連載3回目の今日は夫婦の染色体検査について書いてみたいと思います。

 

染色体というのは、遺伝子の集合体で、1番から22番までの常染色体が2本ずつ(22×2=44本)と、XXもしくはXY(性染色体はXが2本もしくはXとYが1本ずつ)で合計46本からなります。46本の染色体は、2万数千のDNAからなり、DNAは60億個(30億対)もの塩基から成り立っています。大小関係をざっくり表現すると、染色体>DNA(遺伝子)>ゲノム(塩基)という関係です。

 

よく染色体検査のことを遺伝子検査とおっしゃる方がおられますが、そう表現する気持ちは分かるのですが、遺伝するしないというのは、遺伝子(DNA)レベルのことが多いのですが、生殖医療では、もっとざっくりとした集合体である「染色体」が検査の対象となります。

 

 

これが正常な男性の染色体です。見て分かる通り大きい順に並んでいますが、発見順の関係で21番より22番の方が大きくなっています(22番が一番最後の発見)。22番は太陽系でいうと冥王星みたいなもの?(太陽から遠い順に水金地火木土天海冥と言っていたのが、ほんの一時期だけ順番が入れ替わり、水金地火木土天冥海という時期がありましたが、その順番入れ替えみたいなものを彷彿します。ただしその後2006年に冥王星は太陽系第9惑星の座を失い、準惑星に格下げされました。染色体21、22番は格下げとかそういうのはありませんが)

 

話がそれました。染色体の異常には2種類あって、数の異常(例えば21番が3本あるとか、1番が1本しかないとか)と、構造異常(例えば13番と14番が合体してしまったとか、5番と9番の1本ずつの下半分ずつだけ入れ替わってしまったとか)があります。

 

数の異常がある場合、ごく少数の例外を除いては生まれて来ることはできません。複数の箇所に数の異常がある場合は、妊娠が成立しないか化学流産どまり、1か所でも1本の箇所がある場合も大半は妊娠が成立しないか化学流産(ごくまれに流産まで行くが出生はしない)、1か所だけ3本の箇所がある場合は流産まではいきますが、13、18、21番が3本ある場合以外は出生することはありません。13、18番が3本ある場合は生まれてくることはありますが小さいうちに亡くなります。21番が3本ある場合はダウン症候群として成人まで生存できます。(性染色体の異常がある場合の多くは出生可能ですが話が複雑になるので、本稿では省きます)つまり、ダウン症であることが明らかである以外、不妊治療の当事者の染色体検査をして数の異常が出る可能性は、まずありません。

 

染色体の数の異常の多くは卵子や精子ができる段階や受精の段階で異常が生じます。従って、夫婦の染色体は正常でも、卵子や精子、あるいは受精卵の染色体に数の異常は生じることは十分あり得ることです。不妊や不育の原因となる、受精卵の染色体異常の大半は、染色体正常の父母からできた受精卵の染色体に数の異常が生じたものです。

 

一方、構造異常はどうでしょうか。構造異常があっても、染色体の総量が正しければ生存可能なので、5番と9番の1本ずつの下半分ずつだけ入れ替わってしまったとしても、過不足が生じない限りは本人は健康体となります。しかし、卵子や精子ができるときに染色体の半分ずつを受け継ぎますので、入れ代わってしまった染色体が悪い風に卵子や精子に受け継がれてしまうと、染色体異常のある受精卵ができることになります。すなわち、父母のどちらかの染色体に構造異常があった場合は、異常な受精卵ができやすくなります。

 

夫婦の染色体検査をした時に分かる異常の大半は構造異常ですが、夫婦の染色体検査をした場合の異常の頻度は意外と低く、2回以上の流産を経験した夫婦のいずれかに染色体異常が存在する確率が5%とか、3回以上の流産を経験した夫婦のいずれかに染色体異常が存在する確率が7%などと言われます。

 

染色体検査をしましょうというと、自分たち夫婦が絶対に出産できない状態かどうかが怖いという方が時々おられますが、もちろん、理論的には、染色体の構造異常の中には絶対に健常児が生まれてこない異常も存在しますが、非常に低頻度であり、筆者も実際に出会ったことは一度もありません。

 

染色体が正常でも流産する可能性は10%あり、原因不明の流産も少なくないほか、染色体が正常でも妊娠しないことも少なからずありますので、受精卵の染色体だけが流産に直結するわけではない点には注意が必要です。