夫婦の染色体検査に続き、今夜は絨毛染色体検査についてお話します。絨毛染色体検査とは流産した時の胎児の染色体に異常があったのかなかったのかを検査するものです。異常があれば、胎児の染色体異常が原因で流産したことになり、また胎児が正常であれば、それ以外の原因で流産したことになりますので、流産の原因を突き止める決定的な検査となります。

 

 

ところで、夫婦の染色体検査は、血液(中の主にリンパ球)の染色体を調べます。採血ですので、必要なだけの生きた細胞を得ることができますので、検査としては比較的容易です。

 

染色体検査には、FISH法、G分染法(Gバンド法)、スニップアレイ、アレイCGH法、次世代シーケンサー(NGS法)など様々な方法があります。これらの方法は、言葉アレですが、ちょっと聞いて簡単に違いが分かるようなものでもないのですが、例えば23種類46本の染色体を(1番~22番と性染色体が2本ずつ)、23種類の百科事典が2冊ずつあったと例えれば、FISH法は、そのうち数冊百科事典の存在の確認(No.5とNo.8の百科事典が存在するかどうかが分かる程度の検査、つまり全体を検査するには全く不向き)、Gバンド法は46冊の百科事典が外見的原形をとどめて46冊ちゃんとそろっているかどうかの検査、アレイCGHやNGS法は、23種類の百科事典のうち、各百科事典ごとに事前に決めたページ(例えばNo.1の百科事典なら1ページ目、10ページ目、13ページ目、30ページ目・・など)がそれぞれちゃんと1ページずつ存在するかどうかを検査する方法です。

 

そして、Gバンド法は一定以上の数の細胞が生きており細胞分裂(成長)を続けていないと検査できない方法であり、アレイCGHやNGS法はDNAさえ抽出できてしまえば細胞自体は少量でも、細胞が死んでいても検査可能な方法であるという特徴があります。

 

また、Gバンド法は、百科事典が原形をとどめて46冊そろっているかどうかの検査ですので、例えば、No.3の百科事典の前半と、No.5の百科事典の前半が入れ替わってしまい、前半はNo.3だが後半はNo.5の百科事典と、前半No.5で後半No.3の百科事典が存在した場合(=染色体転座)も検出できます。

 

しかし、アレイCGHやNGSは、ページを抜き出して検査しているだけですから、前半はNo.3だが後半はNo.5の百科事典と、前半No.5で後半No.3の百科事典が存在したとしても、百科事典のページの総数自体に増減がなければ(=均衡型転座の場合は)異常を検出できません。ただし、No.3の前半だけ3部あって、No.5の前半は1部しかないなどページの総量に異常がある場合(不均衡型転座の場合)はアレイCGHやNGSでも検出できます。

 

夫婦の染色体検査は、採血で行いますので、生きている細胞が十分取れることに加えて、染色体転座の有無も調べたいですので、Gバンド法で実施します。一方、受精卵の染色体検査は、検査に出せる細胞は高々5個程度ですので細胞が少量ですので、Gバンド法で検査するのは事実上不可能であり、アレイCGHやNGSでしか検査できません。

 

 

では本題ですが流産絨毛染色体検査はどうでしょうか。検体量が比較的豊富なことが多いので、一般的にはGバンド法で検査を行います。しかし、胎児が小さなうちに流産した場合は検体が少ない(細胞数が少量)、胎児の成長が止まってから時間が経っている場合や、流産してから検査会社に送るまでに時間がかかる場合は細胞が生きていない可能性がある、この検査は検体が清潔であることが大切なので、自宅排出検体のように清潔度に懸念がある場合は検査できないことが多い、母体細胞の混入により胎児の染色体が調べられているとは限らない(母体の細胞が検査されてしまうことがある)など問題点もあります。一方で、流産胎児に均衡型転座があった場合でも検出できますので、夫婦の染色体検査を行わないまま流産絨毛染色体検査だけを行った場合に、夫婦のいずれかに転座があることが暗に分かることがあるなどのメリットもあります。

 

一方、NGS法で絨毛染色体検査を行う場合、胎児が小さなうちに流産しても検査できることが多い、DNAさえ破壊されていなければよいので胎児の成長から時間がかかっていても自宅排出検体であっても問題なく、また絨毛組織だけを顕微鏡で区別して検査することにより、母体細胞の混入も理論的にはゼロに等しくなるなど、Gバンドによる欠点の多くを克服しています。また、モザイクの検出率も高いです。ただし、均衡型転座があっても検出できないデメリットもあります(ただし、流産絨毛染色体検査の結果が均衡型転座だった場合、それ自体は流産の原因にはなりません。夫婦の染色体検査が心配であれば別に夫婦の染色体検査を行っておけばよいだけです)。

 

当院では、上記のメリット・デメリットを考慮して、NGS法で流産絨毛染色体検査を行っております。