第2子、3子を希望される方は意外と多く、正確に統計を取ったわけではありませんが、当院でも通院されている方のうち3人に1人くらいは第2子以降をご希望の方ではないかと思います。当院卒業時にお渡しする用紙(東京版)には、「卒乳して月経が再開してからご来院ください」的なことが書いてあるのですが、中には、まだ授乳しているのですが検査・治療はできますか、というお問い合わせやご相談が時々あります。

 

この問題は、いくつかの観点があって、

1)授乳中の排卵障害について

2)授乳中に検査をした場合の検査の正確性

3)授乳中に検査や治療を行うにあたって薬剤が必要な場合の、薬剤の乳汁移行の問題 

  (特に授乳中に使用禁忌の薬剤の存在について)

4)授乳中に妊娠することは問題ないのか

の4つに分けられます。1つ1つ検証していきましょう。

 

1)授乳中の排卵障害について

授乳中は高プロラクチン血症となりますので、月経が再開しない、あるいは再開しても排卵がうまくいかないことはよくあります。哺乳類としては、とりあえず目の前の子どもがちゃんと育つことが大事である(生物学的観点からは目の前の子の子育てを犠牲にしてまで次の子の妊娠ができる状態にする必要はない)というのは自然の摂理としても理解しやすいでしょう。もちろん授乳していても月経が再開してちゃんと排卵する方もおられますが、月経不順が生じれば妊娠はしにくいし、検査をするにしても、月経〇日目に行うみたいな検査は基本的に組みにくくなります。このあたりは、授乳中の不妊検査・治療の大きなハードルの1つです。

 

2)授乳中に検査をした場合の検査の正確性

乳頭刺激によりプロラクチンというホルモンの数値は通常上昇します。つまり授乳すると高プロラクチン血症になります。また乳頭刺激は子宮収縮を刺激するオキシトシンの放出を促進し、子宮収縮の原因になることもありますので、子宮収縮検査にも影響する可能性があります。

 

3)授乳中に検査や治療を行うにあたって薬剤が必要な場合の、薬剤の乳汁移行の問題 

薬によっては授乳中は使わない方がよい薬もあります。例えば多くのホルモン剤の添付文書には「授乳中は本薬剤は使用しない」と明記してあります。また、一部の抗生剤(テトラサイクリン系やニューキノロン系など)も授乳中は使用しないことが望ましいとされています。そのような記載がない薬剤であっても乳汁移行する薬剤は少なくありません。

 

誤解のないように強調しますが、授乳中は投与しないことが望ましいとされている薬剤であっても、ただちに問題が起こるとは考えにくく、長期かつ大量でなければ乳汁移行程度で大きな問題は起こらないものが多いと思われます。しかし、妊娠中のお薬の内服は気にする方でも、授乳中はあまり気にしない方が多いですが、少なくとも授乳中の内服は好ましくないとする薬剤は少なからずあるのは確かですので、注意は必要です。

 

4)授乳中に妊娠することは問題ないのか

以前は授乳の乳頭刺激による子宮収縮により、切迫流早産や流産・早産そのものが増えるのではないかと考えられていました。しかし、2017年に出た有名な論文でそれらは否定され、妊娠中の母乳育児は、流産率、早産率、出生時体重は変化がない(つまり授乳中に妊娠しても授乳をやめる必要はない)とされています。

 

 

自然妊娠する分には4でご説明した通り授乳しながらの妊活・妊娠は何も問題ないのですが、実際に検査や治療をするとなると1~3の問題が生じます。

 

日常的な授乳までいかなくても、寝る前にちょっとというのがやめられない、ということも多いと思います。また、コミュニケーションの一環として続けたい、やめるのは寂しい、色々な事情やお気持ちもあることと思います。しかし、本気で卒乳しようと思えば、腹を据えれば1週間程度あれば、あれだけおっぱいに執着していたお子さんが嘘のようにケロっとしているものです。なかなかやめられない、などと子供のせいにする方も多いのですが、もちろん色々なタイプのお子さん、色々な事情を抱えたご家庭もあることでしょうけれども、実際には単に親の本気度の問題であることが多いのではないかと思います。

 

授乳をせずともコミュニケーションの方法はいくらでもありますし、薬剤の乳汁移行の問題なども考慮すれば、できれば検査や治療を開始する前に卒乳していただくのが望ましいということになるのではないかと思います。従って、原則として卒乳・月経再開してからご来院くださいとご案内しております。なお月経不順でなかなか生理が来ない方は、月経を起こすところから始めることもできますので卒乳したらお越しください。

 

ということで、今日は授乳と検査・治療についてお話いたしました。今日はこの辺で。