不妊治療の当事者はご夫婦です。そして、どの程度ちゃんと説明されているかは医師やクリニックにもよるだろうし、どの程度ちゃんと同意書や説明書類を読んで理解しているかはご夫婦にもよるでしょうが、少なくとも形式上は、様々なメリットやデメリットについて理解して、リスクについても納得して不妊治療を受けていることになっています。

 

しかし、以前から時々書いていますが、もう1人の当事者である、生まれて来るお子さんは、不妊治療自体にも不妊治療のリスクにも同意していません。生まれて来るお子さんの立場や気持ちには想いを馳せて欲しいんですよね。もちろん、ことさらリスクを気にしていては妊娠なんてできません。そもそも、母体にも子供にもリスクがない妊娠なんて、この世に存在しないです。母体(卵子)年齢が高くなれば子供の染色体異常は増えるし、母体(体)年齢が高くなれば、妊娠糖尿病や妊娠高血圧などの妊娠合併症は増えますが、不妊治療をしたかどうかにかかわらず、何歳で妊娠しようが、それがどれほどハイリスク妊娠だろうが、子供が欲しいという気持ちは生物の根源的な気持ちです。そこは本質的には否定したくはないです。

 

ただ、時々、母体の生命に影響するようなリスクがあるようなハイリスクな状態にさらされる可能性があることを知った上で、「私はどうなってもいいので」みたいなことおっしゃる方がおられるんですが、こういう発言はすごく違和感があります。あなたがあなたの意思でどうなろうと自己責任だし、最悪死んじゃえば分からないけど、残された夫や親、あるいはお子さんはどうなりますか、どんな気持ちになりますか。「私はどうなってもいい」なんて、何勘違いして悲劇のヒロイン気取っているのか知りませんけど自分勝手だなと思います。

 

多胎になっても頑張りますも似たような部分があって、もちろん本人は自分で決めたんだから頑張ったらいいけど、自分だけで子育てできるわけじゃないし結局周囲を巻き込む、それでも双子くらいまでなら何とかなりますが、三つ子以上になれば超低出生体重児での出生は必発であり、子供の運動発達・精神発達にも影響する可能性があるわけで、自分だけの問題じゃないんですよね。病院にとっても、仕事とは言えNICUを3床半年占有されれば影響はそれなりにあります。ちっちゃい3つ子入院して来たら、いくら専門でもしばらくめちゃくちゃ大変です。

 

不妊治療って夫婦でするものだし、新しい家庭の形を築く治療である以上は、自分の妊娠ということじゃなくて、家庭の未来像を描いて欲しいし、必要以上に熟慮はしなくてよいがちょっとは親のことも考えて欲しいし、妊娠リスクを考えるって、そういうことだと思うんですよね。それが母体リスクであっても、多胎のリスクであっても、妊娠の先には子育てがあり、1人1人の子どもの人生・将来があるわけで、そういうところまで考えるのが親の役割だと思うんですよね。

 

ただ、ここまでリスクを強調しておきながらなんですが、最初にも書いた通り、ことさらリスクばかり考えすぎても何もできなくなってしまうわけで、リスクだけを重視すればいいとも思いません。治療の成果に大きな影響がない程度に、移植個数であったり体質改善であったり、避けられるリスクは避けつつ治療を進めていく、そのバランス感覚が大切で、そしてそれは意外と難しくて、それは治療を受ける当事者のご夫婦にとっても医師にとっても考え方は多少は違うと思いますが、気になることがあれば医師もそのあたりはちゃんと説明するべきだし、少なくとも当院ではちゃんと説明しているはずで、説明を受けて夫婦でもちゃんと考えたという事実はとても大切なことなんじゃないかと思います。