婚している夫婦が子供を作らなくなったのではなく、未婚率の急上昇が一大原因ではないかと推察される。未婚率の上昇理由は様々だろうが、ライフスタイルの多様化(お見合い結婚の激減なども一因としてあるだろう)、昨今の経済状況(経済力があるほうが婚姻率が高い)、女性の社会進出(語弊があるといけないので追記すると、女性が社会進出しても、20代あるいは30代前半で妊娠出産して、バリバリ働ける職場環境に復帰できる状況が十分に整っていれば安心して妊娠出産できるのだが、待機児童の問題や職場の理解の問題など様々な問題もあるので仕事と育児のどちらかを優先することを余儀なくされる)、こういった問題を一気に解決するのは簡単ではなく、おカネをばらまけばよいという問題とも少し違う気がする。
東京都は色々やっていて、不妊治療に対しては、各種検査に対しても先進医療に対しても助成をしている、プレコンセプションケアに対する助成も行っている、産まれたあとも東京都を始めとする多くの字自体では高校まで子供の医療費は基本的に無償(0割負担)だし、幼稚園~中学校のエアコン普及率も全国トップだし、給食費が無償の自治体も増えてきたし東京都結構頑張ってると思うんだけど、そこまでやって東京都の合計特殊出生率が「0.99」は、相当ショッキング状況である。おそらく、これをやれば大丈夫、みたいなキラーコンテンツはないので、あらゆる細かい対策をコツコツ10個も20個も積み重ねるしかないんだろう。
不妊治療に力を入れれば少子化対策になるのか考察してみる。出生児数が70万人台であるのに対して、体外受精の出生児は約7万人であり、およそ10人に1人は体外受精で、人工授精やタイミング指導等のその他の不妊治療まで含めれば10人に2人くらいは何らかの不妊検査・治療を経て出生した赤ちゃんということになる。
体外受精の場合は保険適応の年齢制限・回数制限があるが、保険で移植する回数が39歳までは6回、40~42歳までは3回というのは、不妊治療が自費だった時代の助成金の年齢制限をそのまま適応したものであり、今に始まった話ではない。
なぜそのような年齢制限をつけたかといえば、医療経済的な側面はもちろんあるがそれだけではなく、当時の関係者の話によれば、妊娠率の観点から少しでも早い年齢から妊活を始めてくださいというメッセージであり、それなりに意味のあるものでもあり、実際に39歳あるいは42でかけこみで治療を開始する方も多いから一概に悪い面だけではない。でも43歳になったらいきなり体外受精は一切保険効きませんというのは、ちょっと世知辛いし、1回くらいいいじゃんという気もする。
体外受精の保険適応には制限も色々あって、2人目に備えて胚を貯卵するのは保険じゃダメとか、1カ月あたり4回以上エコーしちゃダメとか、胚の保管料は妊娠中・育児中は自費とか、保険診療の精神は分かるけど、今そんなこと言ってられる状況なんですかね。2人目3人目に備えることだって大事なんだから、せめて受精卵5個貯まるまでは貯卵可能とか、採卵したら5年間は保険で保管更新可能とか、少子化だって言ってんだから、そのくらいしてくれたっていいじゃん!って毎日思う。
ちなみに2022年に体外受精で生まれた赤ちゃんは7万7千人ですが、人工妊娠中絶の件数は12万2千件です。産婦人科医として働いたことがない方が人工妊娠中絶に対してどういうイメージをお持ちか分からないけど、破廉恥で不注意で、みたいなイメージかも知れないけど、全く愛がない妊娠なんて思ったほど多くはない。子供は欲しいと思ってたけどいざ妊娠したけどやっぱり育てられないとか、そういう人もたくさんいる。未婚カップルだけではなく、結婚しててもこれ以上育てられないから泣く泣く、ということだってたくさんある。
ちゃんと避妊しろよと思う方もおられるでしょうが、信じられないでしょうが、確実な避妊の方法すらろくに分かっていない(うっすらは知ってるが間違ってる)カップル、あるいはピルはおろかコンドームの費用すら出すのが難しいカップルもいたりして、想い合った2人の間の妊娠ですら育てられないという選択をするカップルがいる現実に、いかに手を差し伸べるかも少子化対策の1つだと筆者は思うんだけど、これはなかなか難しいんだろうな。
かといってフランスみたいに婚外子の割合が半分以上だみたいな状態が理想的とも思わないが、結婚や血のつながりという形にこだわって少子化を克服できた先進国はないわけで、多様な議論が必要なところまで来ていると思うんだけど、日本の社会背景を考えた時にそうした議論が熟成するのには何十年かかるやらという感じだろうし、どうしたものかといったところである。
出産の保険適応+自己負担額0円というのは実現しそうなので、それだけでいきなり子供が増えるかは分からないけど、一時的な効果はあるとは思うので(その前に産み控えがありそうだけど)、現時点では不妊治療の現場が頑張るのと出産の保険適応に期待かな。
ということで、今日は日本の少子化と、体外受精児の割合の増加について考えてみました。次回もお楽しみに。