・・・こんな題名の記事を書くくらいだから、2倍にはならないんでしょうけど、じゃあどうなんでしょうか。ということで、今日は、2個移植について、数学的見地から解説していきたいと思います。

 

もちろん、人間の体はそんなに計算通りにはなりません。理論値と実測値は常に異なります。とは言え、理論値上はどうなるのかということを知っていることは大切なことです。

 

女性年齢28歳で良好な胚盤胞(4AA)が2つあったとしましょう。移植は今回で初めてだとします。初回の移植で1個移植を行って妊娠する可能性を仮に60%だとします。1個移植と2個移植では妊娠率はどのくらい違うでしょうか。

 

この場合、胚に名前をつけます(胚Pと、胚Q:AとかBとか呼ぶとグレードと紛らわしいので数学っぽくPとQにしてみました)。1個移植で妊娠する確率は60%です。2個移植する場合、「①PもQも着床した」「②Pは着床したがQは着床しなかった」「③Pは着床しなかったがQは着床した」「④PもQも着床しなかった」の4通りです。2個移植での妊娠率は、数学的表現すれば、「PとQのうち、少なくとも1つが着床する確率」ということになりますので、

 

2個移植での妊娠率=①+②+③ あるいは、

2個移植での妊娠率=1 - ④

 

のいずれかで計算することになります。①は0.6×0.6=0.36 (36%)、②は、Pが着床する確率0.6に、Qが着床しない確率1-0.6=0.4をかけるので、0.6×0.4=0.24(24%) ③はPとQが逆になるだけで0.24(24%)、④は0.4×0.4=0.16(16%)になりますので、2個移植の妊娠率(少なくとも1つが着床する確率)は84%になります。60%と84%、違うといえば違いますし確実度はだいぶ上がったような感じもいたしますが、もともとの確率が高いので、ものすごくメリットがあるようにも思えません。一方で、多胎率は(一卵性を除くと)36%もあります。妊娠率が6割から8割に上昇することと引き換えに、4割近い多胎のリスク負うことになるわけですから割に合いませんね。従って、妊娠率が高そうな場合は2個移植は回避することになります。

 

 

では、43歳でまあまあの初期胚が2個あったとしましょう。計算を分かりやすくするために、1個移植を行って妊娠する可能性を仮に10%だとします。1個移植と2個移植では妊娠率はどのくらい違うでしょうか。

 

上記と同様の計算を行うと、①が0.1×0.1=0.01(1%)、②③は0.1×0.9=0.09%ずつ(9%)、④は0.9×0.9=0.81(81%)となります。つまり1個移植だと妊娠率10%だった初期胚は2個移植した時にいずれかが着床する確率は19%と2倍には届かないがかなり2倍に近くなります。一方、多胎率はたった1%にすぎません。上記の多胎率36%に比べたらほとんど無視できるくらいのリスクです。この程度のリスクなら初回の移植でも2個移植することは許容できると思います。

 

ちなみに、同じ条件の胚で1個移植と3個移植(P、Q、R)で確率を比べると、3個移植の妊娠率は、1 - (0.9×0.9×0.9) = 0.271で、約27%となります。一方で、多胎率は、品胎(全て着床)+PとQが着床しRは着床しない+QとRが着床しPが着床しない+PとRが着床しQが着床しないの合計ですから、(0.1×0.1×0.1) + (0.1×0.1×0.9) + (0.1×0.1×0.9) + (0.1×0.1×0.9) = 0.028 (2.8%)にすぎません。年齢的に全てが妊娠継続するとも限りませんので、実際に多胎のまま出産に至る確率は減りますし、3つ初期胚があって全部が良好初期胚ということもそうそうないでしょうから、実際の多胎率はさらに減ることが考えられます。

 

もちろん、高齢多胎妊娠は、よりハイリスクな妊娠となりますので、安易に多数個移植を容認して多胎を量産するのはナシですが、胚のグレードや年齢、治療経過により3個移植くらいまでなら許容できるとの考え方もあり得るというのがお分かりいただけると思います。

 

つまり、妊娠率が良い胚の場合、複数個移植してもさほど妊娠率は上昇せず、多胎リスクが悪目立ちする傾向にある反面、妊娠率があまりよくない場合は複数個移植するメリットがしっかりある反面、多胎率はさほど高くない、ということが言えるわけです。

 

 

よく、1個ずつ移植するのと2個まとめて移植するのはどちらがよいでしょうか、という質問があります。前者により近い状態の方には、1個移植をお勧めします(あるいは2個移植はできません)と説明します。後者の場合、1個ずつ移植しても2個まとめて移植しても最終的に出産に至る確率はあまり変わらないでしょう。(複数個まとめて移植しないと妊娠しない方がおられるのは確かですが、そういう方もおられます、ということであって、そういう方が多いわけではありません) しかし、2個まとめて移植したほうが効率よく移植の時間やコストの節約になるだけでなく、2個移植して両方妊娠して片方が妊娠継続できなかった場合でも妊娠は継続できるので、理論上は流産率も若干減ることになりますので、2個移植は検討すべき選択肢になってくるわけです。

 

ということで、今日は、2個移植について数学的見地から解説いたしました。

 

最後にもう一度書きますが、人間の体はそんなに計算通りにはなりません。理論値と実測値は常に異なります。計算にとらわれすぎるのは禁物ですので、あくまでも参考程度にお読みいただけますと幸いです。では、今日はこのあたりで。