シリーズ第5弾は、母体の不育症検査についてです。

 

先に書いた通り、流産の原因は受精卵・胎児の染色体異常によるものと、それ以外のもの(母体要因や環境要因)があります。いわゆる不育症検査(ここで不育症検査とは、母体の不育要因を調べるための、凝固系や抗リン脂質抗体等の採血検査を示すことにします)はいつ行うべきなのでしょうか。

 

まず第一に、母体に何一つ問題らしきものがなかったとしても、あったとしても、受精卵・胎児に染色体異常(染色体異常があっても妊娠継続できるものもあるが、ここでは妊娠継続できないような異常、以下同じ)があれば妊娠継続する可能性はないということです。精密な不育症検査を行って何らかの対策を行って妊娠継続を目指したところで、受精卵・胎児に染色体異常があれば妊娠継続はしないということです。

 

受精卵・胎児の異常は、母方もしくは父方に染色体の構造異常(転座など)があり、それが受精卵に伝わったものと、卵子あるいは精子の異常あるいは受精時や分割時に起こった偶発的な染色体異常(多くは数の異常)があります。前者は年齢の影響を受けませんが、後者は年齢の影響を受けます。

 

 

まずは出産歴がなく、3回以上の流産をしている場合は、まず第一に流産時の絨毛染色体検査は受けたほうが有益と思われますし、夫婦の染色体検査も考慮するべきでしょう。もし1回でも絨毛染色体検査の結果が正常(赤ちゃんには問題がなかった)であれば、母体要因の流産を考慮することになります。ただし、Gバンド法による絨毛染色体検査の場合、46,XXと結果が返ってきた場合の信頼性が低いことに注意は必要です。受精卵・胎児の染色体に異常がなかった場合は、PGT-Aをしても流産率は低下しない可能性がありますので、PGTは積極的には考慮しません。

 

絨毛染色体検査の結果が異常だった場合は、その異常の内容が、染色体転座を含むものなのか、あるいは数の異常のみなのかによって話は変わってきます。受精卵・胎児の染色体が夫婦のいずれかの染色体に転座が存在することを示唆するものであれば、まず第一に夫婦の染色体検査を行い、必要があればPGT-SR(受精卵の染色体検査のうち、染色体転座を検出できるもの)を行うことになります。一方、染色体異常はあるが数の異常だけを疑う状況であれば、PGT-Aを行うかどうか考慮することになります。

 

女性年齢が35歳以下で夫婦の染色体が正常であれば、たまたまその時は運悪く染色体異常の受精卵を引いてしまったものの、一般的な受精卵・胎児の染色体異常の頻度が高いとは言えませんので、不育症検査を行った上で、移植はPGT-Aはせずに行い、必要に応じて妊娠後に不育症検査で引っ掛かったことに対する治療を並行します。ただし移植個数を2個にするのは時として有効です(染色体異常受精卵と、染色体正常受精卵があった場合、両方着床した場合は染色体正常受精卵が妊娠継続する側に経過が引っ張られます)。一方、女性年齢が35歳以上で過去の絨毛染色体検査の結果が異常だった場合は、不育症検査は、もちろんしてもよいのですが、どちらかといえばPGT-Aを考慮することになります。

 

 

ただし、不育症検査は、施設により検査項目や、異常値に対する考え方・方針はまちまちです。もちろん、どれもそれなりに根拠があって成り立っている検査や治療ではあると思いますので、どれが正しい・間違っているというものでもないと思うのですが、、言うなれば、受験勉強の方法とか野球のトレーニング方法に賛否両論色々なものがある、みたいなものに近いかも知れません。

 

ですから、患者さんが、「不育症の採血は一通りやって全部異常ありませんでした!」とおっしゃっていても、「でも、まだ当院的にはやってない検査結構あるので、全部やってるという感じではないです」という場合もあるし、それは他院からみれば不必要に細かい検査ということになるかも知れません。「これは当院でしかできない検査です」のようなものを売りにするクリニックもありますが、もちろん有効な検査である可能性もありますが、穿った見方をすれば、他の誰も採用していない・コンセンサスのない検査であるとも言えます。本当に有益だったら他のクリニックも採用するはずですし、患者さんのことを考えれば「独自の検査」を世界に広める努力をするべきです。

 

治療についても、アスピリンばかり出す施設、抗不安剤ばかり処方する施設、逆に、検査や治療に否定的でほとんど薬を出そうとしない施設、どれがどうというわけではありませんが、色々な施設があります。本来は業界全体で考え方を統一すべきではないかと思うのですが、クリニックにとって独自性はアピールポイントにもなり得るし、そもそも不育症自体、不妊症異常に治験しにくい・データを取りにくい分野なので、研究自体進みにくい土壌もあります。

 

ただ、非医学的な書き方になりますが、やはり何もしないのでは今までと同じことの繰り返しになってしまいますから、次回の妊娠を目指すうえでは何かしたいと思うのが人情だし、毎日不安な妊娠生活の中で「すがれる何か」は必要であり、医学的必要性の有無だけでドライに割り切って治療を提供すればそれでよいのか、という部分もあります。もちろん、だからといって何でもやればよいというわけではなく、不必要な過剰医療はダメですが、ある程度異常をしっかり検出して、内容を踏まえた治療をできればそれが一番です。なかなか難しいところですね。

 

当院では、凝固系、抗リン脂質抗体、免疫系、耐糖能、甲状腺抗体、ビタミンD、銅亜鉛検査、子宮鏡検査など、一通りの不育症検査と、バイアスピリン、ヘパリン、イントラリピッド、免疫グロブリン、ピシバニール、プレドニン(ステロイド)等の一通りの不育症検査のラインナップを整えておりますので、不育でお悩みの方も、ぜひご相談にいらしてください。