今日はシリーズ「受精卵の質の向上」、体外受精前の準備についてです。

 

当院では生殖医療(体外受精・顕微授精・胚移植)に入る前には事前検査を実施しています。ホルモン採血は各治療周期に行うとして、それ以外の事前検査としては、卵巣機能や排卵等に関する採血検査(AMH、血中DHEAs、テストステロン、ビタミンD、甲状腺)、それ以外に過去に移植したが着床していないとか流産してしまった等があれば、着床や流産に関する検査を実施します。今回は、「受精卵の質の向上」と題していますので、卵巣機能や排卵に関する部分にスポットを当てていきます。

 

1)AMH

言わずもがな、卵巣機能に関する検査の代表はAMH、横文字で書くとanti-Müllerian hormone(アンチミュラリアン ホルモン)、日本語っぽく書けば、抗ミュラー管ホルモン、です。

 

AMHは、そもそも性の分化にかかわるホルモンです。受精卵には性染色体がありますが妊娠初期までは全く同じように育ち、最初は男女ともに、子宮や卵管のもととなる「ミューラー管」と、精管や精嚢になる「ウォルフ管」が存在し、男性の場合は、精巣から「抗ミューラー管ホルモン」と「男性ホルモン(テストステロン)」が分泌されてミューラー管が退縮してウォルフ管優位となり男性となり、女性の場合は精巣がないので、「抗ミューラー管ホルモン」と「男性ホルモン(テストステロン)」が分泌されないため、ミューラー管が退縮せず子宮や卵管ができるのです。ちなみに、外性器も、基本は女性型であり、精巣から男性ホルモンが分泌された場合のみ男性型になります。ご想像の通り、成人男性にもAMHは存在しています。男性になるはずのホルモンが卵巣機能を反映しているなんて、おもしろいですね。

 

AMHは徐々に「様々な環境の影響を受けにくく比較的一定で徐々に低下」みたいなイメージあると思いますけど、AMHって意外と変動します。こんなこと書いちゃっていいか分かりませんが、毎月月経中に測定しても結構変動するし、排卵誘発剤やピルを使うと一時的に低下したり、月経中と排卵後でも値は違うし、測定機器(業者)によっても値がちょっと違うし、3年前より今の方が値が高いとか全然あるし、3回測定したらどんどん上昇した、なんて方もおられて説明に苦慮します。逆に、AMH 0.02なのに排卵誘発剤に反応して毎回複数の卵胞が見えて、ほんとかよみたいな方もおられます。「様々な環境の影響を受けにくい」はちょっと言い過ぎ、患者さんが思い描いているようなイメージとは多少異なります。

 

ただ、それでも月経中のFSHの数値(FSH基礎値)や月経中のエコー所見みたいに、色々な影響受けまくって毎月全然違うみたいな指標に比べればはるかに変化が少ないのは確かです。AMH検査が一般的にできるようになって普及し始めた時は、もう業界全体が衝撃で、医師はみんな「(FSH基礎値やエコー所見に比べれば)様々な環境の影響を受けにくく」卵巣機能を正確に測定できるスゴい検査が登場したと感動したので、いまだにその時のイメージで語られることが多いのではないかと思います。いずれにしても、ざっくり本人の状態をつかむ上で有用な検査であることには変わりがありません。

 

AMHは上記のように実際には変動しますので、細かい数値まではあまり重要ではなくて「めっちゃ高い(10~)」「高い(6~9)」「正常(高)(4~5)」「正常(低)(2~3)」「低い(1前後)」「かなり低い(0.1前後)」「めっちゃ低い(0.05未満)」の7段階くらいに分けられれば十分(注:上記の分類は、そんなに間違ってはいないと思いますが、あくまでも筆者の主観で客観的な指標ではありません)で、これらはFSH基礎値と月経中のエコー所見をみれば、このどれに該当するかは、ざっくりなら想像がつきます。

 

AMHの測定は、もちろん卵巣刺激の選び方に重要なのですが、卵巣の反応を予測する意味もあるのですが、高刺激をした場合にOHSSのリスクがどのくらいあるのかという観点でも重要です。自然周期・低刺激系のクリニックの中には、AMH採血を必須としていないクリニックもありますが、高刺激するわけじゃない(OHSSのリスク評価がいらない)し、見れば大体分かるから、まあいいでしょうと考えているのでしょう。

 

しかしFSH基礎値と月経中のエコー所見からの想像がはずれることもありますし、何よりも、現時点では卵巣機能を推定するのにAMHを超える検査は登場していませんので、AMH検査が重要であることには変わりがないと思います。

 

少し長くなりましたので、血中DHEAs、テストステロン、ビタミンD、甲状腺、食生活、BMI、東洋医学、その他については、次の記事にします。