2022年4月に体外受精・人工授精に保険適応がなされるようになってから、1年半が経ちます。当院でも、当初からすでに凍結済の胚を保険で移植することは行ってきましたが、今年7月から一部条件つきで、11月からは厚生労働省が定める範囲で保険適応による採卵を始めました。

 

おさらいですが、現在、凍結受精卵(胚)は3つに分類されています。

1)2022年3月31日までに自費で採卵周期に入り、自費で凍結した胚

 (当時保険制度がなかったため、これに該当する胚は全て自費で採卵している。助成金制度はあったが、保険制度は直接的な関係はない)

2)2022年4月1日以降に保険で採卵周期に入り、保険で凍結した胚

3)2022年4月1日以降に自費で採卵周期に入り、自費で凍結した胚

 

ここで、2)の胚は、たとえ何個あろうとも、保険で移植可能な回数制限内のうちは保険でしか移植することはできません。3)の胚は、逆自費でしか移植することはできません。例えば、採卵は自費で行ったが移植は保険で、とか、採卵は保険で行ったが自費でしかできないオプションがしたいので移植は自費で、ということは基本的に不可です。

 

ただし、1)の胚は、保険で移植可能な回数制限内のうちは保険でも自費でも移植可能です。

 

 

採卵は、様々なオプション治療の多くが先進医療として認められており、薬剤の制限を除いて技術面で保険もしくは先進医療で行うことができないのは、polscope法(紡錘体を確認しながら顕微授精して異常受精を防ぐ技術)、ZPF(透明帯除去培養)、PGT-A(ごく一部先進医療で行われているが実質自費)、ヘパリン培養あたりでしょうか。ただ、これらは多くの方に必要なオプションというわけではありませんので、先進医療の広がりとともに、保険採卵でできることはだいぶ増えてきました。

 

しかし、それでも、高FSHでエストロゲン補充が必要な場合、下垂体機能低下や卵巣機能低下があり卵胞発育に著しく時間がかかる場合、通常のHMG製剤では卵胞が育たずlow dose hCG療法を必要とする場合、dual trigger(ダブルトリガー、トリガーとして点鼻薬とhCGを併用する方法)、ブースタートリガー(採卵前日にダメ押しでトリガーをする)、あるいはGnRHアゴニスト注射(ルクリン)、抗セントロメア抗体に対するプレドニンやIVIG(免疫グロブリン)、クロミッドを6日以上継続して使用したい場合、クロミッドとレトロゾールを併用したい場合、ゴナールエフを1日300単位連日注射したい場合、注射の量を途中でフレキシブルに増減させたい場合は保険適応外です。卵巣機能が正常で受精もうまくいき、胚発生も比較的うまくいく場合は保険で何も問題はない一方、つまずいた時には、自費での治療が必要になることは、まだまだあります。

 

 

問題は、保険で採卵した場合は、その後の治療も全て保険の範囲内でのみ行う必要があるということです。胚移植について保険適応もしくは先進医療で行うことができるオプションは、SEET法、前周期スクラッチ法、2段階移植法、エンブリオブルー、アシステッドハッチングです。一方で、移植周期のスクラッチ、G-CSF子宮内注入(あるいは皮下注)、子宮内hCG注入、PRP療法、SHED注入法、ピシバニール注射、プレドニン内服、イントラリピッド、IVIG(免疫グロブリン)、ヘパリン、バイアスピリン等は保険適応外です。もちろん最初は普通に移植すればよいと思いますが、2~3回移植してもうまくいかない場合、移植方針がワンパターンになりがちです。

 

しかし、何かしようと思うと、採卵は保険で行ったが自費でしかできないオプションがしたいので移植は自費で、ということは基本的に不可ですので、自費で採卵しなおしてオプションを検討するか、メインのクリニックで保険で採卵しつつ、こっそり?サブのクリニックを受診して何か自費の検査や治療を相談するか(これを混合診療と考えるかどうかは、はっきりした判断がなされていないのでクリニックによって対応が分かれる)、それとも我慢して保険で規定回数内の移植を継続するか。ちょっとなんだかなという感じです。自費でしかできない治療は国に認められなかった治療だ、みたいな言い方をされる医師もおられますが、全員に効果的ではなくても一部の人には確実に効果的であるという治療は色々あります。限られた治療のみであきらめてしまうのは、ちょっともったいないです。

 

 

他院に初診していて、なかなかうまくいかず相談に当院に来られる方の多くは、保険回数を使いきるちょっと前くらいに、「あとはできることがないから、移植を繰り返していくしかない」と説明されたものの納得がいかず、40歳以上は保険移植2回くらいで、39歳以下の場合は、保険移植3~4回くらいで相談に来られることが多いです。自費で行える検査や治療が全て自分にとって必要なものばかりではないにせよ、検査や治療の幅の広さに驚かれる方が多いです。

 

移植回数が残っている場合は、環境を変えて一度当院で保険で採卵して状況をつかみ、それでもうまくいけば一番いいし、そうでない場合は当院での保険採卵の情報をもとに何が必要なのか判断して自費での採卵・移植に踏み切るとよいと思いますので、保険移植回数が残っているうちにご相談に来られることをお勧めいたします。

 

 

もちろん向き不向きもありますので、治療歴から最初から自費治療に踏み切った方がよいのではないかと思われるケースもありますが、その場合はなぜ、何が必要なのかよくご説明の上で、治療内容をお選びいただくようにしています。

 

コスト面はもちろん重要ですが、自費で高額な治療費となった場合でも医療費控除や、先進医療に対する助成金、あるいは東京都港区のように自費治療に対する従来型の助成金が出る自治体もあります。保険で治療するか、自費で治療するかということを選ぶというよりも、自分にとってどういう検査や治療が必要かということが一番大切であり、それが保険でできるのか自費でしかできないのか、という観点で治療選びをされるとよろしいのではないかと思います。

 

 

当院はオプション検査や治療のご相談や、流産を繰り返している方に対する専門的な不育症検査・治療、PGT-Aのご相談も含め、あらゆることに対応できる引出しは多いことが特長のクリニックです。皆様のご来院をお待ちしております。